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第十話 「ネルさんの弟子」

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「ごめんな。やきもちをやくような行動をして。俺、真莉亜のこと、愛してるのに。」

いいの。ジュンブライトのおかげで、ネルさんの恐怖症が、なくなったし。

「そうだな。」

ジュンブライトが、私をぎゅっとだきしめた。

「愛してるよ、ジュンブライト。」

「俺もだ。愛してるぜ、真莉亜。」

私達が、キスをしようとした、その時。ふすまが、ガラッと開いて、まぶしい光が差しこんだ。
そこには、誰かが立っていた。
マドレーヌちゃん!

「ラブラブ中、すみません。ネル様が来ましたよ。」

ネルさん、いつの間に来たんだ。

「それがどうしたんだ。」

マドレーヌちゃんが急に、真剣な顔になった。

「それが・・・・・・真莉亜お姉様と同じ歳くらいの女の子を、連れて来たんです。」

私と同じ歳くらいの女の子を連れて来た?

「はい。あと、刀を持っていました。」

刀を?ますます気になる。

「行ってみよう。」

私達は、リビングに行った。
そこには、テレサさん、リリアさん、クリスさん、紅葉、道華、アキちゃん、ソラちゃん、そして、ネルさんがいた。

「よっ、ネル。」

ジュンブライトがあいさつすると、ネルさんは、はっとした顔になった。

「ジュンブライト様♡はあ・・・・・・胸が熱くなる。」

「大丈夫?」

紅葉が声をかけると、ネルさんはせんべいをポリポリ食べ始めた。

「大丈夫ら。」

「ちょっと、口の中をもぐもぐしながら、しゃべらないでくれる?行ぎ悪いわよ。」

「うっせー!ほまへにひわれたくねへよ!」

食事のマナー、守れてないですね。

「ん!?」

ネルさんは、私を見て、麦茶をゴクゴクと飲み干して、立ち上がった。

「春間真莉亜!てめぇ、いつの間に!」

おじゃましていまーす。

「今日こそ、お前の赤い糸を、きってやる!」

「なに言ってんの?ネル。」

「お父さんのこと、好きになったんだって。」

「え~!?」

「ジュンブライト、どんだけモテる男なの?」

「さぁ。」

「やめな。それでもあんた、剣士かい。」

「・・・・・・!」

ネルさんは、刀を取るのをやめた。
そして、四角い箱を取り出した。
あ!これ、『白い恋人』だ!

「あたしにもちょうだい!」

「あたしにも!」

「私にも!」

「私にもです~。」

「お前らに買ってきたんじゃねぇ!」

ネルさんは、ジュンブライトのところにやって来て、『白い恋人』を、前に出した。

「これ・・・・・・!よかったら、食べてくださいっ!」

ジュンブライトは、笑顔で『白い恋人』を受け取った。

「ありがとう。おーい、みんなぁ。ネルが買ってきたおみやげ、食べようぜ!」

その瞬間、ネルさんの目が点になった。

「へ・・・・・・?ちょっとまってください!あたしは、ジュンブライト様に・・・・・・。」

「みんなで食べた方が、おいしいですよ、ネルさん。」

「イェーイ!」

「く―!お前ら、先に食べていいぞ!好きなだけなっ!」

ネルさんはくやしそうに、たきのような涙を流した。

「みなさーん。冷たい麦茶、持って来ましたよぉ。」

誰?この子。
髪型はショートで、髪の色は青くて、目の色も青くて、服装は、白いシャツと半ズボンで、刀を持っている女の子が、笑顔で麦茶をくばっている。

「はい。」

「サンキュー。」

ねぇルクトさん、この子、誰?

「リュウ様です。真莉亜様と、同い年で、見ての通り、働き者で、がんばり屋のお方なんですよ。」

私とおない年か・・・・・・。てことは、14歳!?
いいなぁ~。誕生日が早い方で。私はまだ、誕生日、きてないけど。
私とおない年の子は、この中に二人いる。
紅葉とクリスさん。この二人も、まだ14歳になっていない。
早く14歳になりた~い!

「じいやの孫か?」

「はい。わたくしの孫で・・・・・・って、ちがいます!わたくしは、結婚していませんし、子供もいないし、孫なんかいませんっ!」

「・・・・・・だろーなぁ。」

「だろーなぁ!?」

ルクトさん!おもちゃのトンカチを、かまえないで!
ジュンブライト!ルクトさんに失礼だよ!謝りな!

「テキトーに聞いてみただけだ。」

テキトーに質問するなっ。

「リュウ様は、ネル様の弟子ですよ。」

ネ・・・・・・ネルさんの弟子~!?

「あんた、弟子をもつなんて、すごいわ!」

「一週間前にできた弟子だ。」

「リリアとネルの妹か?」

ネルさんの弟子って、言ってるだろ!

「んじゃあ、じいやの孫か?」

いいかげんにしなさい。

「リュウはこう見えて、がんばり屋で、料理と家事が、得意なんだぜ。」

「あ・・・・・・あこがれのネルさんに、そこまでほめられると、照れちゃうじゃないですか。」

リュウちゃん、顔を真っ赤にして、体をもじもじしちゃって。
かわいい。
そんなに、ネルさんにあこがれれるんだぁ。

「はい!ネルさんは、ヴァンパイア界一の剣士ですからねっ!ネルさんの好きなところは、やっぱり、『桜吹雪の舞』を出すところが、大好きですっ!」

前から思ってたんだけど、『桜吹雪の舞』って、一体、どんなわざなんですか?

「お前に教えねぇよ。」

そんなにいじわるしないで、正直に話してくださいよぉ。

「やだ。」

「話さないと、お父さんに言うよ。ネルはお父さんのことが、好きだって・・・・・・。」

「言うなっ!」

「じゃあ、教えてよ。」

「桜吹雪の舞とは、桜吹雪が舞い落ちるわざでーす。そんだけ。」

・・・・・・それだけ?

「もっと、くわしく話してよ。」

「あとは、自分のご想像に、おまかせくださーい。」

え―?

「ところで、ちょっと、質問していいかい?」

テレサさんが、手を挙げた。

「なんだ。」

「リュウのことだが・・・・・・なんで、ネルの弟子になったんだい?」

私も気になりますっ。

「・・・・・・わかった。話す。話せば長くなる話だが・・・・・・。」

一週間前、四国に迷いこんだネルさんは、歩いている途中、三人の男の人におそわれているリュウちゃんを、目撃した。

「すみませんっ!ぶつかってしまって!」

「おじょうちゃん、金、もってないか?」

「金・・・・・・?」

「あぁ。3億円な。」

「3億円!?そんなの、もってません!」

「おや?刀をもってるねぇ。」

「さわらないでください!この刀は、大事な刀なんです!」

「そうだ!その大事な刀を質屋に売って、3億円をもってこい。そうすれば、ゆるしてやる。」

「いやです!」

「なんだとぉ!?」

ほっとけられなくなった、ネルさんは、リュウちゃんを助けに行った。

「ガキを金でおどすとは、いい度胸だな。」

「おぉ!これはこれは、かわいい女だねぇ。どうだ?俺とデートしねぇか・・・・・・?」

ドッ!

「うわぁ!」

「大丈夫か!?兄貴!」

「てめぇ、よくも・・・・・・。」

「わりぃ。あたし、好きな人、いるから。お前みてぇな男とは、酒を飲みたくねぇよ!」

シュッ、シュッ、シュッ!

「こ、こいつ!刀をもってやがった!」

「下を見ろ。」

「下を?」

下を見たとたん、三人の男の人のズボンが、ズルッと下がった。

「うわぁぁぁぁぁぁ!」

「本物の剣士だぁぁぁぁぁぁ!」

「おそれいりましたぁぁぁぁぁぁ!」

三人の男の人は、パンツいっちょで、逃げて行った。

「大丈夫か?」

「は・・・・・・はい!助けてくれて、ありがとうございますっ!」

「礼などいらん。ただ、けががなくてよかった。」

「あ・・・・・・あの!」

「なんだ?」

「あなたのお名前を、教えてください!」

「・・・・・・ネル。通りすがりの剣士だ。」

「ネル!?あ、あの、桜吹雪の!?」

「そうだ。お前、ヴァンパイアなのか?」

「はいっ!リュウといいます!あこがれのネルさんに会えて、とても光栄ですっ!」

「剣士になりたいのか?」

「ど、どうして、それを・・・・・・。」

「刀、持っているから、わかるんだよ。」

「この刀は、おこづかいで買いました!」

「へぇー。お前、よく働くんだなぁ。」

「えへへへへへ。私んち、大家族なんです。妹が三人、弟が七人います。料理と家事が、得意なんです。」

「ところで、なんでお前みたいなガキが、人間界にいるんだ?」

「ガキじゃありません!私はこー見えて、ピッチピチの、14歳ですっ!」

「ごめんごめん。」

「私の村には、あるおきてがあるんです。」

「あるおきて?」

「『女は剣術を学んではいけない。』という、厳しいおきてなんです。私の夢は、ネルさんみたいな剣士になることです。その夢をあきらめてはいけないと思って、旅に出たんです。」

「ゔぅ!泣ける話じゃねぇか!」

「なんで泣くんですか・・・・・・ネルさん!私を、私を!弟子にしてください!ネルさんのたのみごとなら、なんでもやりますっ!めいわくかけないよう、がんばります!」

「・・・・・・よかろう。」

「やった~!」

こうして、リュウちゃんは、ネルさんの弟子になったという。

「ゔぅ・・・・・・。」

「ジュンブライトお兄様。どうしたんですか?」

「ふ・・・・・・深いイイ話だぜ!」

私も、泣けてきました。

「夢をあきらめないため、旅に出たのね。」

「すばらしいわ。」

ところで、両親は心配してるんじゃないの?一人で旅に出て。

「両親は、私が旅に出るって言った時、反対して、大ゲンカになって、両親とは、あまり、手紙のやりとりをしていません。」

そうなんだ・・・・・・。

「それ、あたしと少し似てる。」

「え?」

リュウちゃんが、道華の顔を見た。

「あたしね、未来からやって来て、両親が今、仲が悪くなっちゃってね。二人を仲良くさせようと思って、タイムスリップしたんだ。」

道華は、私とジュンブライトの子供なんだ。

「え~!?」

リュウちゃんが、目をまるくして、驚いた。
そして、リュウちゃんが、ジュンブライトの方を、ひとさし指でぶるぶるふるわせながら、指さした。

「で、では、あ、あ、あ、あなたが、2年前、死んだヴァンパイア界の王子、ジュンブライト様ですか!?」

「あぁ。」

リュウちゃんも、ジュンブライトの顔を見るの、初めてなんだ。

「はいっ!名前は聞いたことはありますけど、顔を見たことが、全然なくて・・・・・・。私の村は、お城からず―っと離れたところにありまして・・・・・・まさかあなたが、ジュンブライト様だったことは、全然、気づきませんでしたぁ。」

「気づけよ、最初っから。」

「あ。」

ネルさんは時計を見て、立ち上がった。
時計は、3時をさしている。

「リュウ、修行の時間だ。」

「はいっ。ではみなさん、さよーならー。」

リュウちゃんは、私達の方に大きく手を振って、ネルさんのあとをついて、部屋を出た。


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