転生少女が生意気で不器用な半魔の女の子(歳上)に拾われて、ゆっくりと絆されながら堕ちるまでのお話.......??

中毒のRemi

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第6話 もう一体の人形

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「外に出ましたけど、今日は花を見つめなくて良いんですか?」

 記憶違いでなければ、起きてる時間のほとんどは、花を眺める事に費やしていると言っていたはず。
 正直、何時間も付き合う気にはなれない習慣だけど、ここはこの人のホームなので、こっちが生活リズムを合わせるべきなのだろう。
 ただの趣味なら切って捨てるけど、なんか違うようだし。

「暫くはその必要もなくなったの」
「?……そうですか」

 良かった……

「どこから行こうかな」
「全部ルリンさんに任せますよ」

 ……実のところ本音を言ってしまえば、別に外の案内なんて必要は無いと思う。
 多分、この屋敷の中だけで充分だ。
 今の私は1人で歩けないのだから。
 こんな体で自分だけでぶらついたりはしない。

「なら、周りに建物がいくつかあるでしょ? 適当に指を指して選んでくれない?」

 いや、そんなことはルリンさんも百も承知だと思う。
 考えられる理由は何か?
 例をあげるなら私が立ち入ってはいけない場所がある、もしくは一人で入っては危険な場所があるとか?

「私の話を聞いてる……?」

 う~ん。
 それなら『外に出るな』の一言で片付きそうだ。
 
 じゃあ他に挙げるとするなら――――――私のリハビリに付き合ってくれている?
 言葉で言うのが照れ臭くて、『案内』という体で私のサポートをしている……とか?
 
 そう考えると面白いかもしれない。
 特に普段の冷たい態度とのギャップが。

 ――――――ドンッ!

 なんて考えていたら、背中から衝撃が来た。

「なに私の話を聞かないでニヤついてるの? 気持ち悪いんだけど」
「ご、ごめんなさい。ちょっと考え事をしてました」

 思考に耽っていて気づかなかったが、どうやら後ろから蹴り飛ばされたらしい。
 ……酷い。
 
「どうでも良いから、さっさと指を指して」
「じゃあ、あそこで」

 とりあえず適当な建物を指した。
 屋敷ほどではないけど結構大きくて、見た目では用途がよく分からない古びた建物だ。
 まぁ、それは入ってみてからのお楽しみだろう。

「……作業場ね。あそこには私の作った人形や魔導書とかが置いてあるわ……長いこと顔を出してないけど」
「あぁ……ネタバレ」
「ねたばれ……?変なこと言ってないで行くよ」
 
 

 ---



 私達はその建物の入り口に来た。

「扉は私が開けて良いですか?」
「別に良いけど、開けるなら左手を使ってね」
「はい!」
 
 重々しい黒い扉を押し開けた瞬間、ひんやりとした空気が頬を撫でた。
 視界いっぱいに広がるのは、幾何学的な美しさを持つ本棚の森と、作りかけの人形の数々。
 ルリンさんは作業場と称していたけど……ここは魔導工房と呼ぶべき場所だろう。

「壮観ですね。それと凄く……」
「汚いって言いたいんでしょ」
「え、えぇ。まぁ」

 かなり埃っぽいので、こう思ってしまうのは仕方ない。

「さっきも言ったけど、ここは長いこと使ってないの。汚くて当然ね」
「そうですね」
「とりあえず歩きましょ。私もこの場所を忘れてるから、何か面白い物を見つけられるかもしれないし」

 そうしてゆっくりと工房の中を歩いていく。
 ここには屋敷の中で歩いている人形達や、外で家畜化されている魔物もいない。
 私達の足音だけが中を満たしていく。
 
 そして二人で歩いていくうちに、一風変わった……作業机?のようなものを発見した。

「丁度良かった。フウカをどこに置こうか迷ってたの。そこで座って待っててくれない?」
「置くって……私をここに置いてどこに行くんですか?」
「……ちょっと作業部屋の掃除に行くだけ」
「はぁ……別に良いですけど」

 それって今することなのだろうか?……とも思ってしまう。
 まぁ私も友達が家に遊びに来るとなってやっと、掃除を始める人間だったし、感覚的にはこれに近いのかもしれない。

「じゃあそこで待っててね~」

 そう言って私を椅子に下ろして行ってしまった。
 結構、自由な人のようだ。
 まぁそれは、料理を1人で全部食べられた時から分かっていた事だけど……
 
「でも、こういう薄暗い場所で一人放置されるの、結構怖いんですよね……」

 仕方ないので気を紛らわせるべく、視線を机に向けた。
 
 乱雑に置いてあるのは魔導書や……これは人体の設計図だろうか?
 そしてそのどれとも違う、古びた革の表紙に金の留め具がついた、一冊の本。
 …………もしかして日記帳だったり?
 
 ありえる……可能性はかなり感じる。
 少し気分が高揚してきた。
 こういうのを見つけると、寂しさや怖さが紛れるので特に良い。
 
 ほんの少しだけ、人の中身を覗いてはいけない、という罪悪感はあるけど……
 ここに置いて行ったのはルリンさんなので、問題はない筈だ。

 そう思い私は本を開いた――――――が。

「あれ? 何も書かれてない」

 気のせいだった?
 私の勘は結構当たるものだと思っていたけど外れ――

「え……?」

 ―――刹那、頭にとても弱々しい何かが流れてくるのを感じた。

 なんだろう、これは。
 なんでいきなりこんな事が。
 魔力というのは分かるけど、何もしてないのに……なんでいきなり。

 いや、違う。
 何もしていないわけではない。
 私は本を開いた。
 つまりこれが発生源。

 最悪だ。
 この本って魔導書だったのか。
 魔力がほとんど感じられなくて気づかなかった。

「やってしまった……だけど勝手に壊すわけにはいかないし」

 まぶたが重い。
 頭の奥がふわりと揺れて、思考がぼやけていく。

「戻ってきたら…………謝らな……いと……」

 意識が、まるで水底に沈んでいくみたいに、静かに遠ざかっていった。



 ---



 微かな光が、閉じたまぶた越しに伝わってきた。
 意識がじんわりと浮かび上がる。

「くっ……ぅぅ…………んんっ」

 どうやら私は眠っていたらしい。
 瞼を開けると、まず目に飛び込んできたのは、机だった。
 そういえば魔導工房に入って、本を開いたらいきなり眠くなったような……
 
 ……あれ?
 ちょっと変だ。

 机に乱雑に置かれていた本達が、綺麗に並べられている。
 それに埃っぽくもない。
 私が寝ていた間に掃除をしたのだろうか?
 ……いや、違う。

 私は体をひねるようにして、周囲を見渡した。

 おかしい。
 本棚はあるけど人形が一つ残らず消えている。
 やっぱりここは……
 
 ――――――……コツ、コツ、コツ。

 誰かが歩いてくる音がした。
 私は即座に音のする方へと振り向くと、人形が立っていた。

「待たせたね。フウカ」
「………………」
「ここの片付けも終わったし、次に行くよ」
「………………」
「どうかしたの? そんなに見つめて」
「……………出会ったのは初めましてですよね?貴女、いったい誰なんですか?」

 目の前で私をフウカと呼ぶ少女も、かなりルリンさんに似ている。
 でも違う。
 
 この人は彼女じゃない。
 この人からは生が全く感じられない。
 人形としての形も似てはいるけど、ルリンさんほどに完成されていない。

「生が感じられない……それに完成されていないとは、とても悲しい表現です。何一つ間違っていないのが特に」
「――――――ッ?!?!」

 心を読まれた!!?
 い、いや。流石に気のせい……

「ではありません……良いですね。それに貴女はとても美味しそうです。特に溢れ出る無限の魔力というのは、理想の食材……」

 そう言いながらスン、とした顔で涎を垂らしている。
 すぐさま自身の腕でそれを拭った。

「人の心を覗くなんて、失礼な事をしてくれますね。貴女は何者ですか? ルリンさんはどこにいるんですか?」
「そう、自己紹介、悪くありません。始まりはそうでないと」

 なんだろう。
 なんか気持ち悪い。
 この人は絶対、ルリンさんが操ってる人形じゃない。
 おそらく別の人がこれを操っている。
 もしくは……

「……申し遅れました。私はルリンが作った自律思考型ゴーレムAI最後の生き残り。No.000です」
「それ、名乗ってるんですよね……?」
「名前が呼び辛く感じられたのなら、ゼロとお呼びください。主もそう呼んでいました」
「じゃあそれで呼ぶけど……ルリンさんはどこ?」

 ……どうやら、この人形はルリンさんが動かしている訳ではなく、勝手に自分で考えて動くロボットのような物らしい。
 だけど屋敷内で動いている人形達も、勝手に動いて……

「いえ。あれらはもう、自分で思考することを許されない木偶の坊。命令されないと動くことは叶いません」

 …………はぁ。
 頭の中で疑問に思ったことは答えてくれたけど、肝心なルリンさんの居場所を聞いても、答えてくれないな。
 なら別の事を聞くことにしよう。
 作られて動く人形なら役割がある筈だ。
 
「なるほど。それでゼロさんはこんなところで何をしているんですか?」
「そう、私の役割。それは貴女をここに招いた理由にも繋がります」
「…………」
「私の役割、それはこの……」

 彼女は本棚の前に立ち、手を伸ばすことなく、ただ細く息を吐いた。
 すると、その気配に呼応するように数冊の本がふわりと浮かび上がり、まるで意思を持つかのようにそれらは宙を舞い、私の周囲を巡り始める。

「主が手放した記憶の管理と――――――封印です」
「管理と封印……?」
「えぇ。では、少しばかりお時間を頂きましょう」



―――――――――――
あとがき。

最後まで読んでもらえたようで嬉しいです。
続きもお楽しみください。
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