彼女に二股されて仲間からもハブられたらボッチの高嶺の花のクラスメイトが高校デビューしたいって脅してきた

すずと

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第59話 高嶺の花はヘタれている(東堂優乃視点)

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 わたし、東堂優乃は京太くんが好きだ。

 中学の頃から憧れの存在。

 少しでも彼に近づきたくて、わたしは高校デビューを決意した。

 京太くんに近づいて、肩を並べられる存在になりたい。

 肩を並べられる存在になったら告白して、恋人になりたい。

 そう思っていた。

『俺が好きなのは優乃だ! 優乃以外と付き合う気はない!』

 体育館裏で叫んでくれた言葉。

 京太くんの口から放たれた言葉はわたしの胸を容赦なく貫いた。

 もう、頭の中は京太くんで一杯。

 今すぐに彼に会いたくて、抱きしめて欲しくて、ずっと一緒にいたい。

 その思いとは裏腹に、わたしの態度はとても最悪である。

 カフェのバイトでも変な態度を取ってしまうし、今だって京太くんから逃げるように教室を出て行ってしまった。

「はぁ……なにやっているんですか、わたしは……」

 トイレの個室でため息を吐いてしまう。

 京太くんの思いをこちらだけが知っているズルい状態。だから、告白は絶対にわたしからしなければならない。

 なのに、京太くんを目の前にするとどうして良いかわからなくなってしまう。

 これだからわたしという陰キャは困るんです。糟谷さんの時くらいの勇気を今こそ出すべきなんです。

 なのに……。

 キーンコーンカーンコーン。

 朝のHRを告げるチャイムが鳴り響く。

 教室に戻らないといけない。

 京太くんのいる教室に。

 ドキンと心臓が跳ねる。

 彼の名前を思うだけでこれだ。目の前にいると心臓がもたない。

 わたしのバカ。

 なにを弱気になっているんですか。

 相手の気持ちを知ってヘタレるな。

 わたしから告白するんだ。

 高校デビューを決意したのはなんのため? 

 憧れの京太くんと恋人になりたいからでしょうが。

 目標が目の前にいるのに、わたしはなにをへこたれているのですか。

 勇気を出せ。絞り出せ。

 パンパンと頬を叩いて気合いを入れる。

「よしっ!」

 決めた。

 今日、絶対に告白する! 





 

 ああん! やっぱり無理ですー!

 授業が始まり、自分の席に座ると、目の前に京太くんの背中が見える。

 もう、その時点で心臓が口から出そうな程にドキドキしている。

 相手の気持ちがわかっているから、こちらから好きというのを言うだけなのに、相手の気持ちがわかっているからこそ意識しまくりで、どうして良いかわからない。

 こんなんで告白なんて絶対に無理。

 休み時間になる度にトイレに引きこもるくそ陰キャ。それがわたし。

「わたしなんかが京太くんと肩を並べるなんて、あまつさえ恋人なんて無理なんですよ。ふ、ふふ」

 便所に引きこもる度、じょじょに負の感情にさいなまれてしまう。

「そうだ。LOIN! LOINで告白をしましょう」

 相手の気持ちを知っているのに、スマホに頼るなんて卑怯かもしれません。

 ヘタレなわたしを許してください、京太くん。

 そう思ってスマホを取り出す。

『わたしは京太くんが好きです』

 唐突な文だが、今のわたしにはこの文章が精一杯。

 震える手で京太くんへLOINを送ろうとしたその時であった。

「あ……」

 ぽちゃん。

 手が震え過ぎて、スマホが便器にゴールイン。

「ちょ! ゴールインするのはわたしと京太くんでしょうがっ! なんでスマホが便所にゴールインしているのですか!」

 慌てて便器に落ちたスマホを取り出す。

 汚いとかそんな感情よりも、スマホの画面が真っ暗になっていたことに絶望する。

「ガッデム」

 これは神による裁き。

 現代文明に頼らずに、ダイレクトアタックせんかい、このヘタレがというお導き。

「ふ、ふふ。いいでしょう。こうなったらやってやりますよ!」







 あ、はい。結局、無理でした。

 わたしのばか、あほ、ヘタレ、クソ女。

 どうしてわたしはこうなのでしょう。

 どうしてわたしは……。

 京太くんを前にするとどうしようもなくなってしまう。

 このままじゃ京太くんに嫌われてしまう。

 わかっている。

 わかっているのに、どうしてこの足は逃げるように正門に向かっているのか。

 放課後だから?

 違う。

 わたしがただのヘタレ陰キャだからだ。

 なにが高嶺の花だ。ただのヘタレ陰キャじゃないか。

 憧れの京太くんと仲良くなれて良い気になっていた。恋人になれると思っていた。

 実際は、彼の思いを知ると逃げ出すくそ女。

 こんなんで彼と肩を並べられるはずもない。

 頭ではわかっている。でも、止まらない足。

「優乃おおおおおお!」

 空から聞こえてくる声は神様がわたしを呼び止めたかのようであった。

 ピタリと止まって空を見上げる。

 正確には屋上から聞こえる声。

 屋上には京太くんがこちらに向かって大きな声を発した。

「好きだああああああ!」
「!?」

 屋上から正門に向かっての告白。

 周りに人が何人もいるのにも関わらず発せられる京太くんからの告白。

 こんなことをすれば悪目立ちしてしまう。

 じょじょに元に戻りつつある彼の高校生活が、また逆戻りしてしまうかもしれない。

 それと引き換えにわたしを逃がさないという覚悟。

 本当に京太くんは凄い。本当にヒーローみたいな存在だ。

 彼の覚悟を無碍にするなんてことを絶対にしてはいけない。

 ドンドンと強く鼓動を放つ心臓。苦しくて今にも吐きそう。

 でも、そんなものは無視してわたしは正門とは逆方向に駆け出した。

 京太くんが覚悟を見してくれたんだ。

 ここでわたしが逃げちゃ絶対にだめだ。

 わたしも覚悟を決め、屋上に向かって走り出した。
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