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第十九話 「ルクトさんが熱を出した!」

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満月荘に戻った私達は、ルクトさんを看病した。
 
「リリアさん、ルクトさんの具合、どうですか?」
 
「だんだん、ひどくなってるわ。ギロは?」
 
「ギロなら、錠剤をつくってるよ。」
 
テレサさんが、和室の方を見た。
ボンッ!
 
「ゲホッ、ゲホ・・・・・・。」
 
あらら・・・・・・失敗したみたいだね。
 
「おっかしいなぁ。作り方、これであってるのに・・・・・・あー!」
 
どうしたんですか?
 
「まちがえて、しょうゆを入れちゃったぁ。」
 
ギロさん、天然パワー、さくれつです。
あれ?ジュンブライトは?
 
「ジュンブライトなら、台所にいるわよ。」
 
「めずらしいわねぇ。ジュンブライト様がお料理をするなんて。もしかして、お料理するの、得意なの!?」
 
あ、いや、ちょっと・・・・・・。
 
「なんなの?そんなに気まずい顔しちゃって。」
 
な、なんでもありませんっ。
その時、むらさき色のけむりが、モクモクと出て来た。
ん!なにこれ!くさい!
 
「台所の方からよ!」
 
ま、まさか・・・・・・。
私は、台所の方へと歩き始めた。
 
「真莉亜!どこに行くんだい!」
 
「台所です!」
 
私が台所に行くと、そこにはジュンブライトがいた。
ジュンブライトは、キムチと、牛乳と、しょうゆと、白ご飯と、バナナと、コーラを、ドバドバ入れて、顔をにこにこしながら、かきまぜている。
 
「ジュンブライト!なにやってんの!」
 
「あ、真莉亜。ちょうどよかったぁ。俺が熱を出した時、お前がつくってくれた、キムチのおかゆをつくっているけど。」
 
からいって言って、全部食べなかったじゃん。
 
「うるせー!人のこと、言えねぇくせによぉ!味見するか?おいしいと思うぜ!」
 
あんた、つくり方、まちがってるよ!
 
「まちがってねぇよ!んじゃあ、俺が食べるぜっ。」
 
ジュンブライトは、まずいおかゆを、ぱくっと食べた。
 
「・・・・・・。」
 
ジュンブライトは、口をおさえて、台所の水道に向かって、オェー!と、吐いた。
 
「・・・・・・まぢー。」
 
あたり前でしょ!もう、あんたはどんだけ不器用なの!?私がつくるから!
 
「悪かったな、不器用で。」
 
「ルクトさんのためにしようとしているのはわかるけど、バカな行動はしないで。」
 
「・・・・・・。」
 
ジュンブライトは、そのままだまりこんだ。
あ、ごめん。言いすぎた?
 
「いや、気にしなくていい。俺は、じいやに恩返ししたかっただけだ。」
 
恩返し?ジュンブライトって、本当は、つるだったの?
 
「ちげーよ。俺は元から、ヴァンパイア界の王子だっ。俺、ガキのころ、死にそうなくらいの高熱を出したんだ。そんな俺を、じいやは徹夜して、看病してくれた。今度は、俺がじいやを助けたいと思ったんだ。」
 
ジュンブライト、そんなにルクトさんのことが、好きなんだ。
 
「まあな。赤ん坊のころから、世話んなってるし。」
 
わかるよ、その気持ち。ジュンブライトらしいねっ。
ガラッ。
和室の扉が開いて、黄緑色のアフロをした、男の人がリビングに入って来た。
 
「・・・・・・誰?」
 
「俺ですよ、俺。」
 
え!?ギロさん!?
 
「なんだ、このアフロは!」
 
「錠剤をつくろうとしていたら、失敗ばっかりしちゃって・・・・・・。」
 
「失敗しすぎだろっ。」
 
「あ、ルクトさん。これ、お薬です。朝、昼、晩、用意してますから、ご飯を食べたあと、飲んでくださいねっ。」
 
ギロさんは、薬が入ったふくろを、ルクトさんに渡した。
 
「ご親切にありがとうございます。」
 
「早く治るといいですねっ。」
 
「ルクトさん、これ、食べてください。」
 
私は、ルクトさんにキムチのおかゆを渡した。
 
「うわぁ~、王子が熱を出した時、真莉亜様がつくってくれた、おかゆじゃありませんか。では、いただきます。」
 
ルクトさんは、私がつくったおかゆを、おいしそうにぱくぱく食べ始めた。
 
「ん~。真莉亜様のお料理は、わたくしのお料理より、最高においしいですねぇ。」
 
えへへへへ、ありがとうございます。
 
「じいや、早く元気になってくれよ。元気になって、ナポリタンをつくってくれっ。」
 
ジュンブライトが、二カッと笑うと、ルクトさんは、にこりと笑った。
 
「かしこまりました。王子のために、必ず元気を取り戻して見せます!」
 
ルクトさん、早く元気になってくださいね。
 
 

 
 
それから五日後、ルクトさんは元気になりました。
 
「うわぁ~、うまそー!いただきまーす!」
 
ジュンブライトは、おいしそうに、ルクトさんのナポリタンを食べた。
 
「ルクトの料理、サイコ―!」
 
道華、ケチャップ、ついてるよ。
 
「元気になって、よかったわね。」
 
「はい。ギロ様、わたくしのためにいいお茶をつくってくれて、誠にありがとうございました。」
 
ルクトさんは、ギロさんに向かって、おしぎをした。
 
「お礼なんて、いらないですよぉ・・・・・・あれ?俺のナポリタンは?」
 
あー!私のナポリタンがなーい!
 
「ふぅ、お腹いっぱい。」
 
「バカ女のぶんは、もうないわぁ。」
 
道華とアキちゃんが、ふうせんみたいにふくらんだお腹をかかえている。
 
「くぉうらぁ!二人ともぉ!人の食べ物を、勝手に食べるなぁ!」
 
「俺のナポリタンを返せ―っ!」
 
私とギロさんは、道華とアキちゃんを、『トムとジェリー』みたいに追いかけた。
 
「あんた達!家の中で追いかけっこ、しないでくれる?」
 
リリアさんが、私達に向かって、大きな声でさけんでいる。
 
「全く、子供なんだからぁ。」
 
紅葉が、ため息をついた。
 
「元々悪いのは、人の食べ物を食べた、道華とアキが、悪いです。」
 
「マドレーヌ、よくわかるなぁ。」
 
「さっすが、ジュンブライトのいとこだねぇ。」
 
ジュンブライトとテレサさんが、マドレーヌちゃんをほめた。
 
「アキをしからなくちゃ!」
 
クリスさんが、ぷんぷん怒っている。
 
「なんだか、にぎやかになりそうですねぇ。」
 
ルクトさんが、にこにこしながら、追いかけっこをしている私達を見つめた。
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