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第12話 いざ魔の山へ 新たなる旅立ち
しおりを挟む美人病?!
聞きなれない病名です。わたしは思わず訊き返しました。
それはどんな症状の病なのでしょう。
「美とはそもそも主観的かつ相対的な事象です。
ですが、美人病に罹患したひとたちは絶対的な美に進化してゆきます。
絶対的な美。
それは人間、いや生物というカテゴリーを超えます。
つまりは有機化学や物理法則をも超えた神話的な存在となるのです」
トギさんの説明は難しすぎて、なんのことやらわたしにはさっぱりわかりません。
わたしはなおも説明を求めました。
「神話的な存在となれば、どうなるというのですか?」
「宇宙の彼方に住まう古代の神々が目覚め、あなたを、いや、あなた方をその内側に取り込もうとします」
やっぱり意味がわかりません。わたしは話の角度を変えてみました。
「その療養所だか病院だかにいけば、美人病は治ると……」
「絶対に治るという確証はありません。ですが、進行を遅らせることができます」
「いかなければ、いけませんか?」
そんなわけのわからない病気で治療を受けるなんて、不安しかありません。
すると、トギさんはにこりと笑みを浮かべました。
「心配には及びません。療養所にはシグマさまがおられるはずです」
「”おにいさま”がっ?!」
わたしは思わず声をあげてしまいました。
「ぼくはそもそもシグマさまの依頼を受けてあなたを迎えに現れたのです」
「”おにいさま”は生きておられるのですね!!」
わたしの声ははずみました。たとえ地上人のほとんどが死に絶えたとしても”おにいさま”さえ生きていてくだされば怖いものはありません。
「もちろんです。シグマさまは人類の指導者のひとりであり、古代の神々からあなたを守るために生を受けたお方なのですから」
ゴトン……ガコン……。
闇の彼方からゴンドラが現れました。
わたしたちが立っているそこはヨモヅ岩稜に設けられたロープウェイの発着場です。
「さあ、お乗りください」
わたしはトギさんに手を引かれ、ゴンドラに乗り込みました。
ですが、トギさんはゴンドラの外に立ち、わたしを見送る構えのようです。
「ご一緒してはくださらないのですか?」
「ぼくにはまだ仕事が残っています。わずかですが、生き残った人類のため、復興計画を立てねばなりません」
トギさんはつづけます。
「このロープウェイの向かう先は摩能山。通称『魔の山』と呼ばれる場所ですが、なあに恐れることはありません。シグマさまがあなたをお守りするはずです」
ゴトン……ガコン……。
ゴンドラが動きだしました。
トギさんが手を振っています。
ゴンドラの進むスピードは速く、トギさんの姿はみるみるうちに遠ざかり、夜の闇に消えていきました。
用意がいいことにゴンドラの中には着替え一式の平たい衣装ケースがありました。
せっかくのウェディングドレスは洞窟のなかで泥に汚れ、岩角に引き裂かれたりしてぼろぼろになっています。
衣装ケースから着替えを取り出します。
色はブラウン。マジョリカプリーツのシックなワンピースです。着心地も抜群で、わたしのためにあつらえたような衣服ではありませんか。
わたしはゴンドラのガラス窓を姿見代わりにして全身を映してみます。
すると……。
ニコタマ鳥がゴンドラと並走して北の空に向かっているのがみえました。
カヘッ、カヘッ。
イゲ、ヴァガ。
イゲ、ヴァガ。
クヘーーッ!
クヒッ、クェーーッ!!
イゲ、ヴァガ。
なんだか「いけ、馬鹿」といわれているようです。もう、ゴンドラに乗っているのだから、ニコタマ鳥にいわれなくても向かうしかありません。
摩能山の発着場がみえてきました。
背後の山腹にみえる建物は美人病患者の療養所でしょうか?
夜が明けてゆきます。
曙光が山肌を照らし、深い緑とたなびく靄を浮かびあがらせています。
これから、この場所でいかなる運命が待ち受けているのでしょうか?
なにが起きてもわたしは恐れません。
そこには”おにいさま”がいらっしゃるのですもの。
第一篇 破局滅却の章 完
第二篇 魔界山怪の章へつづく
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