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第11話 傾星の美女! 悲痛なるねがひ
しおりを挟むトギさんは裏道を知っているようです。
あのオオワラジムシにも、退化した地底人にも遭遇せず、わたしはトギさんに先導されて無事、地上へでることができました。
そこはヨモヅ岩稜の頂上で、一望のもとに下界を見渡すことができます。
でも……。
なんだか地上の風景が違います。
わたしが旅立ったのは早朝でしたが、いまはすっかり夜の帳が降りています。地底世界ゲリンガをさまよっていたのは、わずか数時間のはずです。
それだけではありません。闇に閉ざされた空中を雪のような粉片が舞っています。
わたしは手を伸ばし、その欠片をつかみました。
それは灰でした。なにかの燃えカスです。雪ではありません。
「これは……?」
わたしは傍らに立つトギさんにききました。
「粉塵です」
トギさんのこたえはそっけないものでした。なんだか冷たさを感じます。
「粉塵? なんの粉塵ですの?」
わたしは問いを重ねました。
「地上のありとあらゆる無機物有機物が灰となったのです。あなたのせいで」
わたくしのせい?!
これは聞き捨てなりません。わたしは地底と地上の争いを治めるために、自ら人身御供の花嫁となって地底に赴いたのに……。
トギさんは黙ってオペラグラスを差し出しました。
わたしはそれを受け取り、遠くの景色を覗き込みます。
「ッ!!」
声もでませんでした。
わたしが住んでいた超高層タワーマンションは瓦礫と化し、その真ん中に怪獣ヅゴラがモニュメントのごとく石像となって佇立しています。
トギさんが晴れた星空の一角を指さし、再び口を開きます。
「どうやら地底世界と地上では、時間の流れが違うようです。星の位置をみる限り、少なくとも5年の歳月が流れ、そのあいだに地上はヅゴラによって滅ぼされたのでしょう。
役目を終えたヅゴラは石に還りました。ヨモヅナムが抱いた怨念は地上の終焉とともに消失したようです」
「そんな……!
それがわたくしのせいだなんて……。あまりにも理不尽です。納得できません!!」
トギさんはわたしを見やると、痛まし気に眉根をよせました。
「それもこれも、あなたが美しすぎるのがいけないのです。
地上人だけではない。地底人すらもあなたは魅了してしまった。それが地球全体を巻き込む大戦争に発展し、取り返しのつかない大破局を招いた。
いいですか? 美しさは罪なのです。古代王朝のいくつかは傾城の美女によって滅びました。あなたの美は地球規模の厄災となって傾城ならぬ傾星の因果をもたらしたのです」
ああ、なんてことでしょう。わたしが…わたくしがあまりにも美しいばかりに……。
再び生まれ変われるなら、今度はブスになりたい。
だれもがスルーするような醜女に。
「では、いきましょうか?」
つと先に立ったトギさんがわたしを手招きしました。
そういえば彼はわたしに、
——あなたには別の場所にいってもらいます。
と、おっしゃいました。別の場所とはどこなのでしょう?
「療養所……もしくは病院といったほうが適切かもしれません」
どうして、そんなところにいかねばならないのか、わけがわかりません。わたしは至って健康です。
「あなたが、ある病にかかっているのは明確です」
トギさんがまるで医師のような口調で宣告しました。
「ある病?」
わたしは聞き返します。
「それは……」
一拍の間をおいてトギさんはいいました。
「美人病です」
第12話につづく
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