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イクスはアタシのものなのよ!
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ドレイクたちにつかまれて空に飛び上がった俺とエリーを、シャルロットが見上げる。
「グリフォンにワイバーン……。なるほど。それがいたから馬車の私よりも早く進めたってわけね。でも近くにそんなモンスターの気配なんてなかった。どこかに召喚師がいたってこと?」
シャルロットが首をかしげている。
シェイドがダンジョンマスターだなんてわかるわけないからな。
ダンジョンの入り口もすでに閉じているみたいだし、気がつくことはないだろう。
空ではエリーが歯を食いしばりながらグリフォンの背に這い上がっていた。
魔法陣から離れたおかげか、体も少しは動くようになっている。
しかし動いたおかげで両肩の傷口が広がったのか、赤く染まっていた服がさらに赤く染まっていく。
「お、おいエリー、大丈夫か!?」
「あぁ!? 大丈夫に決まってるでしょ、あんな奴の攻撃なんて痛くもかゆくもないわよ……!」
強がりを口にしているが、その顔は脂汗にまみれていた。
「強がってる場合じゃないだろ。<ヒール>」
回復魔法をかけてやる。
俺が使えるのは初級の回復魔法だし、レベルダウンされているせいで効果も下がっている。
それでも痛み止めくらいにはなったようだった。
「……ありがと」
珍しく感謝の言葉を口にする。
多分本当に辛かったんだろうな。
見てるこっちも痛いくらいだったし。
エリーが動くようになった腕で青いポーションを取り出すと、一息に飲み干した。
赤いポーションが魔力回復用なのに対し、青いポーションは体力回復用だ。
さらにもう1本取り出すと、そのまま傷口にぶっかけた。
「……ッ!」
傷口にしみたんだろう。
苦痛に顔を歪めたが、悲鳴だけは漏らさなかった。
声を上げたら負けだとか思ってるんだろうな。
ずいぶん豪快な使い方だが、効果はあったようで、苦痛に歪んだ表情が徐々に和らいでいった。
いや、むしろますます険しい表情になっていく。
目には爛々と殺意の光を灯していた。
「あの野郎、この借りは絶対1億倍にして返してやる!!」
エリーの復讐心に火をつけてしまったようだ。
その傷を1億倍にしたら全身微塵切りにしても足りないのではないだろうか。
シャルロットがその様子を見上げている。
「回復されたみたいね。いつまでも空に飛ばれてるとやっかいだわ」
「心配しなくてもすぐそっちに行ってやるわよ」
「いえいえ。エリーさんのお手をわずらわせる必要はありません」
シェルロットがそう言うと、杖を再び魔方陣に突き立てた。
「《ソウルブレイクLV3000》」
ざらついた低い声が、上空にいる俺の耳元にまで届く。
普通の声じゃない。
魔力によって強化された声だ。
空に逃げたことで効果が薄れたはずのレベルダウンの効果が、さらに強くなって襲ってきた。
さっきよりもさらに強力な呪いだと!?
全身の力が抜けてドレイクの背から落ちそうになる。
それどころか、ドレイクもレベルダウンの呪いをかけられてしまったようだ。
「きゅぃい……」
ドレイクが、か細い悲鳴を上げて墜落する。
衝撃で俺は地面に投げ出された。
となりを見ればグリフォンたちも同じように墜落していた。
傷が治ったばかりのエリーも同様に地面に投げ出される。
こんな強力な呪いを、なんの代償もなしに使えるはずがない。
シャルロットだってそう何度も使えるわけじゃないだろう。
「ふふ、私がこんな力を使えることが不思議かしら?」
「ああ……」
「ついでにもうひとつ教えてあげる。倒れた冒険者たちが再び起き上がった力。それから街の警備兵たちがみんな私の仲間になった力。どちらも同じものなのよ。わかるかしら」
「いったいなにをしたというんだ……」
「大したことじゃないわ。ただ<チャーム>をかけただけ。少し強めにだけどね」
「<チャーム>だと? 警備兵を裏切らせるならともかく、どうして倒れた者が起き上がるんだ……」
「この世界で最も強い感情はなにか知ってるかしら? それはね、愛なのよ。愛する人のためならば死の淵からでも蘇る。素敵な話でしょう?」
「バカな……。そんなに強力な<チャーム>なんて聞いたことがないぞ……」
「でしょうね。夢魔の力を借りた、世界で私一人しか使えない魔法だから。前置きはこれくらいでいいかしら。私がここに来た目的はふたつ。エリーを倒すこと。そしてイクス。貴方を手に入れることよ。エリーはあなたの奴隷なのだから、あなたを手に入れればエリーも手に入る。簡単な話よね」
それを聞いてようやく俺は、シャルロットの話の意味に気がついた。
「まさか<チャーム>を俺に使うつもりなのか?」
「ふふっ、正解」
まずい。そんなに強力なチャームをかけられたら抵抗できないだろう。
しかし逃げようにも今の状態ではまともに動くことすらできなかった。
シャルロットが倒れた俺の正面にかがみ込むと、顔を持ち上げてまっすぐに俺の瞳をのぞき込んだ。
「さあ、私の瞳を見つめなさい。身も心も魂も、全部私のものになるのよ。<チャーム>」
魅了魔法がかけられる。
心の中が侵食されて行くのが分かった。
俺が好きなのはエリーだ。そう何度も心の中で唱え続ける。エリーだ。忘れるわけがない。あの子の名前はエリー=シャルロット……。
「……んな」
その小さな声はエリーの方から聞こえた。
「あら、何か言ったかしら」
「ふざ、けんな……っつったのよ」
強力な呪いをかけられているにもかかわらずエリーが立ち上がる。
全身が血まみれで、力の入らない足が小刻みに震えている中でも、二つの瞳だけが力強くシャルロットを睨みつけた。
「ご主人様は……イクスはアタシのものなのよ! アンタ如きに渡すわけないでしょ!!」
決然と叫ぶ。
手に聖剣を生み出すと、猛然と駆け出した!
「グリフォンにワイバーン……。なるほど。それがいたから馬車の私よりも早く進めたってわけね。でも近くにそんなモンスターの気配なんてなかった。どこかに召喚師がいたってこと?」
シャルロットが首をかしげている。
シェイドがダンジョンマスターだなんてわかるわけないからな。
ダンジョンの入り口もすでに閉じているみたいだし、気がつくことはないだろう。
空ではエリーが歯を食いしばりながらグリフォンの背に這い上がっていた。
魔法陣から離れたおかげか、体も少しは動くようになっている。
しかし動いたおかげで両肩の傷口が広がったのか、赤く染まっていた服がさらに赤く染まっていく。
「お、おいエリー、大丈夫か!?」
「あぁ!? 大丈夫に決まってるでしょ、あんな奴の攻撃なんて痛くもかゆくもないわよ……!」
強がりを口にしているが、その顔は脂汗にまみれていた。
「強がってる場合じゃないだろ。<ヒール>」
回復魔法をかけてやる。
俺が使えるのは初級の回復魔法だし、レベルダウンされているせいで効果も下がっている。
それでも痛み止めくらいにはなったようだった。
「……ありがと」
珍しく感謝の言葉を口にする。
多分本当に辛かったんだろうな。
見てるこっちも痛いくらいだったし。
エリーが動くようになった腕で青いポーションを取り出すと、一息に飲み干した。
赤いポーションが魔力回復用なのに対し、青いポーションは体力回復用だ。
さらにもう1本取り出すと、そのまま傷口にぶっかけた。
「……ッ!」
傷口にしみたんだろう。
苦痛に顔を歪めたが、悲鳴だけは漏らさなかった。
声を上げたら負けだとか思ってるんだろうな。
ずいぶん豪快な使い方だが、効果はあったようで、苦痛に歪んだ表情が徐々に和らいでいった。
いや、むしろますます険しい表情になっていく。
目には爛々と殺意の光を灯していた。
「あの野郎、この借りは絶対1億倍にして返してやる!!」
エリーの復讐心に火をつけてしまったようだ。
その傷を1億倍にしたら全身微塵切りにしても足りないのではないだろうか。
シャルロットがその様子を見上げている。
「回復されたみたいね。いつまでも空に飛ばれてるとやっかいだわ」
「心配しなくてもすぐそっちに行ってやるわよ」
「いえいえ。エリーさんのお手をわずらわせる必要はありません」
シェルロットがそう言うと、杖を再び魔方陣に突き立てた。
「《ソウルブレイクLV3000》」
ざらついた低い声が、上空にいる俺の耳元にまで届く。
普通の声じゃない。
魔力によって強化された声だ。
空に逃げたことで効果が薄れたはずのレベルダウンの効果が、さらに強くなって襲ってきた。
さっきよりもさらに強力な呪いだと!?
全身の力が抜けてドレイクの背から落ちそうになる。
それどころか、ドレイクもレベルダウンの呪いをかけられてしまったようだ。
「きゅぃい……」
ドレイクが、か細い悲鳴を上げて墜落する。
衝撃で俺は地面に投げ出された。
となりを見ればグリフォンたちも同じように墜落していた。
傷が治ったばかりのエリーも同様に地面に投げ出される。
こんな強力な呪いを、なんの代償もなしに使えるはずがない。
シャルロットだってそう何度も使えるわけじゃないだろう。
「ふふ、私がこんな力を使えることが不思議かしら?」
「ああ……」
「ついでにもうひとつ教えてあげる。倒れた冒険者たちが再び起き上がった力。それから街の警備兵たちがみんな私の仲間になった力。どちらも同じものなのよ。わかるかしら」
「いったいなにをしたというんだ……」
「大したことじゃないわ。ただ<チャーム>をかけただけ。少し強めにだけどね」
「<チャーム>だと? 警備兵を裏切らせるならともかく、どうして倒れた者が起き上がるんだ……」
「この世界で最も強い感情はなにか知ってるかしら? それはね、愛なのよ。愛する人のためならば死の淵からでも蘇る。素敵な話でしょう?」
「バカな……。そんなに強力な<チャーム>なんて聞いたことがないぞ……」
「でしょうね。夢魔の力を借りた、世界で私一人しか使えない魔法だから。前置きはこれくらいでいいかしら。私がここに来た目的はふたつ。エリーを倒すこと。そしてイクス。貴方を手に入れることよ。エリーはあなたの奴隷なのだから、あなたを手に入れればエリーも手に入る。簡単な話よね」
それを聞いてようやく俺は、シャルロットの話の意味に気がついた。
「まさか<チャーム>を俺に使うつもりなのか?」
「ふふっ、正解」
まずい。そんなに強力なチャームをかけられたら抵抗できないだろう。
しかし逃げようにも今の状態ではまともに動くことすらできなかった。
シャルロットが倒れた俺の正面にかがみ込むと、顔を持ち上げてまっすぐに俺の瞳をのぞき込んだ。
「さあ、私の瞳を見つめなさい。身も心も魂も、全部私のものになるのよ。<チャーム>」
魅了魔法がかけられる。
心の中が侵食されて行くのが分かった。
俺が好きなのはエリーだ。そう何度も心の中で唱え続ける。エリーだ。忘れるわけがない。あの子の名前はエリー=シャルロット……。
「……んな」
その小さな声はエリーの方から聞こえた。
「あら、何か言ったかしら」
「ふざ、けんな……っつったのよ」
強力な呪いをかけられているにもかかわらずエリーが立ち上がる。
全身が血まみれで、力の入らない足が小刻みに震えている中でも、二つの瞳だけが力強くシャルロットを睨みつけた。
「ご主人様は……イクスはアタシのものなのよ! アンタ如きに渡すわけないでしょ!!」
決然と叫ぶ。
手に聖剣を生み出すと、猛然と駆け出した!
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