まるでシンデレラの姉の様に

華南

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暖かいぬくもりに包まれている?

(こんな暖かい感触、あの時以来。
そう、お義父さんに一度、強く抱きしめられた……)

母が再婚した時、優しい義父に心惹かれたがなかなか馴染むことが出来なかった。
信じて裏切られたら。
優しい顔をしていても心の中を偽る大人なんて沢山いる。
ましてや「男」なんて中身は皆、一緒。

汚らわしいだけの存在。

母が夜の仕事をしていた所為で、男の人を綺麗な感情で見ることなんて出来なかった。
今でも、まだ心の中にその名残は、ある……。

だけど、義父だけは別。

あの人は今まで見た男とは違っていた。

父が亡くなる一年前、母が勝手に家を出た日、義父はかなり憔悴していた。
母が家の殆どの財産を奪っての離婚。
そして赤の他人の私がそのまま家に留まっていた事に、義父は大きく目を見開き、そして静かに微笑んだ。
母の身勝手さに私は涙を溜めて義父に謝った。
謝っても済むことでは無い。
なのに、私の事を心配して宥めて、そして強く抱きしめてくれた。

「泣かないで……。
美夜が悪いわけではない。
全ては僕が不甲斐ないから。
だから美夜にも迷惑を掛けて済まない」

優しい義父の抱擁。
身体に伝わるぬくもり。

一瞬、このまま時が止まればいいのにと考えた。
義父の心を思えばなんて非常識な、自分本位の考え。

でも私は嬉しかった……。
この腕のぬくもりが今は私だけのモノだと言う事が。

決してハンサムだとは言いがたい義父。
でも、その目の優しさは今まで見たどんな男性よりも慈愛に満ちて心が和らいだ。

好きだった。
初めての恋。

生きていて、本当に良かったと思うくらい幸せな、初めて実感した人のぬくもりだった……。

「お義父さん……」

涙が溢れる。
溢れる涙を優しく拭ってくれる。

その優しさに縋って私はまた、涙を流していた……。

***


「全く、何があったんだ?
俺とした事がどうして、この女に関わっている」


久々の休日とあってゆっくりとマンションで寛ぐつもりが、夜中に慧が訪問してきた所為で予定が狂ってしまった。
密かに読もうと思っていた本も、慧がいると集中できない。

人に自分のテリトリーを犯されたくは無い。
喩え幼馴染で、親友と言っても、だ。

(半分、睡魔が襲っていた所為で慧の言葉を聞くことが出来なかったが、まあ、瞳絡みで自分の思うように事が運ぶ事が出来なかったんだろう。
いい加減にしてくれと言っても全然、聞き入れてくれない。
全く、何故、他人の色恋沙汰に付き合わないといけない。
勝手にしてくれ)

ほとほと困り果てて、マンションを出て図書館に来て見たら、敷地内の公園であの女がいるではないか。
正直、関わりたくない存在だ。
瞳の事であの女と言い争いになったが、会話など成り立たない、本当に感情に走った論争だった。
一方的な。

だが、あの女の涙には一瞬、心を奪われたが……。

「何、しているんだ?
あの女は。
身体を揺れ動かして…?」

背もたれの無いベンチに座って、心地よい日差しに当たり睡魔に襲われた美夜はうっつらと身体を揺れ動かしていた。
前かがみに倒れそうになる美夜に、怪訝な表情を浮かべながら近寄ってきた柊哉が身体を支える。
身体に倒れこんでくる美夜を胸に抱きこむ。

ふわりと美夜から甘い薫りが漂ってくる。
胸に伝わる美夜の寝息。
あの時の表情とは違い、穏やかな表情で身体を寄せる。

戸惑いながらも柊哉は美夜の背に腕を回す。
一瞬、美夜の口から言葉が紡がれる。
微かに聞こえる言葉が何を言っていたか解らない。
だがその後涙を流す様に、柊哉は、またあの時の感覚に囚われる。

悲しみを湛えた美夜の顔から涙が止まらない。

そっと涙を拭えば、美夜がまた涙を流す。
そして自分に縋る美夜が自分の身体に腕を回してくる。
抱きつき密着する美夜に柊哉は戸惑いを隠せない。

(涙を流しながら俺に抱きつくなんて、誰を思っている?
誰を想いそんなに涙を流すんだ?)

一瞬、柊哉の感情に言いようも無い、苦いモノが込みあがる。
何故、こんな感情に囚われるんだ?と思いながらも美夜を抱きとめる腕を緩めず力を入れていく。

(俺は何故、この女を抱きとめている。
どうして起こすこともせず、この女を抱きしめている)

初めて湧き上がる感情に、柊哉は答えを見つける事が出来なかった……。


***


「済まない、遅くなって」

「い、いいえ、急に連絡を入れて、松室さんにご迷惑をおかけしました」

真っ赤になって言葉を紡ぐ瞳に慧が零れんばかりの笑顔を浮かべる。
愛おしさを隠さない慧の顔に、瞳の感情が揺らぐ。

(い、今まで、こんな風に男性に見られた事は無い。
こんな風に優しさを訴えた……)

心の中のときめきが治まらない。
余りの激しさに慧に気付かれるのではないだろうか?と瞳は先ほどから気が気ではない。
もし、気付かれたらどうしよう…と瞳は益々顔を赤らめる。

自分の微笑みに顔を赤く染める初心な瞳に慧は自分の欲望を抑えるのに必死になっていた。

もう、止める事を知らない。
もし瞳が自分に対して笑顔を浮かべたら、自分はもう瞳を離すことなど出来ないだろう。
強引に奪ってしまうかも知れない。
それ程、慧は瞳を欲していた。

その感情が既に狂気を含んだ執着とは思わずに。

「今から、君を食事に誘っていいかな?
美味しいカフェがある。
そこで昼食をとりながらバイトの話をしたいけど、構わないかい?」

優しい声音で自分に言葉を紡ぐ慧に、瞳はこくりと頷く。
耳まで真っ赤にしながら顔を俯かせる瞳の肩を抱き、車へと案内する。
肩を慧に抱かれて瞳はふと、慧を見上げる。
慧の目が熱を込めて自分を見つめている。

怖いくらいに自分に強い熱を帯びた瞳で見つめている。
その熱さに瞳はくらくらする。

頬が火照り、先ほどとは違う熱に身体が奪われる。

慧の強い眼差しが怖いと思った。
だが、それ以上その熱い眼差しの意味を知りたいと思う感情に、瞳は戸惑いを隠す事が出来なかった……。
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