終生飼育は原則ですから

乃浦

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被保護編 342年

342年12月1-1

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 ただ黙って待ってはいられなかった。
 待つ。何を待つんだ。
 私の子は拒否した。なぜあの男の子ならいいんだ。
 薬を取り上げられたのかもしれない。無理にか。無理に妊娠までさせたのか。

 子が生まれたら、ともやは田舎で静養するらしい。望んでいた生活が出来るのかもしれない。その為に産むのか。
 子を産めば田舎に引退してもいいと言えば、私の子を産んでくれたのだろうか。いや引退はさせられない。子よりも彼女が必要だった。

 出産は危険だ。ずっと体調が悪いとレンツォーリは知らせてきた。
 この場面では、いつもは気にしないともやの年齢が気になる。初めて子を産むには高齢だ。
 ただでさえ危険なのにより危険性が高く、しかも弱っている。

 もしも。もしも彼女が。
 失ったと思っている今を羨むことになる。この世界にも、あの世界にも存在しなくなるかもしれない。無理だ。
 何かあった時はせめて側にいたい。

 シルヴィオもエランも、父上と母上も、ファリオン達も止めなかった。諦めている。
 私はいない方がいい。私がいると雰囲気が悪くなる。国民からの支持もない。同情する者はいるが。

 ソウシュウの許可は得られるとは思わなかった。
 私が邸の周囲にいれば、必ず気付かれる。ただ始末されるよりも出来れば邸に入り、騒ぎを起こせばともやも出てくるかもしれない。会いたいと思った。だが邸への滞在まで許すとは。

 ともやの経過はよくないようだ。屋敷内が緊張している。毎日二回、医師が来る。
 様子を見たい。大丈夫なのか。
 ともやは体が強くない。細さのわりに力はあるが、細いから体力はない。気力で支えていた。

 一度だけともやを見た。
 ソウシュウには禁止されていたが、レンツォーリの手引きで、彼女が寝ている所を一瞬見た。
 青白く、更に痩せていた。私ならこうなる前に止める。

 遠くから一目見るだけで近寄る事さえ出来ない。
 彼女は冷えているだろう。いつも触ると冷たかったがもっと痩せている。
 背中や足を揉んだりはしなくていいのか。何か出来る事はないのか。
 彼女は相変わらず一人でいたがるのだろう。

 コウジュは毎日通っている。コウジュはともやを尊敬していた。
 コウジュにも会わないが、会って頼めばともやに近づけるだろうか。
 いや、それはソウシュウの許しに背く。

 何も出来ず、馬の世話をしたり図書室の整理をして時間を潰していた。
 ともやもやっていただろう。その場所にいて同じものを触る。それだけでありがたいと感じる。

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