まるでシンデレラの姉の様に

華南

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(先ほどから自分たちに注がれる視線が痛い……)

慧に連れられて向ったカフェに瞳は躊躇していた。
自分が今まで行った事のない大人びた雰囲気のカフェ。
学生の自分には分不相応な迄の。

先に予約を入れていたのだろうか?
案内された場所の椅子に座りながら周りを見渡してしまう。

「あ、あのこんな高級な場所とは思っていませんでした。
わ、私、余り、その、持ち合わせが……」

最後の言葉が恥ずかしくなって瞳は真っ赤になって俯いてしまう。
今の瞳は美夜の扶養として身を任せている。
自分で使える小遣いも、父が残してくれた保険金から貰っている。
自分が働き出したら私がもっと瞳に渡すから……と淡く微笑んだ美夜の顔が脳裏から離れない。
殆どの生活費を美夜の稼ぎに任せてしまう。
それが嫌で瞳は必死になってバイトを探して、古本屋で働き始めたのに。

不意に沈んでいく自分に被りを振る。

自分が誘った事でこの場所に来たので、当然支払うのは慧だと思っていた。
なのに瞳は全くそんな考えを持ち合わせていない。
自分の周りの女達は慧の経済状況を把握している所為か、皆、ずうずうしく甘えて支払いを促す態度を取る。
そんな中での瞳の謙虚さに慧は益々瞳に対しての想いが募る。

(全く、何処まで僕の理性を試しているんだ)

遠慮がちに言う瞳が堪らなく可愛くて慧は膨れ上がる欲望を抑えるのに必死だ。
自然と浮かぶ欲情を湛えた笑み。
その壮絶なまでの艶やかな微笑みに周りの女性の嘆息が途切れる事が無かった。

秀麗な美貌の慧に周りの女性客が羨望の眼差しで見つめていた。
その視線を感じながら慧と会話する瞳はここの支払いの事だけではなく、違った意味で居た堪れない心境に陥っていた。
早くバイトの話を終えて帰りたい……と心の中で祈る気持ちで慧を見つめていると、優しい笑みで慧が離し掛ける。

「ここの支払いは僕に任せて欲しいな。
女性を誘って支払わないと言う考えは僕は持ち合わせていない」

「で、でも、私が松室さんにバイトの相談を持ちかけたので、それでは……」

それ以上の言葉を紡がせない程の慧の真摯な眼差し。
自分を先ほどから強く見つめるあの眼差しに瞳は言葉が出ない。

「……、慧と呼んでくれないか」

「え?」

「僕の事、慧と呼んで欲しい、瞳」

急に名前で呼ばれて瞳は混乱してしまう。

「あ、あの、わ、私、そ、その、貴方の事は昨日知っただけで、名前で呼ぶほどの……」

警告音が頭の中に響く。
自分の中に深く入り込もうとする慧が怖い。
あの強烈なまでの熱の篭った瞳。
厭らしく自分を品定めしてきた異性と、嫉妬と妬みの同性の眼差しとはまた違う、異質な、それよりももっと怖い……と瞳の身体が震える。
多分、このまま慧と居たら自分は。

「瞳?」

「……」

「どうかしたのか?
瞳、顔色が悪い」

テーブルの上で小刻みに震える瞳の手に慧がそっと重ねる。
慧の熱が瞳の手に伝わる。

「だ、駄目……」

そう言いながら無意識に手を振り払う。

「……、ご、ごめんなさい。
あ、あの、私帰ります。
そ、その急に誘ってごめんなさい」

そう言って席を立ち、逃げる様に瞳はカフェを出る。
急にカフェを出る瞳を追って慧は会計に一言言葉を交わし瞳の後を追う。

必死になって瞳は逃げていた。
慧のあの熱の篭った眼差しの意味を知りたいと心の中で思った。
だがそれは自分にとって本能的に危険な事ではないか!

そう言葉が過ぎった途端、逃げなければと思った。
何がどうこうではない。
ただ、このまま慧の側にいては自分は囚われてしまう。
慧のあの強い想いに……。

「瞳!」

追いかけてくる慧に腕を掴まれ瞳は急に動きを止められる。

「は、離して!」

急に自分から逃げ出した瞳の行動に慧は一瞬気が動転した。

(な、何故瞳が僕から逃げる?)

沸々と湧き上がる感情が慧を支配する。

僕から逃げようなんて事はさせない……。

ぞっとする程の冷酷な笑みを浮かべる。
走り去る瞳を追いかけ、そして腕を捕らえる。
怯えた眼差しを瞳は浮かべている。
身体を振るわせる瞳の姿に慧の中の嗜虐心に火が灯る。

「どうして僕から逃げる?」

穏やかに微笑む慧の目が笑っていない事を感じ、瞳はかたかたと身体を震えさせる。

「い、いや……」

「…何もしないのに、こんなに身体を震えさせて。
僕が瞳を怖がらせる事をした?」

哀しげに瞳を見つめる慧に瞳は言葉が出ない。

「送るから車に乗って」

「……」

「瞳……」

優しげに耳元で囁く慧に身体を預けるように瞳は車に案内される。
助手席に乗り、シートベルトを慧に付けられた途端、慧がすっと瞳の頬を捉えじっと見つめる。

「瞳」

ずっと自分を見つめていたあの熱い眼差しで瞳を覗き込む。
先ほどの恐怖がまた瞳の感情を奪う。

「あ、い、いや……」

自然と零れる否定の言葉。
自分を怖がり涙を流しながら逃げようとする瞳に慧の理性がぶつり、と切れる。

「どうして涙を流す?
僕が怖いの?
こんなに瞳を愛しているのに……」

最後に囁く言葉に瞳は思考が白く染まる。

(い、今、なんて言ったの?
わ、私を愛している?)

呆然とする瞳に慧が壮絶な迄の笑みを浮かべて瞳の涙を拭う。

「泣かないで。
愛する君に泣かれたら僕は自分の想いを止めることが出来ない」

そっと瞳に眼に唇を寄せる。
辿るように頬に唇が落ちていき、そして瞳の唇に触れる。

(え……)

啄ばむ様に優しく何度も瞳の唇を奪う。
自分の身に何が起こっているのか解らない瞳は、ただただ慧の口付けを受け入れていた……。
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