もう離さない

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第2章 【逃走】

15話 説明と登録

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女の人に連れられて来た部屋は客室という感じではなかった。
(なんか………偉い人の部屋とかじゃないか?)

「ユートさん、申し訳ありません」

部屋に着いた途端に女性が謝罪する。

「え? どうしたんですか?」

訳がわからず聞くと、どうやらレクスさんの態度についてだった。

「ユート君の境遇はゼフィスから聞きました。辛い想いをしましたね」

どうやらゼフィスさんがあの勘違い境遇を伝えたらしい。目の前の女性は可哀想な者を見る目で見ている。

正直、そんな目で見られるほど境遇はやばくないと思う。まあ、確かに異世界転移させられたあげく殺人鬼の家にいたなんて………あれ? 思ったよりヤバイ境遇にあってる?

何て考えていると、女性は何を勘違いしたのかわからないが、さらに可哀想な者を見る目をしていた。

(……絶対になんか勘違いされてる)

訂正したい気持ちもあるが、それをすると話がさらにこじれそうなためそれもできず、このままでは話も進まないため……

「えーと、……とりあえず自己紹介してもいいですか?」

「あぁ、そうですね。私ったら……」

「俺の名前は勇斗です。よろしくお願いします!」
「ええ、よろしくねユート君。私はこのフィラフト街の冒険者ギルドの長をしているクレアと言います」

女の人はなんとギルド長だった
ギルド長って社長みたいなものだよね?

「ギルド長ってこの街で一番偉いギルドの人ってことですよね? 何で受け付けにいたんですか?」

「普段は受付にはいないわよ。けど今日は、ゼフィスから先に連絡が来てたからね。あなた達を待ってたのよ」

「へぇ~、やっぱりゼフィスさんはすごいんですね! Sランク冒険者ってすごいんだな……」

Sランクにもなるとギルド長自ら出向くのだと思い、ゼフィスさんは凄いなと改めて感じているとクレアさんが首をかしげた。

「………何か勘違いしているみたいだけど、別にゼフィスがギルドに来ても用件がなければいちいち行かないわよ? ゼフィスも嫌がるだろうし、私もそこまで暇ではないわ」

「え?」

「今回はユート君がいるからよ」
「え? 俺?」

疑問しかない。ゼフィスがSランク冒険者だからギルド長が出てくるのならまだわかる。でも俺は冒険者ですらないし、ギルド長が出てくる理由はない。

顎に手を当てながら頭を捻ったが、答えは出なかった。
そんなユートの様子を見て、クレアはボソリとこぼす。

「無防備…この子は自分の容姿の良さを理解した方がいいわよね………ゼフィスが心配するのも理解できるわね」

クレアが言っていることは、最後の方しか聞き取れなかった。ユートがその声に顔を上げると、クレアが困った子を見るみたいに見ていて、こちらが困ってしまう。

(………何でそんな目で見るんですか?)

「はぁ、まあそれはゼフィスがなんとかするだろうから、とりあえずおいておきましょうか。
ほら、とりあえず座りましょう? ゼフィスもそろそろ来ると思うから」

「はい」

色々と疑問もあるが、勧められたため席に座る。
 しかし、女性でもまだ信用はできないのですぐにでも逃げられるように浅く腰かける。


「さっきも言ったけれど、ユートさんの事情は聞いてるのよ。こちらとしても、貴族が関わっていたりすると揉めて面倒事になることもあるから、事前に把握しておいて場合によっては根回しを行ったりしているの」

 根回しと聞いてビクリとする。
 俺のイメージだと根回しは、太って腹が出たおっさんに多額の金を納めたり、悪いことを黙ってもらうためにするものというマイナスのイメージしかない。
 この人も、実は何か悪いことを黙らせようとしているのかと身構えるが、そんなこちらの様子に気付いたのか、クレアはふふっと笑いながら説明してくれた。


「そんなに構えなくても大丈夫よ。根回しと言っても悪いことをするんじゃなくて、所属先の変更……とでも言えばわかるかしら? 
例えば、どこかの貴族家の奴隷として登録されていた場合、その人が冒険者に向いていたり、理不尽に奴隷にされていた人だった時は、ギルドに来たら保護することもあるわ。まぁ、ケースバイケースね。例外もあるのだけれど、基本的に保護することが決まったら話をわ。そのための根回しよ」

クレアはうふふと笑う。
話がつくではなく、つけるというところにどことなくクレアの人となりが出ているように感じる。


「まぁ今回、ゼフィスからの説明だと後者かと思って調べたんだけど、今のところ情報が無いようなのよ。
だから、身分証としてギルドカードを持ってる方がいいってゼフィスは判断したみたい。私も同意見だわ。それに、ギルドに所属してる者に無理にちょっかいをかけてきたら、を執れるしね」


ちょうどそこで部屋をノックする音が聞こえて、クレアの返事も待たずにゼフィスが入ってきた。
そして、ゼフィスはユートの前に膝をつき、目線を合わせた。

「すまねぇ待たせた……ユート悪かった。嫌な思いさせちまった……あいつには俺からも言っておいたが、ユートも言いたいことあったら言ってくれ……なんなら殴ってもいい」


ゼフィスは尻尾と耳をしょぼんと下げている。


「ん?  別に急に放り出されたことにはビックリしましたけど、怒りませんよ? レクスさんはゼフィスさんの友達でしょ? 久々の再会ならそちらを優先するのもわかりますし」

「ん?」
「え?」

ゼフィスは、ユートと話が食い違っていることに疑問を浮かべ、ユートもゼフィスが疑問の浮かべたことに疑問を浮かべる。
そして、ゼフィスは何か思い当たったのか、少し目を見開いた。

「ユートは、………いや、なんでもねぇ。」

ゼフィスはそこまで言うと、頭を少し振るいユート隣に腰かけた。

「うわっ、ととっ」

勇斗は、浅目に座っていたため、ゼフィスの座った反動で滑り落ちかけたが、ゼフィスが支えたため、落ちることはなかった。

「大丈夫かユート? ……ほいっと」

ゼフィスは大丈夫かと問いかけたが、何かを思い付いたのか、一旦動きを止めた。そして、ユートの脇の下に手を入れると、そのまま彼を自分の膝の上に移動させた。

「え? ……ちょっ、降ろしてください!」
「こうすれば落ちないだろ?」

ゼフィスの思いもよらぬ行動に困惑していたが、状況を理解したユートは顔を真っ赤にして抵抗した。
が、ゼフィスはそのままユートのお腹を抱えるように腕を回してしまった。ごつい上に、獣人であるゼフィスに敵う筈もなく、ユートの抵抗は意味をなさなかった。

抵抗に疲れ、諦めと羞恥に顔を少し紅めて死んだ目をしていたユートだったが……

「ユート軽すぎるぜ。もっと肉付けねぇとこのまま折っちまいそうだ」

その言葉に、自分が二つ折りにされるイメージが浮かび、顔色は途端に赤から青に変わった。

「折れる……」

ユートが小さくつぶやき、それに対してゼフィスが再度何か言おうとしていた時ゴホンと咳払いがそれを遮った。


咳払いをしたのはクレアだ。

「仲がいいのは良いのだけれど、そろそろいいかしら? まず、ゼフィスは私には言うことないの?」

クレアは張り付いたような笑顔で言う。彼女からは黒いオーラが出ている。
それも当然だろう。部屋の主である自分に対して何のリアクションもなく、イチャイチャし始めたのだから。


「あ、あぁ、ありがとうクレア。今日は時間とってくれてサンキューな」

ゼフィスはひきつった笑みで、とりあえず、ギルド長という忙しい立場でありながら、時間をとってくれたことに対して感謝を伝えたが、いつも通り過ぎる態度だった。勿論、そんな態度のゼフィスに、クレアの額に青筋が浮かぶ。

「あんた、本当に感謝しているのかしら? 猛獣どもからこんなかわいい子を守ってあげたのよ?」
「……わかってる。…………アリガトウゴザイマス」

片言になったのは、猛獣冒険者からユートを離してくれたことに感謝しているが、それを自分ができなかったことに悔しさも感じているためだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ご無沙汰しております! 皆様いかがお過ごしでしょうか。
最近は私生活がバタついており更新にムラができ申し訳ありません。
また、読んでくださってる方々、ありがとうございます!
ジャックさんと優斗君が早くちゃんと出会えるように頑張ろうと思います。

これからもどうぞよろしくお願いします。
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