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第二篇 魔界山怪の章
第16話 大合唱!!
しおりを挟むわたしも窓辺へと駆け寄りました。
紫色の雨粒が窓をたたき、中庭を濡らしています。
そのときでした、けたたましいサイレンの音が鳴り、暗黒の夜空に響き渡ります。
これはなにかの警告に違いありません。
「くるわ」
傍らのヨアンナがぽつりつぶやきました。なにがくるというのでしょう?
「ヨアンナ、なにがくるというの?」
周りの人々も怯えています。
レーヴァンタインさんの黒猫も唸り声をあげ、あれほど騒がしかったデレブイアさんですら固く口を閉ざし、闇の彼方を見つめるのみです。ただ一人、仮面紳士マジシャンだけはアイマスクに隠れて表情が読めません。
「ズビィよ」
ヨアンナがこたえました。ズビィとはパメル語でゾンビのことです。
「えっ?!」
わたしは思わず訊き返しました。
ウオオウーーン!!
ワウオオーーン!!
疑問をかき消すようにサイレンの音が一際高鳴ります。
「きたぞっ!」
食堂の客の一人が窓外の一角を指さしました。
その指し示した指の方角から黒い人影がわらわらと集団でやってきます。ヨアンナのいうズビィ——ゾンビでしょうか?
ザッ……ザッ……ザッ……。
雨に濡れた土を踏む音がこの食堂の室内にも響いてきました。
ズビィことゾンビは群れを成して中庭に集まり、二階の食堂を見あげます。
食堂の窓に張り付いて自分たちを見下ろしている人々を逆に見つめ返しています。その目にはなんの生気も表情も宿ってはいません。
いや、これはわたしの錯覚でしょうか、わずかに憐れみのような視線を感じます。
ズビィの集団は5人ずつ横一列の5段に並んで口を開き……
なんと、わたしたちに向かって歌を唄いました。
♪♪♪
遥かな墓場の草の陰から
もう死んじゃいかがと
ズビィが鳴く
ズビィー
ズビィー
ズビ、ズビ、ズバッ、ズビィー!!
ズバズビィ……♪♪♪
なんとズビィたちの大合唱です。
こんなところに引きこもってないで、自分たちのように永遠の死者になれと歌でそそのかしているのです。
生ける腐乱死体の集団は紫色の雨に打たれながら、いつまでも不気味な合唱を繰り返していました。
第17話につづく
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