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第10話 いま語られる驚愕の真実! もう一人の青年紳士
しおりを挟むわたしは歩を進めました。ここまできて後戻りはできません。
王子らしき人影が鎮座まします玉座に向かって、真っすぐ歩いてゆきます。
「ッ!!」
思わず足が止まり、立ち尽くします。
なんと、玉座にいるのは人間ではありませんでした。
それは……
地蔵です! 石仏がちょこんと椅子に飾られていたのです。
「遅かったようですね」
いきなり背後から声が響きました。
ハッとなって振り返ると、そこにいたのは、わたくしが撃ち殺した青年紳士そっくりの殿方でした。顔も背も、まとっている例の純白スーツも寸分違いません。
「あなたは……?」
「トギ・タツルと申します。あなたはすでに、ぼくと出会っているはずです」
「では、わたしが撃ち殺して差し上げた……」
トギさんは素早く手を振って、わたしの言葉を遮りました。
「あなたが殺したのは『別のぼく』です。もう少し詳しくいうのなら『別時空からきた、もう一人のぼく』ということでしょうか」
わたしには、この方がなにをおっしゃっているのかわかりません。
多分、わたしの顔や頭には、はてなマークがいっぱい張り付いていたのでしょう。トギさんは苦笑めいた表情をのぞかせると、
「そのことはおいおい説明するとして、そこに座って、いや、置かれているのはヨモヅナム王子です」
「このお地蔵さまが?!」
わたしは思わず、すっとんきょうな声をあげてしまいました。
「石化したのです。あなたを待ちきれなかった……」
トギさんの口調には痛ましさがにじみ、ヨモヅナム王子の境遇に幾分の同情を寄せているようです。
「あなたはここにくる途中、白い地底人に遭遇しませんでしたか?」
「はい。粘土のような衣服をまとった白いひとたちが現れて……」
「あれは粘土ではなく、皮膚そのものが石化しはじめたひとたちなのです」
石化?!
では王子だけではなく、その下々のものたちも石化の病にかかって苦しんでいたのでしょうか?
トギさんは説明をつづけます。
「同族婚を繰り返してきた地底世界の住人・ゲリンガ人は種としての寿命を迎えていました。この危機を脱するには、族外種との結婚しかありえません。石化病にかからぬ強い遺伝子を持った子孫を残す必要があったのです」
そうでしたか。王子にしてみれば一族の命運がかかった結婚。怪獣ヅゴラによる強硬手段に訴えてまで成婚を急いだわけがいま、わかりました。
「でも、間に合わなかった。石化のスピードは思いのほか早く、いまでは退化した一部の市民が生存するだけで、王族はすべて途絶えてしまいました」
退化した一部の市民とは、オオワラジムシを食して生きながらえている、あの白いひとたちのことでしょう。
「さあ、地上へもどりましょう」
トギさんはわたしに右手を差し出しました。
「あなたには、こことは違う別の場所へいってもらいます」
第11話につづく
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