逍遙の殺人鬼

こあら

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痛みに耐えている私を、シスターシオリが支えてくれている
私の償いは、思いの外重かった

ふらつく私を優しく掴んで、医務室まで導いてくれるシスターシオリは、同情と心配の感情が入り混じったような表情で私を見てくる
私を可哀想だと哀れんでいるのか、何をして罰が下ったのかを知りたいのか、私には判別できなかった

背中の痛みは、歩く度にズキズキと主張して私の脚を重くさせる
朝まで閉じ込められてその寒さから衰弱した私は、部屋から出てた後も院長から厳しい罰を受けた

ついさっきの出来事だ
_____忘れもしない…
蛇状になった縄が、背中を打つあの感触と痛み
皮を引き裂くようなあの音
めり込む鞭は、容赦なく振り下ろされて私は償いを終えた









「医務室に着きましたよ。しっかりして下さい、シスターちさ。」

「…ありがとうございます、シスターシオリ。もう大丈夫ですから……仕事に戻ってください」

「しかし…手当をしなければ…。ひとりで手当はできません、」

「ここまで運んで下さいましたし、これ以上の迷惑は掛けられません。私なら大丈夫です」

これ以上、無様な姿は………見せたくない
背中の傷も、手当に耐える惨めな私の姿も見られたくない
それに、そんな私を見たシスターシオリの辛そうな顔も見たくなかった

シスターシオリは忙しい人だ
そんな人が、私に構っていたら大量の仕事を処理しきれない
私のせいで、シスターシオリまでも罰せられたりしたら、それこそ耐えられない

少し悄気げたように眉を垂れさせ、心配そうに医務室を出て行った
その瞬間、一気に力が抜けて座るベッドに倒れ込んだ
目頭が熱くなるし、背中は痛むし、こんな時でもお腹は空いた
罰として夕餉ゆうげまで、私は食事をしてはいけない

独りになった解放感とこの静かで人があまり来ない医務室のせいで、私は溜まった涙を静かに流した
震える体を止められず、痛みに枕を濡らした

「っ怖かった………」

施設での罰則と同じだった
この世界に誰もいない、私しか居ないような孤独を味あわせてくるあの部屋
施設の鬼籍きせきの部屋と同じだった
入る時に明かりに一瞬照らされた部屋は、まだらに血のような赤いシミが飛び散っていた
隙間風なのか分からないが、いくら体を捩って擦って暖まろうとしても、冷たくなる一方で時々聞こえる風の音が酷く恐ろしく思えた

何も見えない状況は同じでも、全く違かった
暖かくない、優しくない、独りで耐え抜くしかない…

シスターシオリが言ったとおり、独りでは手当はできなかった
承知の上だった
とりあえず休みたかった
どっと疲れがのしかかって、身体は起き上がれない
まぶたを閉じれば、いとも簡単に眠りにつけた
なんて単純な女なんだろう
今だけは、その単純さのおかげて痛みを忘れて夢の中へと入ることができた

8年前の私があの部屋に入った時、私はどうな感じだったかな?…
記憶の端に押し込めたはずのドス黒い物は、いつもなら出て来るなと思うのに、今は過去の自分を慰めるように見つめている

狭い部屋の隅に座って、自分自身を抱えてはブルブルと震えていた
涙で赤くなった目は腫れ、拭っても拭っても終わらないそれは子どもがするとより酷たらしい

夢の中では今の私と過去の小さな私が居た
真っ暗な空間、私と小さな私しか居ない

膝を抱えてうずくまる私
それをただ見ているだけの私
同じ空間に私が2人…それは異常なのに、否定したいと思えなかった

(あれは過去の私で、今の私でもある…。)

距離を埋めるように近づけば、小さな私は震えるのを止めてゆっくりと顔を上げた
泣き疲れた顔をしているだろうか?
恐怖で顔がぐちゃぐちゃになっているだろうか?
そんな自分の肩に手を置いて、顔を覗き込んだ

〈…っ!?〉

〈怖いの…暗くて狭くて…壊れちゃいそうなの。ねぇ…分かるよね?…この気持ち、ねぇ〉

〈…っや、嫌だ!!〉

小さな私は、私の顔をしていなかった
目は真っ黒く穴が空いていて中から赤い血が涙のように流れ落ちていて、私に語りかけるその口はそこの見えない井戸のように淀んでいた
同意を求めるその言葉とは裏腹に、その異形な見た目を私は受け入れられずにいた

そこに居るのは紛れもなく8年前の私だというのに、自分とは思えない姿に抵抗しかできず逃げてしまう
私の腕を掴もうとする手を振り払い、離れたいと思う
だって認めたくないから
こんな醜い自分を、私だと認知したくなかった
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