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──ピシャンッ!と、音が聞こえそうな程強く目の前で閉められた扉。茫然とその扉を見る私達。
ちょっと強引すぎやしませんか。成邑先生……。
内心でため息を一つだけ吐くと、気持ちを切り替る。
未だに嫌な予感は消え去らなかったから、あの封筒の中身が原因なのはきっと間違いない。だから……。
「久我先輩」
「どうやら封筒の中身はペアの映画の鑑賞券みたいだね」
このまま立ち去ろうと声をかけたのに、被せ気味に中身を言って遮られるとは思わなかった。
それでも私は諦めないよ、うん。
「そうなんですか。それでは……」
「あっ! 有効期限が来週までだ。何時行こうか、春宮さん」
……。
久我先輩ってこんな人だったっけ?
いや、きっと私の言い方が悪かったに違いない。うん、そうだ。そうに違いない。
「私の事は気にせずに、そのチケットは久我先輩がお使いください」
「どうして?」
そのチケットに関わらない方が良いと私の勘が告げているから……。いや、違う。
チケットをきっかけとしてこれ以上久我先輩に深く関わらない方が良いと言っている気がする。
でも何でだろう。
久我先輩は何か問題がある人ではない。
学園のプリンス呼ばれる人で、乙女ゲーの攻略キャラでもある人だ。そんな人が危険な人物であるはずがない。
ならばなんで……?
あっ!
こ、これはもしかして噂に聞く世界の強制力というもの!?
成程成程。この警鐘はチケットを受け取るなという事の世界の強制力なわけですね、うん。
このチケットを使って久我先輩が遠野さんを誘うのだから、モブの私は大人しく辞退しろという事なのですね!
そんな警鐘鳴らさなくても、元から受け取るつもりはなかったのに。
きっと、念の為という事ですね。それでは今からきちんと断る事にします。
「久我先輩。あの……」
「聡明な春宮さんなら分かってくれるとは思うけど、このチケットは成邑先生が遅くまで仕事をしていた僕達への感謝とお詫びの気持ちを籠めて渡してくれたモノなんだ。
単に『映画のチケット』という事ではなく、そこには成邑先生の気持ちが籠められている、この世に二つと無いモノなんだよ」
そう、ですよね。それは分かっています。分かっていますけど……。
視線と無言の圧力が怖いです。でも負けるわけには……。
「ハイソウデスネ。来週ハ予定ガアリマスノデ、明日カ明後日ナラ大丈夫デス……」
「良かった」
その言葉と同時に浮かべれた笑みに、何故か背筋がヒヤッとしたのは気のせいだったと思いたい。
凄く綺麗な笑みなのに感じるのは恐怖とか。きっと私疲れているんだ。
「では、日曜日でどうかな? 今日は疲れているだろうから、明日はゆっくり休んだ方がいいと思うしね」
まぁ、確かに。
疲れている大半の原因は久我先輩の所為だけれど、さすがにそれを言う勇気はない。
「分かりました。待ち合わせの場所や時間はどうしますか?」
「そうだね……。さすがに今日はこれ以上春宮さんを引き留めておくと、ご家族の方も心配するだろうし。
お家に帰ってからメールか電話で決めようか」
「あっ。そうですね」
そういえばかなり遅い時間だった事を忘れていた。
事前連絡はいれたものの、さすがにこれ以上遅くなると心配をかけてしまうだろうし。
あまりにも今の状況が受け入れ辛くて、時間の事をすっかり忘れていた……。
「そ、それでは久我先輩お先に失礼いたしますっ!」
そう言って慌てて走り出そうとした私を、「ちょっと待って」と久我先輩が引き留めてきた。
この後に及んでまだ何かあるというのですか!?
「急いでるのにごめんね。はい、これ」
その言葉と同時に手渡されたのは、二つ折りにされた小さなメモ用紙。
この場で見て欲しそうな雰囲気だったので、よく分からないままメモ用紙を開ける。
「えっと、これは……」
そこに書かれていたのは、携帯番号とメールアドレスだった。
でも、委員で連絡する事もあるだろうからと春先にお互いの番号とメールアドレスは交換している筈なのに。
番号もしくはメールアドレスを変更したのだろうか?
困惑している私の様子に気が付いたらしく、補足をしてくれた。
「ああ、ごめんね。それはプライベート用のなんだ。だから、日曜日の打ち合わせはそっちでするから登録をお願いするね」
高校生でプライベート用と使い分けるとは。さすがイケメン、その他大勢の私とは違うなぁ。
そんな事を思いながら、再度別れの挨拶を告げて帰宅をした。
案の定、予定の時間よりかなり遅くなっていたので両親には心配され、何故か弟には怒られてしまった。
理由を説明するわけにもいかないし、それを説明するとまた何か問題が発生しそうだったので言い訳を一切せずに素直にお話を聞いておく。
心配をかけさせてしまったのは事実だから。
それに、家族の反対を押し切ってこの学校を選んだのは私なので、あまり心配もかけたくない。
そんな思いから素直に話は聞いているけれど、思考は別のところへと行っている。
考えるのは言うまでもなく、久我先輩の事。
ああ、日曜日が憂鬱だなぁ……。
思わず零れ出そうなため息を何とか押しとどめて、家族からのもうお腹いっぱいだと思ってしまう程のお話という名のお説教を延々と聞き続けた。
ちょっと強引すぎやしませんか。成邑先生……。
内心でため息を一つだけ吐くと、気持ちを切り替る。
未だに嫌な予感は消え去らなかったから、あの封筒の中身が原因なのはきっと間違いない。だから……。
「久我先輩」
「どうやら封筒の中身はペアの映画の鑑賞券みたいだね」
このまま立ち去ろうと声をかけたのに、被せ気味に中身を言って遮られるとは思わなかった。
それでも私は諦めないよ、うん。
「そうなんですか。それでは……」
「あっ! 有効期限が来週までだ。何時行こうか、春宮さん」
……。
久我先輩ってこんな人だったっけ?
いや、きっと私の言い方が悪かったに違いない。うん、そうだ。そうに違いない。
「私の事は気にせずに、そのチケットは久我先輩がお使いください」
「どうして?」
そのチケットに関わらない方が良いと私の勘が告げているから……。いや、違う。
チケットをきっかけとしてこれ以上久我先輩に深く関わらない方が良いと言っている気がする。
でも何でだろう。
久我先輩は何か問題がある人ではない。
学園のプリンス呼ばれる人で、乙女ゲーの攻略キャラでもある人だ。そんな人が危険な人物であるはずがない。
ならばなんで……?
あっ!
こ、これはもしかして噂に聞く世界の強制力というもの!?
成程成程。この警鐘はチケットを受け取るなという事の世界の強制力なわけですね、うん。
このチケットを使って久我先輩が遠野さんを誘うのだから、モブの私は大人しく辞退しろという事なのですね!
そんな警鐘鳴らさなくても、元から受け取るつもりはなかったのに。
きっと、念の為という事ですね。それでは今からきちんと断る事にします。
「久我先輩。あの……」
「聡明な春宮さんなら分かってくれるとは思うけど、このチケットは成邑先生が遅くまで仕事をしていた僕達への感謝とお詫びの気持ちを籠めて渡してくれたモノなんだ。
単に『映画のチケット』という事ではなく、そこには成邑先生の気持ちが籠められている、この世に二つと無いモノなんだよ」
そう、ですよね。それは分かっています。分かっていますけど……。
視線と無言の圧力が怖いです。でも負けるわけには……。
「ハイソウデスネ。来週ハ予定ガアリマスノデ、明日カ明後日ナラ大丈夫デス……」
「良かった」
その言葉と同時に浮かべれた笑みに、何故か背筋がヒヤッとしたのは気のせいだったと思いたい。
凄く綺麗な笑みなのに感じるのは恐怖とか。きっと私疲れているんだ。
「では、日曜日でどうかな? 今日は疲れているだろうから、明日はゆっくり休んだ方がいいと思うしね」
まぁ、確かに。
疲れている大半の原因は久我先輩の所為だけれど、さすがにそれを言う勇気はない。
「分かりました。待ち合わせの場所や時間はどうしますか?」
「そうだね……。さすがに今日はこれ以上春宮さんを引き留めておくと、ご家族の方も心配するだろうし。
お家に帰ってからメールか電話で決めようか」
「あっ。そうですね」
そういえばかなり遅い時間だった事を忘れていた。
事前連絡はいれたものの、さすがにこれ以上遅くなると心配をかけてしまうだろうし。
あまりにも今の状況が受け入れ辛くて、時間の事をすっかり忘れていた……。
「そ、それでは久我先輩お先に失礼いたしますっ!」
そう言って慌てて走り出そうとした私を、「ちょっと待って」と久我先輩が引き留めてきた。
この後に及んでまだ何かあるというのですか!?
「急いでるのにごめんね。はい、これ」
その言葉と同時に手渡されたのは、二つ折りにされた小さなメモ用紙。
この場で見て欲しそうな雰囲気だったので、よく分からないままメモ用紙を開ける。
「えっと、これは……」
そこに書かれていたのは、携帯番号とメールアドレスだった。
でも、委員で連絡する事もあるだろうからと春先にお互いの番号とメールアドレスは交換している筈なのに。
番号もしくはメールアドレスを変更したのだろうか?
困惑している私の様子に気が付いたらしく、補足をしてくれた。
「ああ、ごめんね。それはプライベート用のなんだ。だから、日曜日の打ち合わせはそっちでするから登録をお願いするね」
高校生でプライベート用と使い分けるとは。さすがイケメン、その他大勢の私とは違うなぁ。
そんな事を思いながら、再度別れの挨拶を告げて帰宅をした。
案の定、予定の時間よりかなり遅くなっていたので両親には心配され、何故か弟には怒られてしまった。
理由を説明するわけにもいかないし、それを説明するとまた何か問題が発生しそうだったので言い訳を一切せずに素直にお話を聞いておく。
心配をかけさせてしまったのは事実だから。
それに、家族の反対を押し切ってこの学校を選んだのは私なので、あまり心配もかけたくない。
そんな思いから素直に話は聞いているけれど、思考は別のところへと行っている。
考えるのは言うまでもなく、久我先輩の事。
ああ、日曜日が憂鬱だなぁ……。
思わず零れ出そうなため息を何とか押しとどめて、家族からのもうお腹いっぱいだと思ってしまう程のお話という名のお説教を延々と聞き続けた。
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