逍遙の殺人鬼

こあら

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私が施設にいた時、1度だけ罰則部屋に入ったことがあった
部屋は文字通り、違反行為に対する償いの部屋
悪いことをしたり規則を破った者が入る、冷たく光の入らない孤独で暗い部屋

誰もがあの部屋に入るのを恐れた
入ったことの無い子は最初こそ調子に乗って、罰則部屋なんて無いと馬鹿にしていたが、いざその部屋に入るとひどく怯えて帰ってくる

ある男の子が言っていた
あの部屋は本当に怖いと
鬼籍きせきの部屋だと

その言葉を私は本を読みながら聴いていた
鬼籍きせき…それは死者の名や死亡年月日などをしるす帳面、過去帳
まるで意味が分からなかった、私があの部屋に入るまでは









あれは、私が施設に入って4年目の頃
当時10歳の私は、先生の信頼を貰い1年に一度、特別に図書館への通いを認めれていた
そう遠くない場所に位置する小さな図書館に、私はどの日よりも、どの行事よりもワクワクと好奇心を掻き立てていた

ちょうどその日は雨だった
出かけるには向かない天気だったけど、年に一度しか来ないそれを諦めるつもりはなかった
傘を指して、長靴を履いてくるくると傘を肩の上で回しながらステップ混じりに歩く

今日は何を読もうか?そう考えるだけで、本を読む前だというのに楽しくて仕方なかった
夕焼けチャイムがなる前に施設に帰らなければいけない為、朝食を食べ終えたらすぐに小走りで移動した

『お嬢ちゃん、もう時間だよ。』

『もうそんな時間?まだ読んでいたいのに…』

『そんなに読みたいなら借りてくかい?図書館利用カードを作ってくれれば、何冊でも家で読めるんだよ。』

『ううん。カード作るのはダメだって言われたから…また来ます。ありがとうございました。』

図書館利用カードを作るには色々と記入する項目があった
名前や住所、もちろん未成年な私は保護者の名前を書かなくちゃいけない
この場合施設の職員か先生に書いてもらうものだけど、以前聞いた時は拒否されてしまった

帰る私に「雨だから気をつけるんだよ。」と手を降ってくれる司書のおばちゃんに手を振り、安っぽいビニール傘を開いて、弾く雨のシャワーの中へ入っていった
そして奇妙なものを見た
信号待ちする私の視界には、茂みから出た脚が写っていた

時代は変化し、最先端な世の中へと移り変わっていく世界
遂にもう茂みに脚が生えたのか?と興味本位で近付くと、それは茂みからではなく人間の胴体に繋がっていた
それは当たり前で、異形なものだった

まだ幼さの残る学ラン姿の少年は、茂みに寄りかかりながら地ベタに座っていた
目を瞑っていて、頬や口端からは血が滲んでいて雨によってそれは広がり、Yシャツを赤く染めている
痛々しいほどの傷をあらわにしている腕からは、刃物で斬られたような傷がおびただしい量の血液を排出していた

『お兄ちゃん大丈夫…?血、出てるよ。』

『っう……っ』

『っ血、血を止めなきゃ…。えっと…っあ!ヨモギ』

『…っ、きっ、きみは?……』

『今血、止めるから動かないでね。ちょっと痛いかも……』

薄っすらと開くまぶたの奥にある瞳は朧気おぼろげで、虚ろな表情で私を見ている
そんな少年の腕にヨモギを乗せて、ハンカチでギュッと硬く結んだ

一瞬痛そうに顔を歪めたが、そのおかげか意識がハッキリとし私を見据える
雨なのか涙なのか分からないそれに、自分の傘を少年にかざして、大粒の雫から守った

『っと…兎羽とわ……。』

『お兄ちゃん?トワって誰?…』

『………、ごめん。一瞬妹かと思って…きみが妹に似ていたから…』

『会いたいの?そのトワちゃんに。』

『ああ…会いたい、すごく会いたいよ。でも、もう会えないんだっ……。』

うつむく少年に傘をあげて、私は施設へと帰った
何だか悲しそうな感じだったけど、門限を守らなきゃいけない為、少年を置き去りにした

走ったけど、夕焼けチャイムには間に合わなかった
そのせいで私は信用を失い、罰則部屋…鬼籍きせきの部屋へと入れられた
私ははじめて怒られ、厳しい償いをした

その後だっただろうか……あいつに目をつけられたのは
ニヤニヤと笑いながら手招きして、その下品な顔を見せては私の手を引っ張った
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