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21話
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(や、ヤバいよ、紗雪。
この状態は非常にヤバい……。
ど、どうしたら)
「エレーヌが嫌がっているのを貴方は気づかないのですか?
尊大で自意識の高い……。
相変わらずの我儘ぶりですね、ラルフ様」
王太子であるラルフに失礼な言葉のオンパレードを放つオリバーに、エレーヌの顔は蒼白を超え真っ白の状態に陥っていた。
冷や汗は今は滝の様にダラダラと流れている。
肝が冷えて唇がブルブルと震えて止まらない。
(も、もうこれ以上の罵倒の言葉は控えて!
仮にも次期国王と謳われている王太子になんて事を言うの。
幾らエレーヌを溺愛しているからって、これは余りにも行き過ぎだわ。
自らの立場を弁えずにお兄様は……。
ここが王宮なら即座にお兄様は身分を剥奪され、王国から追放される。
それで済めば良いけど、最悪の事態になったら……)
ポロポロと涙が溢れて止まらない。
そんなの駄目に決まっている。
オリバーが最悪、王太子に反逆したと思われ死刑を賜ったら……。
私は、わたしは……。
押し潰されそうな気持ちに奮いを駆けて、涙を流しながら二人の仲裁に入る。
オリバーがここまでエレーヌを溺愛するのは、私の気持ちが作用しているから。
久保紗雪としての意識が強過ぎるから。
結局はエレーヌでは無く、紗雪がグーベルト家にいる事が事態を招いている。
そして。
この世界でのモブキャラであったエレーヌが、リリアンヌの立場と逆転した事が起因となっているに相違ない。
何故、こんな事になったんだろう……。
私はただただ、グーベルト家でひっそりと家族に囲まれ、身分に合った生き方をしたかっただけで、王妃付きの侍女も、王太子に恋慕を受ける立場になりたかったでは無い。
でも、本当にそうなんだろうか?
もう一人の私が囁く。
「貴方に心ときめいて」をプレイしていた時点で、ヒロインの様に主人公として脚光を浴びたかったのでしょう?
憧れの一柳さんと恋愛し、結ばれる事を夢見ていたでしょう?
仕事でも認められて、必要とされる存在になりたかったのでしょう?
綺麗事を述べても、心の中で願っていた。
だから、この事態になったとは思わないの?
そして、密かにリリアンヌの様に、逆ハーで愛されまくりの人生を手に入れたかった、と認めたら良いじゃ無いの。
くすくすと笑う自分の声が脳裏に木霊する。
大きくなる嗤い声に私は翻弄される。
(確かにそうと言える。
古本屋で、中古品である「貴方に心ときめいて」のパッケージを手に取った事はそれが本心であったわ。
リリアンヌの様にヒロインになりたいって。
5歳の覚醒も、そうかも知れない。
でも、グーベルト家での生活が私の心を満たしてくれた。
ヒロインで無くても良いって思う程の愛情を沢山、受けたから、私は。
久保紗雪はとても幸せだった。
この世界での生活は生きる喜びを教えてくれたの。
家族に愛される喜びを教えてくれた。
必要とされる気持ちを教えてくれた)
私はこの世界に転生して本当に幸せだったの。
だけど、一つだけ、心の中に育つ想いに戸惑い始めて……。
ただ一つ、認めてはいけない気持ちに気付き始めたから、逃れたくて、私は……。
(もしかして、ラルフとの恋愛が作動し始めたのは、私がオリバー兄様を、兄以上の感情を抱きそうになる事を危惧した私が招いた事になるの?
私はこの世界でエレーヌとして、唯のモブキャラとして生を受けた筈なのに、だけど、久保紗雪として覚醒した所為で、何かが狂い始めた)
異世界転生した事で、本来の「貴方に心ときめいて」の世界観の軸が狂い出した。
だったら、私はこの事態を招いた責任を負わないといけない。
「お兄様、これ以上の暴言は控えて下さい。
ラルフ様は昨日の私の身体を気遣い、この様なお慈悲を私に与えて下さいました。
未来の国王にこの様な栄誉を賜る事はこのグーベルト家にとって映えある事とは思われませんか?」
「エレーヌ……」
「ラルフ様。
貴方様の高貴なる魂に、私は感銘を深く感じ入りました。
貴方様のお優しいお心に触れて私は決心しました」
はっと息呑む声が聞こえる。
オリバー兄様の顔色がだんだんと変わっていく。
苦渋に満ちた深い哀しみを湛えた……。
「エレーヌ」
鼓膜を侵す麗しい声。
喜色を含んだ声に、私は涙を堪えてラルフに告げる。
「王妃様付きの侍女の任命、謹んでお受けします」と。
この状態は非常にヤバい……。
ど、どうしたら)
「エレーヌが嫌がっているのを貴方は気づかないのですか?
尊大で自意識の高い……。
相変わらずの我儘ぶりですね、ラルフ様」
王太子であるラルフに失礼な言葉のオンパレードを放つオリバーに、エレーヌの顔は蒼白を超え真っ白の状態に陥っていた。
冷や汗は今は滝の様にダラダラと流れている。
肝が冷えて唇がブルブルと震えて止まらない。
(も、もうこれ以上の罵倒の言葉は控えて!
仮にも次期国王と謳われている王太子になんて事を言うの。
幾らエレーヌを溺愛しているからって、これは余りにも行き過ぎだわ。
自らの立場を弁えずにお兄様は……。
ここが王宮なら即座にお兄様は身分を剥奪され、王国から追放される。
それで済めば良いけど、最悪の事態になったら……)
ポロポロと涙が溢れて止まらない。
そんなの駄目に決まっている。
オリバーが最悪、王太子に反逆したと思われ死刑を賜ったら……。
私は、わたしは……。
押し潰されそうな気持ちに奮いを駆けて、涙を流しながら二人の仲裁に入る。
オリバーがここまでエレーヌを溺愛するのは、私の気持ちが作用しているから。
久保紗雪としての意識が強過ぎるから。
結局はエレーヌでは無く、紗雪がグーベルト家にいる事が事態を招いている。
そして。
この世界でのモブキャラであったエレーヌが、リリアンヌの立場と逆転した事が起因となっているに相違ない。
何故、こんな事になったんだろう……。
私はただただ、グーベルト家でひっそりと家族に囲まれ、身分に合った生き方をしたかっただけで、王妃付きの侍女も、王太子に恋慕を受ける立場になりたかったでは無い。
でも、本当にそうなんだろうか?
もう一人の私が囁く。
「貴方に心ときめいて」をプレイしていた時点で、ヒロインの様に主人公として脚光を浴びたかったのでしょう?
憧れの一柳さんと恋愛し、結ばれる事を夢見ていたでしょう?
仕事でも認められて、必要とされる存在になりたかったのでしょう?
綺麗事を述べても、心の中で願っていた。
だから、この事態になったとは思わないの?
そして、密かにリリアンヌの様に、逆ハーで愛されまくりの人生を手に入れたかった、と認めたら良いじゃ無いの。
くすくすと笑う自分の声が脳裏に木霊する。
大きくなる嗤い声に私は翻弄される。
(確かにそうと言える。
古本屋で、中古品である「貴方に心ときめいて」のパッケージを手に取った事はそれが本心であったわ。
リリアンヌの様にヒロインになりたいって。
5歳の覚醒も、そうかも知れない。
でも、グーベルト家での生活が私の心を満たしてくれた。
ヒロインで無くても良いって思う程の愛情を沢山、受けたから、私は。
久保紗雪はとても幸せだった。
この世界での生活は生きる喜びを教えてくれたの。
家族に愛される喜びを教えてくれた。
必要とされる気持ちを教えてくれた)
私はこの世界に転生して本当に幸せだったの。
だけど、一つだけ、心の中に育つ想いに戸惑い始めて……。
ただ一つ、認めてはいけない気持ちに気付き始めたから、逃れたくて、私は……。
(もしかして、ラルフとの恋愛が作動し始めたのは、私がオリバー兄様を、兄以上の感情を抱きそうになる事を危惧した私が招いた事になるの?
私はこの世界でエレーヌとして、唯のモブキャラとして生を受けた筈なのに、だけど、久保紗雪として覚醒した所為で、何かが狂い始めた)
異世界転生した事で、本来の「貴方に心ときめいて」の世界観の軸が狂い出した。
だったら、私はこの事態を招いた責任を負わないといけない。
「お兄様、これ以上の暴言は控えて下さい。
ラルフ様は昨日の私の身体を気遣い、この様なお慈悲を私に与えて下さいました。
未来の国王にこの様な栄誉を賜る事はこのグーベルト家にとって映えある事とは思われませんか?」
「エレーヌ……」
「ラルフ様。
貴方様の高貴なる魂に、私は感銘を深く感じ入りました。
貴方様のお優しいお心に触れて私は決心しました」
はっと息呑む声が聞こえる。
オリバー兄様の顔色がだんだんと変わっていく。
苦渋に満ちた深い哀しみを湛えた……。
「エレーヌ」
鼓膜を侵す麗しい声。
喜色を含んだ声に、私は涙を堪えてラルフに告げる。
「王妃様付きの侍女の任命、謹んでお受けします」と。
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