逍遙の殺人鬼

こあら

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「あの男を物にしたままにしたいなら。」

「"したいなら"?…」

自称の朔夜さんは我が物顔で話し始める
それを唾を飲み、しっかり聞こうとしている私がいた
前かがみになる私に朔夜さんは続きを話そうとした
しかしタイミング悪く彼のスマホが鳴った

それは朔夜さんの担当さんらしく、新作の小説の進捗を疑うものだった
その電話を受け、一旦この話はお終いと朔夜さんは続きを気にする私をよそに小説の話へと移動した

小説を読んだ私の率直的な感想を求められたが、それどこれでなかった私は上手く受け答えをすることはできなかった
改善すべき点や良かった所、印象的な場面など細かく聞いてくる朔夜さんに、5分くださいと伝え私は1章分を読み始めた









私が読んでいる短い間、続きを執筆する朔夜さんは文机の引き出しから砂時計を取り出して、机に配置し青い色の砂が落ち始めていた
それは5分タイマーとして使われ、ちゃっかりしている朔夜さんを横目で確認したが、もう物書きに集中している模様だった

書籍丸々1冊分というわけではなく1章分というなら読み切るには充分な時間だった
元々読みやすく状況を想像しやすい描写が特徴的な彼の作品は、いとも簡単に私を作品の世界へと導いてくれた

相変わらず私の好みの書き方に、いっときの安らぎを覚えた
一度読み始めれば、やはり私は本好きなのだと再確認出来るほど熱中してしまう

「5分、経ったぞ。ちゃんと読んだんだろうな?」

「はい、勿論!やっぱり朔夜さんの書き方は読者に伝わりやすいように構成されてるので、他の小説よりストーリー性が入って来やすいです!!」

「当たり前だ、伊達に小説家してる訳じゃない。それで、感想は?」

「序盤の流れはスムーズで読みやすいと思いました。でも…」

「"でも"なんだ。はっきりしろ。」

「主人公が被害者と話すシーンなんですけど…、もう少し女心と言いますか…」

どう伝えていいものか…悩んだ
性別が違う朔夜さんに、女性の気持ちを分かれとは言いにくい
だが、このシーンはレイプ被害にあった女子高生が苦渋の決断の末、自らの苦しい体験を主人公に話すといった場面だ

傷付いた被害者は事件を掘り返したくなく、無かったことにしていたいと泣きながら言う
女子高生のような辛い経験をした人を減らしたいと、主人公の熱い想いに、硬い口を徐々に開き信頼関係の出来た主人公に話す流れだ

女子高生に寄り添うようにする主人公だが、今の原稿では信頼関係を築くまでの時間が短いようにも思える
男性に乱暴にされ、男性恐怖症にもなりかねない状況下に晒された女子高生は主人公ですら怯えてしまう
なのに割と早く主人公に話してしまうのが、あまりにも簡単な感じで納得のいかない進みに感じた

「女子高生は同級生に乱暴されたんですよね?」

「そうだ。カースト上位の上級国民の息子にレイプされ、どうせ警察に言っても揉み消されることを懸念して、いっそ忘れた方が幸せだという思考に行き着く。」

「でも主人公との交流で心を開いて話す…んですけど。その描写が、ちょっと単調な感じがします。」

「女、もっと詳しく言ってみろ。」

「ここはナイーブな場面です。いくら他の事件の為とは言え、おいそれとって話しませんよ」

自分に置き換えて考えてみても、やはりこの流れはありえない
話したくない、いや…反射的に口が紡いでしまう

他の事件と関連があり、犯人は同一人物だと言われドキッとする
その時のことが頭にチラついてフラッシュバックする
やけに鮮明的で、違和感だって覚えている
気持ち悪くって、辛くて、苦しい

大丈夫だと言われてもちっとも安心なんて出来ない
常に不安で、せめて問題の起きない日常を送りたいと願う

女子高生という絶妙な立ち位置に置かされ、子供でも大人でもない場所で藻掻き苦しむ
それをどう朔夜さんに説明するか、悩んでいる
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