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第27話 悶絶は後から来るタイプ
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朝。
HR前の時間。段々と教室内に人が増えだした時間帯。
教室の真ん中の後ろ席。いつもの席に腰かけて、俺──枚方京太はスマホを眺める。
興味もない記事に目を通すが頭の中は昨日の事でいっぱいだった。
『優乃の方がキラキラ輝いてるよ』
『じゃあ命令。もう少しだけこうしててくれ』
イタタタタタタッ! イッター! 痛い、痛い。普通に痛い奴。めっちゃ語った後の決めセリフ痛っ!
だって、え? どうして昨日の夜は気が付かなかった? 昨日の夜に気が付けよ。優乃と分かれた後に悶絶しろよ。それなのに、優乃から電話来て。
『また……用事がない時でも電話しても良いか?』
じゃないんよ! なにを自分で痛さ大盛りにしてんだ!
そして俺は、なにを気持ち良くお布団でおやすみして、普通に朝ご飯を喉に通した。
朝ごはんを食べたのなら、もう気が付くなよ。むしろ痛さに鈍感になってろよ。どうして朝の教室でふと思い返して悶絶してんだ!
「ぁぁぁ……」
教室で小さく声を出す。
まぁ? 幸いにも優乃はその点に関してあまりいじって来なかったというか、気が付いてないというか。
ともかくだ。普段通りいこう。昨日の痛さは忘却の彼方へフライアウェイ。
「枚方くん?」
ひっぐっ!
なんとか声を抑えて驚くリアクションを我慢した。
まさか、朝一で優乃が俺に絡んでくるとは思わなかったが、ここは平常心を保ち、いつも通りに。
一呼吸入れてから顔を見ると、違う意味で驚かされた。
「夏目、さん?」
俺の目の前にいたのは女バスの夏目さんだった。
2年になって優乃以外に話しかけられるなんて初めてだったので、てっきり朝から優乃が絡んで来たと思った。
「おはよ」
「おはよう」
優乃以外に朝の挨拶をされたのなんていつ振りだろうか。学校でのおはようの挨拶がこんなにも嬉しく思う日がくるなんて思わなかったな。
しかし、俺に話しかけるなんて他の奴から酷い目で見られるぞ、なんて一瞬思ってしまうが紫藤先生の言葉を思い出す。
『安心しろ。お前が思ってる以上に人はお前に関心なんてない』
脳裏に過った言葉を思い出しながら周りを見渡すと、まさにその通り。こちらになんて感心がないというか、視線なんて来ない。
「昨日はごめんね。代わりに日誌やってもらって」
「全然。昨日は時間に余裕あったし大丈夫だよ。気にしないで」
言うと彼女は首を横に振った。
「気にするよー。約束通り、今度お礼する」
「日誌代わっただけでお礼とか俺、どんだけ役得なん」
「くさやで良い?」
「くさや!? 日誌のお礼がくさや!? なら、いらんわ!」
「あはは!」
夏目さんは嬉しそうに、ケタケタと笑っていた。
「流石は枚方くん。朝からノリ良いね」
親指を突き立ててくる。
「そりゃ、どうも」
親指を突き立て返す。
「ね、枚方くん」
「ん?」
改めて俺の名前を呼ぶと、彼女は真っすぐに聞いてくる。
「二股したの?」
少し前までなら、誰も自分の言葉なんて信じてはもらえないだろうと思いとどまっていただろう。
でも、優乃は信じてくれた。俺の言葉を信じてくれた。
だから、もしかしたら彼女も信じてくれるのではないかと思えるようになっていた。
「してないよ」
少し不安だったが、彼女へ真実を告げると、ニコッと微笑んでくれた。
「だよね」
俺の言葉が優乃以外にも届いた瞬間だった。
「1年の頃の枚方くんを見てたからわかるけど、そういうことしそうなタイプじゃないよね。むしろするなら彼女さんの方じゃん」
「俺のこと、見てた?」
首を傾げると、夏目さんは顔を近づけてくる。
「そりゃ枚方くんが私のタイプだからね」
「え……」
ドキッとしてしまった。
女の子に朝からこんなことを言われたらドキドキしない男子はいないだろう。
「ぷっ」
すると、小悪魔的な笑みを見せつけてくる。
「あはは。ドキッとした?」
冗談めかしで聞いてくる夏目さんに乾いた笑いが出てしまう。
「んだよ。冗談かよ」
「そりゃ、あんだけ目立つグループにいたら注目されるでしょ」
「そんな目立ってたのか」
「正直、私あのグループ嫌いなんだよね」
「あ、あははー」
元々いたグループなので、なんとも言えない態度になってしまう。
「なんか、自分達が凄い上って思ってるというか」
「あー」
言わんとしてることはわかる気がする。特に悟と綾香はその毛があったな。
「別に関わらないし、興味ないから良いんだけどさ」
「なんかすみません」
「でも」
言いながら俺を見つめてくる。
「枚方くんだけはみんなに気を配ってたよね」
「そうかな?」
「そうだよ。細かい、誰も気が付かないようなことだけど。それよりも、なんか上からの彼女さんの方が態度でかいし、二股しそうだったよ」
つまり。
「枚方くんは二股の件はあんまり気にしないで良いと思うよ。だから、もっとクラスに溶け込んでも良いと思う」
夏目さんの言葉と共にチャイムが鳴り響いた。
「あっと。もう時間なんだ。じゃあ席に戻るね」
席に戻ろうとする彼女を、「夏目さん」と呼び止めた。
すると、優しく振り返ってくれる。
「夏目さんの言葉。すごい嬉しかった。ありがとう」
素直な礼を言うと、親指を突き立ててくれた。それにこちらも同じようなポーズで返すと、教室内に紫藤先生が入って来る。
「はぁい。席着け~」
脱力感のある指示を生徒達は素直に聞き入れ、教室内の生徒はみな、それぞれの席に着いた。
ふと、自然に視線が優乃の席にいってしまうと、彼女もこちらを見てくれていた。
だが。
「ぅぅ……。ぷいっ」
目が合うと、頬を膨らませて、ぷいっと顔を逸らされてしまった。
HR前の時間。段々と教室内に人が増えだした時間帯。
教室の真ん中の後ろ席。いつもの席に腰かけて、俺──枚方京太はスマホを眺める。
興味もない記事に目を通すが頭の中は昨日の事でいっぱいだった。
『優乃の方がキラキラ輝いてるよ』
『じゃあ命令。もう少しだけこうしててくれ』
イタタタタタタッ! イッター! 痛い、痛い。普通に痛い奴。めっちゃ語った後の決めセリフ痛っ!
だって、え? どうして昨日の夜は気が付かなかった? 昨日の夜に気が付けよ。優乃と分かれた後に悶絶しろよ。それなのに、優乃から電話来て。
『また……用事がない時でも電話しても良いか?』
じゃないんよ! なにを自分で痛さ大盛りにしてんだ!
そして俺は、なにを気持ち良くお布団でおやすみして、普通に朝ご飯を喉に通した。
朝ごはんを食べたのなら、もう気が付くなよ。むしろ痛さに鈍感になってろよ。どうして朝の教室でふと思い返して悶絶してんだ!
「ぁぁぁ……」
教室で小さく声を出す。
まぁ? 幸いにも優乃はその点に関してあまりいじって来なかったというか、気が付いてないというか。
ともかくだ。普段通りいこう。昨日の痛さは忘却の彼方へフライアウェイ。
「枚方くん?」
ひっぐっ!
なんとか声を抑えて驚くリアクションを我慢した。
まさか、朝一で優乃が俺に絡んでくるとは思わなかったが、ここは平常心を保ち、いつも通りに。
一呼吸入れてから顔を見ると、違う意味で驚かされた。
「夏目、さん?」
俺の目の前にいたのは女バスの夏目さんだった。
2年になって優乃以外に話しかけられるなんて初めてだったので、てっきり朝から優乃が絡んで来たと思った。
「おはよ」
「おはよう」
優乃以外に朝の挨拶をされたのなんていつ振りだろうか。学校でのおはようの挨拶がこんなにも嬉しく思う日がくるなんて思わなかったな。
しかし、俺に話しかけるなんて他の奴から酷い目で見られるぞ、なんて一瞬思ってしまうが紫藤先生の言葉を思い出す。
『安心しろ。お前が思ってる以上に人はお前に関心なんてない』
脳裏に過った言葉を思い出しながら周りを見渡すと、まさにその通り。こちらになんて感心がないというか、視線なんて来ない。
「昨日はごめんね。代わりに日誌やってもらって」
「全然。昨日は時間に余裕あったし大丈夫だよ。気にしないで」
言うと彼女は首を横に振った。
「気にするよー。約束通り、今度お礼する」
「日誌代わっただけでお礼とか俺、どんだけ役得なん」
「くさやで良い?」
「くさや!? 日誌のお礼がくさや!? なら、いらんわ!」
「あはは!」
夏目さんは嬉しそうに、ケタケタと笑っていた。
「流石は枚方くん。朝からノリ良いね」
親指を突き立ててくる。
「そりゃ、どうも」
親指を突き立て返す。
「ね、枚方くん」
「ん?」
改めて俺の名前を呼ぶと、彼女は真っすぐに聞いてくる。
「二股したの?」
少し前までなら、誰も自分の言葉なんて信じてはもらえないだろうと思いとどまっていただろう。
でも、優乃は信じてくれた。俺の言葉を信じてくれた。
だから、もしかしたら彼女も信じてくれるのではないかと思えるようになっていた。
「してないよ」
少し不安だったが、彼女へ真実を告げると、ニコッと微笑んでくれた。
「だよね」
俺の言葉が優乃以外にも届いた瞬間だった。
「1年の頃の枚方くんを見てたからわかるけど、そういうことしそうなタイプじゃないよね。むしろするなら彼女さんの方じゃん」
「俺のこと、見てた?」
首を傾げると、夏目さんは顔を近づけてくる。
「そりゃ枚方くんが私のタイプだからね」
「え……」
ドキッとしてしまった。
女の子に朝からこんなことを言われたらドキドキしない男子はいないだろう。
「ぷっ」
すると、小悪魔的な笑みを見せつけてくる。
「あはは。ドキッとした?」
冗談めかしで聞いてくる夏目さんに乾いた笑いが出てしまう。
「んだよ。冗談かよ」
「そりゃ、あんだけ目立つグループにいたら注目されるでしょ」
「そんな目立ってたのか」
「正直、私あのグループ嫌いなんだよね」
「あ、あははー」
元々いたグループなので、なんとも言えない態度になってしまう。
「なんか、自分達が凄い上って思ってるというか」
「あー」
言わんとしてることはわかる気がする。特に悟と綾香はその毛があったな。
「別に関わらないし、興味ないから良いんだけどさ」
「なんかすみません」
「でも」
言いながら俺を見つめてくる。
「枚方くんだけはみんなに気を配ってたよね」
「そうかな?」
「そうだよ。細かい、誰も気が付かないようなことだけど。それよりも、なんか上からの彼女さんの方が態度でかいし、二股しそうだったよ」
つまり。
「枚方くんは二股の件はあんまり気にしないで良いと思うよ。だから、もっとクラスに溶け込んでも良いと思う」
夏目さんの言葉と共にチャイムが鳴り響いた。
「あっと。もう時間なんだ。じゃあ席に戻るね」
席に戻ろうとする彼女を、「夏目さん」と呼び止めた。
すると、優しく振り返ってくれる。
「夏目さんの言葉。すごい嬉しかった。ありがとう」
素直な礼を言うと、親指を突き立ててくれた。それにこちらも同じようなポーズで返すと、教室内に紫藤先生が入って来る。
「はぁい。席着け~」
脱力感のある指示を生徒達は素直に聞き入れ、教室内の生徒はみな、それぞれの席に着いた。
ふと、自然に視線が優乃の席にいってしまうと、彼女もこちらを見てくれていた。
だが。
「ぅぅ……。ぷいっ」
目が合うと、頬を膨らませて、ぷいっと顔を逸らされてしまった。
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