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第58話 高嶺の花に好きバレしてる
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優乃の様子がおかしい。
俺、枚方京太が優乃とカフェのバイトに勤しんでいる時のことだ。
「優乃」
「はひっ!」
名前を呼んだだけで、ビクンと体を震わせて、おそるおそるこちらを見てくる。
「空いたテーブルの片付けしてくれる?」
「は、はい。わ、わかりました」
指示を出すと、ぎこちない様子でテーブルを片づける。
「京太。優乃ちゃんの様子がおかしくないかい?」
じいちゃんが優乃の様子を見ながら俺に尋ねて来る。
「あいつは元々ああいう奴だよ」
「それは言えてるが、それにしたってなんだかいつもと様子は違う気がするね」
流石のじいちゃんでも優乃の様子がおかしいことに気が付いているみたいだ。
「喧嘩でもしたのかい?」
「喧嘩はしてないけど……」
あの様子は怒っているのとは違うよな。
ラブレターの件で、からかうような言い方をしてしまったから、怒っているのならわかる。
だが、今の彼女の様子は怒っているとは程遠い。
なにか卑しい物を隠しているような態度。それに近い。
「喧嘩なら京太が悪いのだから早く謝りなさい」
「さも当然のように俺が悪いんだな」
「こういうのは男が悪いと決まっているんだよ。謝って楽になりな」
「謝って楽になれるなら良いんだが……」
とりあえず、からかってしまったことを謝りに行こう。
到底、それを根に持っているとは思えないが、話すきっかけにはなるだろう。
「優乃」
テーブルの片付けをしている彼女へ話しかける。
「ひゃっ!」
彼女は片づけようとしたコーヒーカップを落としてしまう。
「お、っと」
反射的に手を伸ばしてなんとかキャッチする。
「セーフ」
割れずに済んで良かったと思いながら、テーブルに一旦、コーヒーカップを置いた。
「ごめん、ごめん。急に後ろから声をかけたのが悪かったよな」
「す、すすす、すみません」
「いやいや、俺の方が悪いから。ごめんな」
「い、いえ、わたしの方が悪いというか、いや、この件はなんというか違うというか、なにが言いたいかというと、なんと言いますか……本当にすみません……」
何度もペコペコと謝ってくる彼女。その謝罪がコーヒーカップを落としたことだけを謝っているのには見えない。
他の意味も込めて謝っているように見えてしまう。
「優乃。なにかあった?」
「ひゃ、な、なな、なにがです?」
この反応から察するに、俺のからかいで怒っている訳ではない確証を得た。
だったらなんだ?
カランカラン。
考えていると、店の玄関が開く音がして新規のお客様がお見えになる。
「い、いらっしゃいませ!」
優乃は逃げるようにお客様の接客に向かって行った。
彼女の態度は気になるが、今は仕事中。
いや、考え事は仕事が終わった後にしよう。
♢
結局、優乃がどうしてあんな態度を取るのかわからずに翌日を迎えた。
この日の学校はなんだかいつもと違った。
朝、教室に向かっている最中に廊下を歩いていると、見覚えのある女子生徒達から声をかけられた。
「枚方くん、かっこ良かったよ」
「枚方くん、凄かったよ」
「枚方くん、素晴らしかったよ」
一体、なんのこっちゃと思いながらも、「ありがと」なんて返すと、きゃーきゃーと黄色い声が廊下にこだました。
俺の高校生活もじょじょに戻って来ている。
女子からも声をかけてもらえるようになってきたってことか、なんて楽観的に考えながら教室の自分の席に座る。
「枚方くん、おはよう」
隣の席の夏目さんが声をかけてくれる。
「おはよう、夏目さん」
「いや、えへへ。まぁ、うん」
「なんでニヤニヤしてんの?」
「まぁまぁまぁ。どうなったかなーとか」
「どうなった?」
この子は一体なんの話をしているのかわからずに、心底疑問の念を出しているとニヤニヤしながら、「あーごめんごめん」と謝ってくる。
「こっちから聞くってのは野暮だったね」
「なんの話?」
「いや、うん。その内ね。あはは」
夏目さんはニヤニヤしながら話をやめた。
なんだ? なんの話をしている?
そういえば、声をかけてきた女子生徒達は全員女バスだな。
そして夏目さんも女バス。
なぁんか共通点がありそうな感じするなぁ。
ちょーっと考えてみろ。
そういえば、沙織から呼び出されたのは体育館裏。女バスが中で練習中だったのは声でわかった。
ん? 待て待て。体育館裏で俺は沙織になんて叫んだ?
『俺が好きなのは優乃だ! 優乃以外と付き合う気はない!』
反射的に後ろを振り返った。
「きゃ」
優乃の口から美少女に見合った小さな悲鳴がこぼれ落ちた。
だが、今はこいつの反応に気を使っている場合ではない。
「お前、あの時体育館に──」
「バラの木伐採してまいります!!」
優乃は逃げるように教室を出て行った。
なんでいつも便所って言っている奴が、今日だけ便所の隠語を使ってんだよ。
つうか、これ、完全に好きバレしてんじゃん。
俺、枚方京太が優乃とカフェのバイトに勤しんでいる時のことだ。
「優乃」
「はひっ!」
名前を呼んだだけで、ビクンと体を震わせて、おそるおそるこちらを見てくる。
「空いたテーブルの片付けしてくれる?」
「は、はい。わ、わかりました」
指示を出すと、ぎこちない様子でテーブルを片づける。
「京太。優乃ちゃんの様子がおかしくないかい?」
じいちゃんが優乃の様子を見ながら俺に尋ねて来る。
「あいつは元々ああいう奴だよ」
「それは言えてるが、それにしたってなんだかいつもと様子は違う気がするね」
流石のじいちゃんでも優乃の様子がおかしいことに気が付いているみたいだ。
「喧嘩でもしたのかい?」
「喧嘩はしてないけど……」
あの様子は怒っているのとは違うよな。
ラブレターの件で、からかうような言い方をしてしまったから、怒っているのならわかる。
だが、今の彼女の様子は怒っているとは程遠い。
なにか卑しい物を隠しているような態度。それに近い。
「喧嘩なら京太が悪いのだから早く謝りなさい」
「さも当然のように俺が悪いんだな」
「こういうのは男が悪いと決まっているんだよ。謝って楽になりな」
「謝って楽になれるなら良いんだが……」
とりあえず、からかってしまったことを謝りに行こう。
到底、それを根に持っているとは思えないが、話すきっかけにはなるだろう。
「優乃」
テーブルの片付けをしている彼女へ話しかける。
「ひゃっ!」
彼女は片づけようとしたコーヒーカップを落としてしまう。
「お、っと」
反射的に手を伸ばしてなんとかキャッチする。
「セーフ」
割れずに済んで良かったと思いながら、テーブルに一旦、コーヒーカップを置いた。
「ごめん、ごめん。急に後ろから声をかけたのが悪かったよな」
「す、すすす、すみません」
「いやいや、俺の方が悪いから。ごめんな」
「い、いえ、わたしの方が悪いというか、いや、この件はなんというか違うというか、なにが言いたいかというと、なんと言いますか……本当にすみません……」
何度もペコペコと謝ってくる彼女。その謝罪がコーヒーカップを落としたことだけを謝っているのには見えない。
他の意味も込めて謝っているように見えてしまう。
「優乃。なにかあった?」
「ひゃ、な、なな、なにがです?」
この反応から察するに、俺のからかいで怒っている訳ではない確証を得た。
だったらなんだ?
カランカラン。
考えていると、店の玄関が開く音がして新規のお客様がお見えになる。
「い、いらっしゃいませ!」
優乃は逃げるようにお客様の接客に向かって行った。
彼女の態度は気になるが、今は仕事中。
いや、考え事は仕事が終わった後にしよう。
♢
結局、優乃がどうしてあんな態度を取るのかわからずに翌日を迎えた。
この日の学校はなんだかいつもと違った。
朝、教室に向かっている最中に廊下を歩いていると、見覚えのある女子生徒達から声をかけられた。
「枚方くん、かっこ良かったよ」
「枚方くん、凄かったよ」
「枚方くん、素晴らしかったよ」
一体、なんのこっちゃと思いながらも、「ありがと」なんて返すと、きゃーきゃーと黄色い声が廊下にこだました。
俺の高校生活もじょじょに戻って来ている。
女子からも声をかけてもらえるようになってきたってことか、なんて楽観的に考えながら教室の自分の席に座る。
「枚方くん、おはよう」
隣の席の夏目さんが声をかけてくれる。
「おはよう、夏目さん」
「いや、えへへ。まぁ、うん」
「なんでニヤニヤしてんの?」
「まぁまぁまぁ。どうなったかなーとか」
「どうなった?」
この子は一体なんの話をしているのかわからずに、心底疑問の念を出しているとニヤニヤしながら、「あーごめんごめん」と謝ってくる。
「こっちから聞くってのは野暮だったね」
「なんの話?」
「いや、うん。その内ね。あはは」
夏目さんはニヤニヤしながら話をやめた。
なんだ? なんの話をしている?
そういえば、声をかけてきた女子生徒達は全員女バスだな。
そして夏目さんも女バス。
なぁんか共通点がありそうな感じするなぁ。
ちょーっと考えてみろ。
そういえば、沙織から呼び出されたのは体育館裏。女バスが中で練習中だったのは声でわかった。
ん? 待て待て。体育館裏で俺は沙織になんて叫んだ?
『俺が好きなのは優乃だ! 優乃以外と付き合う気はない!』
反射的に後ろを振り返った。
「きゃ」
優乃の口から美少女に見合った小さな悲鳴がこぼれ落ちた。
だが、今はこいつの反応に気を使っている場合ではない。
「お前、あの時体育館に──」
「バラの木伐採してまいります!!」
優乃は逃げるように教室を出て行った。
なんでいつも便所って言っている奴が、今日だけ便所の隠語を使ってんだよ。
つうか、これ、完全に好きバレしてんじゃん。
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