聴かせてよ、ラブソング。

めぇ

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LOVE5.TOMORI/忘れないでよ、Love Song

Song5.)

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明日は2学期最後の日、いよいよ軽音部のクリスマス会の日だ。

交換用のプレゼントは悩みに悩んでスタバのカードにした。

味気はないかもしれないけど、実用性はあるし!もらって困らないことはないかなって!

…やっぱもっと可愛いプレゼントのがよかったかな。
でも女子も男子ももらって嬉しいものってわかんなくて最終的には邪魔にならないものを選んじゃった。

湿布よりはいいよね、たぶん。

「………はぁ」

タメ息が出ちゃう。

可愛いプレゼントが選べなかったことでもなくて、今上ってる階段がしんどいわけでもなくて…


告白した日のことを考えると。


正確には告白しようとした日のこと。


だからなるべく考えないように、違うこと考えようって…

そうしてるつもりでもふとした瞬間浮かんでくるのはあの時の奏くんの顔で。


私の告白を遮った笑顔。


どうして、言わせてくれなかったのかな?

言わない方がいいってこと?

言わないでも、答えは出てるってことなの…?


足取りが重い。
今日は部活に奏くん来てるのかな、来てないか…バイトだよねきっと。


「どうしてそんなこと言うの!?」


最後の階段を上った時、大きな声が響いた。

え、何…?どうしたの?

一瞬びっくりして足が止まった、そんな荒げるような声聞いたことなかったから。 

いつもクールで冷静な折原さんのそんな声。

何があったんだろ…!?

誰かと言い合ってるみたいな…っ

ハッと浮かんだのは1人しかいなくて、急いで部室まで向かった。

「どうしたの…っ」

勢いよくドアを開けた、開けた瞬間こっちを見た。


やっぱり言い合ってる相手は奏くんだった。


色のない瞳は心細そうで、ゆっくりと私から視線を逸らした。

「どう、したの…?何かあった…?」

何も答えてはくれなくて、そんな奏くんの前で折原さんは泣いていた。

まるで子供みたいに泣きじゃくって、私まで感情が移りそうになるくらいに。

「奏お願い!そんなこと言わないで!」

涙を流しながら奏くんの腕を掴んだ。両手で力強く握り、ガンガンと揺すった。

「ねぇ!?」

それに反して奏くんの声は落ち着いていて、掴まれた折原さんの手をグッと引き離した。

「ごめん、もう決めたことだから」

さらにグーッと押し離し、俯いたまま部室から出て行った。

「ごめん…っ」

「奏…っ!」

私の隣を擦り抜ける、一瞬でもこっちを見ることなく走って出て行った。

何が起きてるのかわからなくて、奏くんの名前を呼ぶことさえできない。

「どうして…っ」

その場に崩れ落ちるように折原さんがへたんっと床におしりを付けた。

「折原さん、大丈夫!?」

駆け寄って折原さんの前にしゃがんだ。
下を向いたままむせび泣いて、ボロボロと涙を流している。

「大丈夫!?何があったの?」

泣き声をのどにつまらせて、ひっくひっくと息をするのにも苦しそうでこんなに取り乱した姿は初めてだった。


奏くんだってあんな冷たい瞳、初めてだった。

私も怖くなった、知らない人みたいで。


折原さんと奏くんの間に何が…っ

「……っ」

震える折原さんの手を握った。

「折原さん…!」

両手でぎゅっと、包み込むように。

「何があったの?」

グッと瞳に力を入れて真っ直ぐ折原さんを見る。

「……望月さん…」

「教えて、何があったか」

「……。」

私と目を合わせた折原さんがまた下を向いた。

涙を流して、消えそうな声で私に言ったの。

「奏が家を出て行くって」
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「え…?」

両親のいない奏くんは子供の頃から折原さん家にお世話になってるって言ってた。

だから、もうそこは奏くんの家でそこを出て行くってことは…

「1人暮らし…するんだって、1人で暮らししたいんだって…」

折原さんの声が震えてる。
溢れる涙を必死に拭って、肩で息をしながら。

「私が奏に好きって言ったから」

幼馴染の奏くんと折原さんは本当に仲が良くて、いつも見ていて羨ましかった。

そこには2人だからこそ生まれる空気感があって、誰にも近付けないような特別なものがあるように見えた。


だから羨ましくて、憧れだったの。


「私が奏の居場所を奪っちゃった…っ」

震える声が痛いほどに刺さる。

「私が奏を1人にさせたの…」

折原さんの悲痛な叫びが。

「言わなきゃよかった、あんなこと言わなかったら…っ!」

「そんなことないよ!」

折原さんの奏くんを想う気持ちは折原さんのものだから。

否定しないで、自分を責めないで。

ぎゅぅっと折原さんの背中に手を回して抱きしめた。

「好きって言える折原さんはすごいよ!」

誰かに好きって伝えるのは難しい。

だって伝えるのは1人でも、伝えた先にはもう1人いるから。

相手の気持ちのいることだから。

「言わなきゃよかったなんてことない!いっぱいがんばったのに、そんなこと言うのはもったいないよ!」

折原さんは後悔してるかもしれないけど、それでも伝えようって思った折原さんはすごいよ。えらいよ。

「折原さんの気持ち、奏くんに伝わったよ…!」

ひとつ否定したら、全部否定するみたいになっちゃう。

そんなことないよ、だって折原さんは奏くんのことが好きだったんだ。

だって折原さんは奏くんを苦しめたかったわけじゃないんだよ。


奏くんを苦しめたのは…


「藍ちゃん?灯璃ちゃん?」

開けっ放しだったドア、駿二先輩が眉をハの字にしかめて入って来た。

「え、何?どーした!?」

私たちを見て心配そうに駆け寄って来た。

「つーか奏が勢いよく走って行ったんだけど…、呼んだけど無視でさ」


奏くん…!


そうだ、奏くんはどうしてる!?

奏くんだって、つらそうだった。


奏くんだって泣きたいのかもしれないよね…?


「駿ちゃん先輩!折原さんのこと、お願いします!」

「え、あ!うん!」

スクールバッグをそのままにして部室から出た。

奏くんを追いかけて、足音が消えて行った方向に向かって走った。


どこに行ったのかな…っ

走って…


あ、電話!

どこにいるの?


って、スクールバッグの中だ!


戻ってスマホを取りに行くことも過ったけど、どうしても足を止めらなかった。


早く奏くんを探さなきゃ 


見付けなきゃ 


どこに…!?


真っ直ぐ廊下を走ったところでヒューっと吹いて来た冷たい風が顔に当たった。


この寒さで締め切った廊下にどこから風が…?


足を止めて風の方を確認する。


ここの階段の上…っ

て屋上だよね?

屋上…



奏くんっ!!



重たいドアは最後まで締め切られず、数ミリの隙間ができてそこから風が入り込んで来ていた。

きっと開けられたばかりだからだ。

毎日警備員さんが確認に来るはず、開いていたら数ミリでも気付くと思う…

ドアノブを両手で掴んでグッと押した。


「奏くん…!」


ヒューと風が吹いてとびきり寒かった。

コートそのままに来たけど全然寒い。

なのに奏くんはそんな屋上の真ん中で、仰向けになって寝そべっていた。

ゆっくり近付いて隣にしゃがんだ。

「寒いよ、奏くん」

右手の甲の方を目に当てるように置いて、顔を隠していた。

だからどんな表情をしているのかわからなかった。


泣いてるの?


どうしてるの?


だけどそんなの…っ


「寒くない?中に入ろっ」
 
いくら奏くんだってコートを着ているって言ったってずっとこんなところにいたら…

「灯璃…」

「何…?」

か細い声、ヒューヒュー吹く風の音で掻き消されそうなくらいギリギリの声だった。
 

「俺も何も持ってなかったんだよ」


“…私、何も持ってないの。ただの高校生で普通の人なの…、何もないの”


「なかったんだよ…、全部なくなっちゃったから」

「奏くん…」

コンクリートの地面に膝を付ける。

冷っとして凍ってるんじゃないかって思うぐらい冷たかった。


でもね、そんなの気にならなかった。


「父さんも母さんも…突然事故で俺の前からいなくなった。寂しくて怖くてどうしようもないぐらい真っ暗だった」

それはきっと私にはわからない孤独だったと思う。

想像するのは簡単でも、その悲しみは計り知れないから。


「急に1人になって…夜になっても灯りの点かない家を外からただ見てることしか出来なくて…もしかしたら父さんがドアを開けてくれるんじゃないかって、母さんがおかえりって言ってくれるんじゃないかって…っ」
 

奏くんの声が涙で滲む。


「…最後にはそんな家までなくなった」


私の瞳からもポロポロと涙が止まらずにいた。何か言いたいのに、何も言えなくて、私に言えることなんてないように思えて。

「置いてかれたみたいに思って、どうせだったら俺も一緒に行きたかった…っ」

奏くんの振り絞る声に胸が潰れそうになる。


痛くて、苦しくて、こんな思いを抱えてたんだって…

涙を両手で拭いて、奏くんの手を握ろうと思った。


「でも藍がくれたんだ」


伸ばした手がピクッと止まった。 


「藍が…俺に、…俺の手を引いてくれた。一緒に帰ろうって、俺の帰る場所に」


幼馴染ってどんなものだろうって思ってた。

奏くんと折原さんは特別仲が良くて憧れてた。

でもそれは私が思うより全然もっともっと心の奥の深いところにあるんだね。

 
ぽろっと涙がこぼれて、行き場を失った私の手はそのまま下に落ちた。


「…そんな藍のことを泣かせちゃった」 


ぽつんと奏くんの沈んだ声が寒空の下響いた。

気付けばへたんっとその場に座り込み、奏くんの頬を伝う涙を見ていた。


その手を取りたかった。

顔を隠すように瞳の上に置かれた右手を握りたかった。


でも、できないよ。


私にはできない。


不甲斐なくて涙ばかりだよ。


「…灯璃のことを考えたら曲がどんどん降りて来るんだ」

その言葉がグッと胸に刺さった。

「止まらないだよ。止まらなくて、…怖い」


例えばもし私と出会わなければ。


駅前でギターを弾く奏くんと一緒に歌わなければ。

こんなに涙を流す奏くんはいなかったかもしれない。


だけど私は無性に惹かれちゃったの。

毎夜、私を眠らせない音に出会っちゃったの。


出会わなければよかったなんて、嘘でも言いたくないよ。


ポタポタと流れる涙でコートの裾が濡れていく。知らぬ間に大きなシミができていた。

「…っ」


奏くんを苦しませたのは私だよね。


だから言えないよ。



私はいるよ、なんて。


私がいるよって。


その止まらない音楽を聴かせてなんて…    


軽々しく言えない。



私だって何もないんだから。
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