決戦の朝。

自由言論社

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第5奮

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 足がしびれてきた。
 前傾姿勢でずっと太ももに肘をついていたからだ。
 いったん、肘をはずして体勢を整えたい。

 いや、ダメだ。
 おれの尻の奥で便意の兆しが生まれている。
 この姿勢だからこそ、生まれた兆しだ。
 この兆しを大事に育ててやらねば波はやってこない。
 兆しに意識を集中するには、いまのフォームを保つしかない。
 おれはこのフォームをクラウンチングスタイルと呼ぶことにした(くだらなくてスマン)。

 おお…波がきそうな予感がする。
 いや、これはくるぞ!
 ♪くる~~
 ♪きっとくる~~
 某ホラー映画のテーマソングみたいな歌が口からこぼれでる。

 いよいよだ。
 ホントにくる~~ぞ、これは!

 むんっ!
 むむむ……
 ふぐむっ!!

 がっ!!





 ぶっ……
 すう~~~~。


 出たのは屁だった。
 危惧していたとおり、とびっきり臭い屁だ。
 この臭さは人間ではない。
 おれはもう人間ではないのかもしれない(前にもいったけど)。


 おれはしばし意識を切り替えることにした。
 スマホを取り出し、改めてベータポリスという投稿サイトを見る。

 ここは定期的に「歴史時代小説大賞」というイベントを開催している。
 おれは前回の応募で、


『ふうらい。助平権兵衛放浪記』


 という、おれとしては初の本格時代小説をアップして応募した。
 一言でいえばこれは時代劇版シェーンだ。
 ラストの哀切極まる別れのシーンは西部劇の名作として名高いシェーンに勝るとも劣らない感動の名場面だ。


 しかし……

 かすりもしなかった。
 なぜだ? 
 選者は揃いも揃ってボンクラ揃いか?

 そんなの、おまえの小説がダメダメだったからだろ、と思う方はぜひ『ふうらい。』を読んでその目で判断してほしい(よし、これでポイントとやらが稼げるぞ)。

 お気に入り追加もたったの一件だ(そのひとには感謝)。
 負け犬の遠吠えだが、これだけはいっておきたい。
 歴史時代小説は骨が折れる。
 資料とそれなりの基礎教養が必要だ(せりふ回しも現代とは違うしね)。
 ファンタジー小説のように頭の中だけでは組み立てられない。
 なのに……
 舞台となる遠州(浜松)一帯の地図地形も調べたのに………。
 いっそBLもどきの新選組でも書けばポイントも増え、大賞とはいかぬまでも奨励賞ぐらいはいけたか?

 いやもう、愚痴はやめよう。
 みっともない。
 おれは負けたのだ。

 世の中には学生のころに応募した作品が賞をとり、話題を集めてそのまま作家デビューしたものたちがいる。
 実社会の不条理や理不尽を味わうこともなく、人気作家の地位を保ったままいまも書き続けているものたちだ。

 まことに羨ましい。
 彼、彼女らは家賃の督促に追われた経験なんて皆無だろう。
 ローンの支払いが滞り、借金で借金を返すなんて経験も絶無だろう。
 おれにはある。
 自分という存在の情けなさに何度なみだしたかわからない。


 選ばれ望まれて作家になったものたち……。
 彼、彼女らにも、もちろん苦悩はあるだろう。
 だけど、カネがない苦労ほど、悲惨で情けないものはない。
 能力だけではない、ときには人格すら否定される。

 書けなきゃ書かねばいいのだ。
 人気作家なら講演をすればいい。
 喋るだけで最低100万円ぐらいはもらえるはずだ。

 そんなヤツらが作中で、

「カネは必要じゃない」

 なんて偽善めいたセリフを書くのだ。

 クソッ!
 クソッ!!
 クッーーソッッ!!!

 なんか腹が立ってきたぞ。
 おれの場合、腹が立つと便意が復活するのだが、いまは兆しすらみえない。


 おれはため息をつき、独りごちた。

 カネは命よりも重い……。

 ふう……。



   第6奮につづく
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