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NEXT4.臨時寮は私を困らせる)
trouble5.)
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「あゆむん卒業おめでと~~~!」
パァンとさっちゃんがクラッカーの紐を引くとワァッと銀テープが飛び出した。
「…卒業やったっけ?」
「ちょっとでも明るい感じの言葉にしようと思ったらこれしか浮かばなかった!」
臨時寮の食堂でみんなで集まるのはちょっと久しぶりで、そして…
今日がみんなと臨時寮ここで集まる最後の日。
「ありがとう、みんな」
さっちゃんがさよなら会だと寂しいから卒業パーティーにしてくれた。寮を卒業するわけじゃないけど、臨時寮からの卒業のがポジティブでいいよねって。
斗空とはまだケンカしたままだったけど、来てくれた。
私の前に座ってくすりとも笑いはしてないけど、それも通常と言えば通常だからなぁ。
「さぁさぁお菓子いっぱいあるから好きなの食べてな!」
「でんちゃんからも差し入れあるんだよ~、オレンジゼリー!あゆむん好きって言ってたもんね!」
いつものテーブルをみんなで囲って、お菓子にジュース、夕飯のあとでもそんなの気にしてなくて。
ただ喋って笑ってはしゃいで、恥ずかしいって思った本日の主役って書かれたタスキもホログラム光るとんがり帽も手放したくなくなっちゃうくらいこの時間が終わらなければいいのにって…
心の中で静かに思ってた。
最後なんだから笑っていようって思ってたけど、そんなこと思わなくてもよかった。
自然と笑顔になっちゃうもん、みんなといたら。
みんなとこうしていられたら。
「さぁさぁさぁ!白熱のトランプ大会もいよいよ終盤となって参りました!!」
パーティー用の大きな蝶ネクタイをした智成くんがキッチンから持って来たお玉をマイク代わりに司会さながらのパフォーマンスを見せる。席から立ち上がって身振り手振りしながら大きな声で。
「こちらには1位抜けした咲月壮太郎さんにお越しいただいております!壮太郎さん、この試合どう見てますか?」
「そうですね~、さきほどからジョーカーがとあ選手とあゆむ選手の間を行ったり来たり…そろそろ勝敗が決まるのではないかとそわそわしています!てゆーか決めてほしいです!あとその名前で呼ばないでって何度も言ってますコノヤロー!!」
「なるほど~、もういい加減見飽きたってことですね!ええ名前やんか!」
「そうとも言います!好きじゃないんだってば!」
智成くんの前の席、私の隣でさっちゃんがコメンテーターを気取ってる。正面に座る斗空との一騎打ち、斗空が持つ2枚のカードからジョーカーじゃない方を引けば私の勝ち…
じーっと斗空の目を見ながらトランプに手をかける。
…こっち?
全然表情変えないから違うのかな?
じゃあ別の方…
でも全然表情変わらないけど!
永遠にこれなんだよね、ちーっとも変化がないの。
だから全然見抜けないんだけど…
「こっち!」
スッと勢いよくトランプを抜き取った。
いざッ、勝負…!!
「あ、ダイヤの5!揃った!!」
わぁ~~~~~い!私の勝ちだぁ~~~~~!!!
「あゆむんやったぁ~!」
「ありがとさっちゃん!」
つい興奮しちゃって立ち上がったままパンッと両手でハイタッチをした。
「今回も斗空の負け~~~!斗空もう数えるのやめるで!?トランプ大会何敗目かわからへんからな!」
「…7敗目」
「覚えてんのかい!」
丁寧に数えてるのも斗空らしい、それも笑っちゃった。
ずっと斗空とちゃんと話してなかったから、今すごく嬉しかったの。
悔しそうにする斗空にわざと勝ち誇った表情を見せれば眉間にしわを寄せて、そしたらまた笑って。
またこうして笑えるのが…
「ほな、明日の昼ご飯担当は斗空やな!」
とんっと智成くんが斗空の肩を叩いた。でもすぐにハッとした顔をして手を離した。
「あっ!ごめんちゃうかった、いつもの癖で!」
離した手で口を抑える、そんなしまった…みたいな顔しなくても。
「…歩夢ちゃんは今日が最後やったな」
「……。」
あ、どうしよう。
すごい楽しかったのに、急に現実に戻されたみたい。
すーっと消えていく、頬を上げていた筋肉が力をなくして。
みんな静かになっちゃった。
「……。」
何か、私が何か言った方がいいよね?
じゃないと、どんどん暗くなっていっちゃう。
でも今口を開いたら…っ
「挨拶でもすれば、最後なんだろ」
頬杖を付いた斗空が手に持ったジョーカーを見ながら言った。
「う、うん!あゆむんあいさつして!」
「そうやな!これ貸そか!?おたマイク!」
智成くんからお玉を渡されて、2人が座ったから私だけ立ってる状態になった。
これが本当に最後…
になっちゃうのか。
「……。」
お玉の柄の部分をぎゅっと持って、とんがり帽を外した。
「今日は…私のためにありがとうございました!」
ぺこりと腰が90度に曲がるくらい頭を下げた。勢い余ってそこまでしちゃったけど、それだけ感情が入り込んじゃってたから。
顔を上げるとみんな私の方を見ていてちょっとだけ緊張しちゃった。
「えっと…っ、急な転校が決まってすごい不安だった時に行くはずだった女子寮には空きがないって言われて…臨時寮に来ることになって」
思い出すあの日のこと、海外で暮らすかここで暮らすかそう言われて私はここを選んだ。
「最初は…なんだこの寮!?って正直めちゃくちゃ嫌だったんだけど」
「歩夢ちゃん正直すぎるで」
「素直でいーんだよあゆむんは♡」
私の言葉に智成くんとさっちゃんが時折あいづちを入れる、それを斗空はただ静かに聞いて。
「歓迎会してくれたことはすごい嬉しかったし、トランプで負けた斗空が作ってくれたカルボナーラは今まで食べたカルボナーラの中で1番おいしくて、夜は苦手だったんだけどさっちゃんに借りたシフォンのおかげで毎日眠れるし、寮に来たばっかで困ってた私に智成くんが案内してくれたからすぐに覚えられたし、それから…」
まだいっぱいある。
学校で1人だった私を1人じゃないよって教えてくれたのもみんなだった。
誰もいないプールを見た時、悲しくてつらくてもう学校やめたいなって思ったけど振り返ったらみんながいたから…
ここへ来てよかったなって思ったの。
やっぱりここがいいって思ったの。
あんなに嫌だと思ってた臨時寮が大好きになってたんだよ。
でも言えないよ。
もう何も言えない。
だって涙がポロポロ溢れて来るから。
喋りたくても声が出せなくて、ひくひくと声が詰まる。
拭いても拭いても涙は止まらくて、ポタポタとこぼれた涙は机を濡らして。
みんなといるのが楽しかった。
みんなといられるのが嬉しかった。
みんなといるのが好きだった。
だから私…
ぎゅーっとお玉の柄を両手で握りしめる。
「本当はずっと…ここにいたいですっ」
女子寮になんか行きたくない。
ずっとここにいたい。
出て行きたくなんかないよ。
「私も、みんなと一緒にいたい…っ」
みんなと離れちゃうなんて嫌だよ…!
「あゆむん行かないでいいよ~!ずっとここにいてよ、一緒にいよーよ~~~!」
「せやで、おったらええねん!いくら女子寮に行かなあかんって言うても関係ないおったらええ!」
同じようにポロポロ涙を流していたさっちゃんがぎゅっと抱きしめてくれる、泣きそうになりながらも必死に涙を堪えた智成くんもそばに来て慰めてくれた。
そんなことをされたら私はまた泣いちゃう、出て行きたくなっちゃうよ。
だってこれが私の本当の気持ちだもん。
ねぇ…斗空は?
斗空はどう思ってる…?
静かに息を吸って、涙を拭って顔を上げた。
もうぐちゃぐちゃの顔でどうしようもなくてひどい顔してたけど…
前を向いたら斗空と目が合ったの。
笑ってた。
優しく微笑むように、私に笑いかけてた。
そんな顔…っ
また泣きたくなっちゃう…!
「よし、行くか」
ずっと座っていた斗空が立ちあがった。
「え、とあぴどこ行くの??」
「今いいとこやぞ、斗空くん空気読んで!」
「だから行くんだろ」
フッと笑って食堂のドアの方へ足を向けた。頭にクエスチョンマークの浮かんでる私たちに呼びかけるように。
「伝蔵さんとこ、みんなで行けば怖くないだろ?」
夕方になるとでんちゃんは臨時寮にやって来る。一応ここの寮長だから、夜はここで過ごすことになってる。
もちろんでんちゃんの自室もあるけど、まだ就寝前…
この時間なら管理室にいる!
斗空に言われてあとをついて食堂から出た。
食堂から管理室はすぐそこで出た瞬間から姿が見えるから。
「でんちゃん…っ!」
管理室の小窓に駆け寄った。
「三森さん…みんなどうしたの?何かあった?」
「あの…っ」
すぅって息を吸ったけど言葉が出て来ない。
それどころか涙腺は緩くなるばっかりで、じわじわと涙が溜まっていく。
でんちゃんが片方の眉を上げて不思議そうに見てる。
どうしよう、どうやって言えば…
とんっ
背中に体温を感じた。
優しく触れる3人の手の温度。
そうだ、私1人じゃないんだ。
みんながいるんだ。
「私、臨時寮にいたいですっ」
ぎゅって目をつぶったから涙が出て来ちゃった。
「ここを出て行きたくないですっ」
私がいるべきところはここじゃないかもしれない、せっかく空いた女子寮に行かなくちゃいけないものわかってる。
だけど…
「ずっとずっとここがいいです…!」
臨時寮が好きだから。
もっともっとみんなといたい、ここでー…
「いいよ、三森さんがいいなら」
「………。」
「「「「えぇ!?」」」」
小窓越しにかけていたメガネを外したふぅっと息を吐きながら吹き始めた。
え、そんなあっさり…?
もっと何か言われると思ってたから逆に戸惑っちゃって無言の時間ができちゃったじゃん!
「女の子1人だと不安かなって思っただけで、女子寮を手配していなかったのはこちらのミスだし早めにどうにかした方がいいと思ってたからねぇ」
それは、そうなんだけど…
これはこれでいいのかっていう…
結構ぐいぐいな感じで管理室をたずねちゃったから今小窓の前で立ち尽くしてる。
「あくまで臨時寮は臨時で入る寮だけど出て行かなきゃいけないってルールもないしね、佐々木くんだって部屋空いたのにここに残ってるでしょ」
あ、確かに…斗空もシャワーが壊れたから臨時寮に来たけど部屋が空いてもにいるよね。
「そーいえばそうやな」
「……。」
「斗空くんそれ忘れてたん!?」
あれ?じゃあ私は何を悩んでいたの?
こんなにワーワー騒いじゃって…
「泣くほど嫌ならここにいていいよ、好きなだけね」
でんちゃんがメガネをかけ直した。
「い…いいんですか?」
「いいよ、その代わりもう二度と屋上で花火は禁止だからね!」
ピシッと指を立てて、反対の手でカチャッとメガネを上げた。
屋上で花火はもう絶対しない、だから…
いいんだ、私ここにいても…
いいんだ。
「あゆむーん、やったね!」
「さっちゃんっ」
「よかったなぁ歩夢ちゃん!」
「智成くん!」
背中を押してくれた手が温かかった。
それが何よりも心強くて、大丈夫だって思えたの。
少し顔を上げて見れば斗空が微笑んでて、私も笑って返した。
不安なんて全然ないよ。
3人がいてくれるなら。
だからこれからもー…
パァンとさっちゃんがクラッカーの紐を引くとワァッと銀テープが飛び出した。
「…卒業やったっけ?」
「ちょっとでも明るい感じの言葉にしようと思ったらこれしか浮かばなかった!」
臨時寮の食堂でみんなで集まるのはちょっと久しぶりで、そして…
今日がみんなと臨時寮ここで集まる最後の日。
「ありがとう、みんな」
さっちゃんがさよなら会だと寂しいから卒業パーティーにしてくれた。寮を卒業するわけじゃないけど、臨時寮からの卒業のがポジティブでいいよねって。
斗空とはまだケンカしたままだったけど、来てくれた。
私の前に座ってくすりとも笑いはしてないけど、それも通常と言えば通常だからなぁ。
「さぁさぁお菓子いっぱいあるから好きなの食べてな!」
「でんちゃんからも差し入れあるんだよ~、オレンジゼリー!あゆむん好きって言ってたもんね!」
いつものテーブルをみんなで囲って、お菓子にジュース、夕飯のあとでもそんなの気にしてなくて。
ただ喋って笑ってはしゃいで、恥ずかしいって思った本日の主役って書かれたタスキもホログラム光るとんがり帽も手放したくなくなっちゃうくらいこの時間が終わらなければいいのにって…
心の中で静かに思ってた。
最後なんだから笑っていようって思ってたけど、そんなこと思わなくてもよかった。
自然と笑顔になっちゃうもん、みんなといたら。
みんなとこうしていられたら。
「さぁさぁさぁ!白熱のトランプ大会もいよいよ終盤となって参りました!!」
パーティー用の大きな蝶ネクタイをした智成くんがキッチンから持って来たお玉をマイク代わりに司会さながらのパフォーマンスを見せる。席から立ち上がって身振り手振りしながら大きな声で。
「こちらには1位抜けした咲月壮太郎さんにお越しいただいております!壮太郎さん、この試合どう見てますか?」
「そうですね~、さきほどからジョーカーがとあ選手とあゆむ選手の間を行ったり来たり…そろそろ勝敗が決まるのではないかとそわそわしています!てゆーか決めてほしいです!あとその名前で呼ばないでって何度も言ってますコノヤロー!!」
「なるほど~、もういい加減見飽きたってことですね!ええ名前やんか!」
「そうとも言います!好きじゃないんだってば!」
智成くんの前の席、私の隣でさっちゃんがコメンテーターを気取ってる。正面に座る斗空との一騎打ち、斗空が持つ2枚のカードからジョーカーじゃない方を引けば私の勝ち…
じーっと斗空の目を見ながらトランプに手をかける。
…こっち?
全然表情変えないから違うのかな?
じゃあ別の方…
でも全然表情変わらないけど!
永遠にこれなんだよね、ちーっとも変化がないの。
だから全然見抜けないんだけど…
「こっち!」
スッと勢いよくトランプを抜き取った。
いざッ、勝負…!!
「あ、ダイヤの5!揃った!!」
わぁ~~~~~い!私の勝ちだぁ~~~~~!!!
「あゆむんやったぁ~!」
「ありがとさっちゃん!」
つい興奮しちゃって立ち上がったままパンッと両手でハイタッチをした。
「今回も斗空の負け~~~!斗空もう数えるのやめるで!?トランプ大会何敗目かわからへんからな!」
「…7敗目」
「覚えてんのかい!」
丁寧に数えてるのも斗空らしい、それも笑っちゃった。
ずっと斗空とちゃんと話してなかったから、今すごく嬉しかったの。
悔しそうにする斗空にわざと勝ち誇った表情を見せれば眉間にしわを寄せて、そしたらまた笑って。
またこうして笑えるのが…
「ほな、明日の昼ご飯担当は斗空やな!」
とんっと智成くんが斗空の肩を叩いた。でもすぐにハッとした顔をして手を離した。
「あっ!ごめんちゃうかった、いつもの癖で!」
離した手で口を抑える、そんなしまった…みたいな顔しなくても。
「…歩夢ちゃんは今日が最後やったな」
「……。」
あ、どうしよう。
すごい楽しかったのに、急に現実に戻されたみたい。
すーっと消えていく、頬を上げていた筋肉が力をなくして。
みんな静かになっちゃった。
「……。」
何か、私が何か言った方がいいよね?
じゃないと、どんどん暗くなっていっちゃう。
でも今口を開いたら…っ
「挨拶でもすれば、最後なんだろ」
頬杖を付いた斗空が手に持ったジョーカーを見ながら言った。
「う、うん!あゆむんあいさつして!」
「そうやな!これ貸そか!?おたマイク!」
智成くんからお玉を渡されて、2人が座ったから私だけ立ってる状態になった。
これが本当に最後…
になっちゃうのか。
「……。」
お玉の柄の部分をぎゅっと持って、とんがり帽を外した。
「今日は…私のためにありがとうございました!」
ぺこりと腰が90度に曲がるくらい頭を下げた。勢い余ってそこまでしちゃったけど、それだけ感情が入り込んじゃってたから。
顔を上げるとみんな私の方を見ていてちょっとだけ緊張しちゃった。
「えっと…っ、急な転校が決まってすごい不安だった時に行くはずだった女子寮には空きがないって言われて…臨時寮に来ることになって」
思い出すあの日のこと、海外で暮らすかここで暮らすかそう言われて私はここを選んだ。
「最初は…なんだこの寮!?って正直めちゃくちゃ嫌だったんだけど」
「歩夢ちゃん正直すぎるで」
「素直でいーんだよあゆむんは♡」
私の言葉に智成くんとさっちゃんが時折あいづちを入れる、それを斗空はただ静かに聞いて。
「歓迎会してくれたことはすごい嬉しかったし、トランプで負けた斗空が作ってくれたカルボナーラは今まで食べたカルボナーラの中で1番おいしくて、夜は苦手だったんだけどさっちゃんに借りたシフォンのおかげで毎日眠れるし、寮に来たばっかで困ってた私に智成くんが案内してくれたからすぐに覚えられたし、それから…」
まだいっぱいある。
学校で1人だった私を1人じゃないよって教えてくれたのもみんなだった。
誰もいないプールを見た時、悲しくてつらくてもう学校やめたいなって思ったけど振り返ったらみんながいたから…
ここへ来てよかったなって思ったの。
やっぱりここがいいって思ったの。
あんなに嫌だと思ってた臨時寮が大好きになってたんだよ。
でも言えないよ。
もう何も言えない。
だって涙がポロポロ溢れて来るから。
喋りたくても声が出せなくて、ひくひくと声が詰まる。
拭いても拭いても涙は止まらくて、ポタポタとこぼれた涙は机を濡らして。
みんなといるのが楽しかった。
みんなといられるのが嬉しかった。
みんなといるのが好きだった。
だから私…
ぎゅーっとお玉の柄を両手で握りしめる。
「本当はずっと…ここにいたいですっ」
女子寮になんか行きたくない。
ずっとここにいたい。
出て行きたくなんかないよ。
「私も、みんなと一緒にいたい…っ」
みんなと離れちゃうなんて嫌だよ…!
「あゆむん行かないでいいよ~!ずっとここにいてよ、一緒にいよーよ~~~!」
「せやで、おったらええねん!いくら女子寮に行かなあかんって言うても関係ないおったらええ!」
同じようにポロポロ涙を流していたさっちゃんがぎゅっと抱きしめてくれる、泣きそうになりながらも必死に涙を堪えた智成くんもそばに来て慰めてくれた。
そんなことをされたら私はまた泣いちゃう、出て行きたくなっちゃうよ。
だってこれが私の本当の気持ちだもん。
ねぇ…斗空は?
斗空はどう思ってる…?
静かに息を吸って、涙を拭って顔を上げた。
もうぐちゃぐちゃの顔でどうしようもなくてひどい顔してたけど…
前を向いたら斗空と目が合ったの。
笑ってた。
優しく微笑むように、私に笑いかけてた。
そんな顔…っ
また泣きたくなっちゃう…!
「よし、行くか」
ずっと座っていた斗空が立ちあがった。
「え、とあぴどこ行くの??」
「今いいとこやぞ、斗空くん空気読んで!」
「だから行くんだろ」
フッと笑って食堂のドアの方へ足を向けた。頭にクエスチョンマークの浮かんでる私たちに呼びかけるように。
「伝蔵さんとこ、みんなで行けば怖くないだろ?」
夕方になるとでんちゃんは臨時寮にやって来る。一応ここの寮長だから、夜はここで過ごすことになってる。
もちろんでんちゃんの自室もあるけど、まだ就寝前…
この時間なら管理室にいる!
斗空に言われてあとをついて食堂から出た。
食堂から管理室はすぐそこで出た瞬間から姿が見えるから。
「でんちゃん…っ!」
管理室の小窓に駆け寄った。
「三森さん…みんなどうしたの?何かあった?」
「あの…っ」
すぅって息を吸ったけど言葉が出て来ない。
それどころか涙腺は緩くなるばっかりで、じわじわと涙が溜まっていく。
でんちゃんが片方の眉を上げて不思議そうに見てる。
どうしよう、どうやって言えば…
とんっ
背中に体温を感じた。
優しく触れる3人の手の温度。
そうだ、私1人じゃないんだ。
みんながいるんだ。
「私、臨時寮にいたいですっ」
ぎゅって目をつぶったから涙が出て来ちゃった。
「ここを出て行きたくないですっ」
私がいるべきところはここじゃないかもしれない、せっかく空いた女子寮に行かなくちゃいけないものわかってる。
だけど…
「ずっとずっとここがいいです…!」
臨時寮が好きだから。
もっともっとみんなといたい、ここでー…
「いいよ、三森さんがいいなら」
「………。」
「「「「えぇ!?」」」」
小窓越しにかけていたメガネを外したふぅっと息を吐きながら吹き始めた。
え、そんなあっさり…?
もっと何か言われると思ってたから逆に戸惑っちゃって無言の時間ができちゃったじゃん!
「女の子1人だと不安かなって思っただけで、女子寮を手配していなかったのはこちらのミスだし早めにどうにかした方がいいと思ってたからねぇ」
それは、そうなんだけど…
これはこれでいいのかっていう…
結構ぐいぐいな感じで管理室をたずねちゃったから今小窓の前で立ち尽くしてる。
「あくまで臨時寮は臨時で入る寮だけど出て行かなきゃいけないってルールもないしね、佐々木くんだって部屋空いたのにここに残ってるでしょ」
あ、確かに…斗空もシャワーが壊れたから臨時寮に来たけど部屋が空いてもにいるよね。
「そーいえばそうやな」
「……。」
「斗空くんそれ忘れてたん!?」
あれ?じゃあ私は何を悩んでいたの?
こんなにワーワー騒いじゃって…
「泣くほど嫌ならここにいていいよ、好きなだけね」
でんちゃんがメガネをかけ直した。
「い…いいんですか?」
「いいよ、その代わりもう二度と屋上で花火は禁止だからね!」
ピシッと指を立てて、反対の手でカチャッとメガネを上げた。
屋上で花火はもう絶対しない、だから…
いいんだ、私ここにいても…
いいんだ。
「あゆむーん、やったね!」
「さっちゃんっ」
「よかったなぁ歩夢ちゃん!」
「智成くん!」
背中を押してくれた手が温かかった。
それが何よりも心強くて、大丈夫だって思えたの。
少し顔を上げて見れば斗空が微笑んでて、私も笑って返した。
不安なんて全然ないよ。
3人がいてくれるなら。
だからこれからもー…
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