空手激闘録 ナイハンチャー烈

自由言論社

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第四話 無標塾

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 翌日。
 PM4:00

 ぼくは4時きっかりに玄葉台公園にいった。
 師匠は自由広場にきていて、すでにナイハンチをはじめていた。
 昨日と同じジャージの上下に身をつつんでいる。近づいてあいさつすると、かすかに生活臭のようなものが漂ってきた。
 おそらく師匠は独身だろう。洗濯もおざなりにしているに違いない。

「きたな。よし、まずは立ち方の基本だ。
 体の中心、正中線を意識してストンと膝を抜く。両脚は八の字に開き、つま先は開かず平行に。
 これはナイハンチ立ちといって基本のキだ。これがもっとも重要なスタートラインだ」

 師匠の教えはわかりやすく具体的だ。昨日、家に帰って軽くググってみたけれど、ナイハンチは空手の型のなかでも特に難しく、完全に習得するまで3年はかかるという。
 気の長い話だけれど、武道なんてそんなものかもしれない。一朝一夕に強くなれるなんて考えるほうがおかしいと思うことにした。
「この平手で肘をパンとたたく動作がカッコいいですね」
「だろ。型が決まるといい音がするんだ」
 師匠は自分が褒められたかのように顔をほころばせている。
「沖縄空手にもいろいろ流派があって、ナイハンチもそれぞれ微妙に異なっている。おれの流派は唐門沖縄空手拳心無標塾とうもんおきなわからてけんしんむひょうじゅくというんだ」
 どうも長ったらしい。訊き返すのもアレな気がして、ぼくは覚えたふうを装った。
「まあ、無標塾と覚えてくれたらいい。空手にはこれでよしとする道標がない。果てなき道を歩む心構え…そんなとこからついた塾名流派名だと聞いている」
 師匠は型の節々で「ムヒョー」と気合を入れている。
 ぼくもマネして「ムヒョー」と復唱するのだが、これがなんだかカッコ悪いというか気がぬける。ここは他流派のようにエイ、もしくはエイヤでいいのではないかと思ってしまう。
「ナイハンチには三段まであるそうですが…」
 ぼくはネットで検索したにわか知識を披露し、師匠に訊いてみた。
「おれは初段で充分だと思ってる。空手には、他にもピンアンとかパッサイとか多くの型があるが全部覚える必要はない。ブルース・リーもいっている。
 わたしは1万種類の蹴り技を知るものより、たったひとつの蹴り技を1万回繰り返したものを恐れる。
 …つまりはそういうことだ」
 ブルース・リーかあ。もちろんぼくも名前だけは知ってるけど、なんだか世代間ギャップを感じる。
「失礼ですが、師匠はおいくつなんですか?」
 思い切って訊いてみた。
「44だ。きみは?」
「13歳。中学一年です」
「21歳差か。かろうじて親子ではなく、齢の離れた従兄弟ていどか」
 よくわからない例えを持ち出してきた。
 そうこうするうち、陽が暮れてきたので今日の稽古はこれで終了となった。
 全身に心地よい汗をかいている。
 運動やスポーツが苦手なぼくだけど、体を動かすのは気持ちいい。
 そこでぼくは気づいた。
 スポーツが苦手なんじゃない。
 スポーツを主体とする部活の人間関係が苦手なのだと。縦社会というか体育会系というか、そんなノリが嫌いなだけで体を動かすことは本来気持ちのいいことなんだ。
 師匠はその点、押しつけがましいところがいっさいなく、どんな質問にでも明快にこたえてくれる。まるで頼れる兄貴のような存在だ。
 ぼくはずっとこの師匠のもとで修行をしていきたい
 …と、


    第五話につづく
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