乙女ゲームの世界に転生しましたが、平和が何より一番です!

かもめ みい

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 トントンッ。
 静寂の世界に響き渡る紙を揃える音。
普段から静寂なこの場所はそれ以外の、人の息遣いやちょっとした音が聞こえるけれど今日に限ってはそれも殆どない。
 何せ現在、図書室には私を含めて三人しかいないからだ。

「ふぅっ……」

 一つ息を吐きつつ、右肩をぐるぐると回し、首を左右に傾げる。
ゴキゴキッて音が聞こえた気がするけど、それは仕方ない。
流石に同じ姿勢で只管のタイピングは、少々肩にくるものがあるし。
 年寄りくさい動作かもしれないけれど、こうやってたまに動かさないと血流が悪くなって肩が凝り固まってしまいそうだから、その予防の為だと内心で誰にともなく言い訳をする。
 そんな私の動作を見てか、クスリと笑い声を一つ耳が拾った。

「あらあら春宮さん。若い娘さんがそんな動作をしちゃうなんて。そこまで根を詰めなくてもいいのよ?」

 司書の成邑先生が微笑みながらもこちらを労わる視線を寄越した。

「そうなんですけれど、出来れば今日中に仕上げたいじゃないですか」

 よし、もう一頑張り!と、気合を籠め直してディスプレイと向き合おうとしたところで声がかかる。

「ごめんね。僕の力が足りないばかりに、春宮さんには無理をさせてしまっているよね……」

 沈んだ声に視線を向ければ、声よりも尚更暗い表情の久我先輩。
 先輩に非があるわけではないのに、私しか居ない現実が自分を責めたてる事に拍車をかけてしまっているのだろう。
必然と一人の仕事量も多くなって負担を与えてしまっていると分かっているから、それが更に追い打ちをかけているんだろうなぁ。
 先輩、責任感強いから。しかも図書委員長だから余計に感じてしまっているんだろうね。

「先輩が謝る必要はないですよ。みなさん都合がつかなかっただけですし、第一お昼休みに私達が先輩を引き留めてしまったようなものですから」

 ──そう、お昼休み。

 先輩が私を探していたのは今日の放課後、卒業生から寄贈された本の整理とリスト化の為に図書委員の人に残って仕事をしてもらう為の連絡だった。
 本来そういう連絡は個々ではなく、委員の中で回して連絡しあう筈なんだけど急遽という事と、相手によっては断りづらい人もいるかもしれないと思って先輩本人が各クラスの図書委員へと連絡に回っていたらしい。
 さすがは久我先輩とでも言うべきか。こんな配慮が出来る高校生見たことないよ。
だから役員決めでの図書委員の倍率高かったんだね。
久我先輩がイケメンだから女子からの人気は当たり前だけど、自分の都合を優先してくれる委員長なんて中々いないから男子からも人気が出ていて、上級生の図書委員争奪戦は凄かったの一言に尽きたそうです。
 同じ委員の先輩が疲れ切った表情で教えてくれました。
普段はそこまでの人気はない委員なのよと、成邑先生が苦笑と共に付け加えてくれた一言がやけに印象深かったなぁ。
それ程までに久我先輩効果は凄いという事か……。
 因みに、新入生だった私達はそんな事は知らないからすんなりと委員が決まりました。──後から知ってショック受けていた子は沢山いたけれど。
 この世界が自分が前世でやっていた乙女ゲームの世界と同じだと知っている私は、図書委員に久我先輩がいる事が分かっていたから図書委員を選んだ──わけではなく、純粋に本が好きだから。
ただ、その理由で図書委員になりました。
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