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番外編 小噺集
シリウスとミルクプリン
しおりを挟むスーヴィエラはシリウスの好物を聞くべく、料理長の元を訪れていた。
「奥様、いかがしましたか?」
「あ、あの…ひとつ、聞きたいことが」
「はい?」
料理長は不思議そうな顔をしたが、スーヴィエラは意を決して口に出した。
「あ、あの……だ、だ、だん……」
「だん?」
「だ、旦那様の…好ぶちゅ…」
噛んでしまったのか、スーヴィエラは何ともいえない顔をしたが、料理長は理解できて微笑んだ。
「旦那様の好物でしたらミルクプリンでございます」
料理長の言葉にスーヴィエラの表情が輝く。
「ミルクプリン! どうやって作るのですか!?」
「…奥様、料理にご興味が…?」
「は! …え、あっ、あの…私は…」
「奥様が手料理を振る舞えば旦那様はとても喜ばれるでしょう」
スーヴィエラはボンッと真っ赤になると、顔を覆ってへたり込む。
「旦那様に手料理…」
少し嬉しそうなトーンの彼女に料理長は優しく微笑みながら料理長特製のレシピを教えることにした。
「奥様、作り方を伝授いたしますので、是非、旦那様に何度も作ってあげてくださいね?」
「はい!」
スーヴィエラは大きく頷くと、用意したメモを構えている。
健気なスーヴィエラの様子に、料理長は優しく微笑んだ。
(旦那様、良かったですね。こんなにも可愛らしい奥方があなたのお嫁さんだそうですよ?)
随分と明るくなり、最近はシリウスのために甘やかされるだけでなく、頑張っているスーヴィエラには前以上に好感が持てた。
不安のようなものが溶けて消えてきたからなのかもしれない。
とはいえ、シリウス以外とは、まだ触れられると怖いのだろう。
バネ仕掛けのごとく勢いよく飛び退く。そのおかげでひっくり返ることもよくあるため、シリウスは心配でたまらないようだ。
特に伴侶のこととなると口煩いシリウスはスーヴィエラを溺愛し、怪我をしたと報告を受けたら後が怖い。
「それでは奥様。始めましょうか」
料理長は保管庫からミルクの缶を取り出した。
☆
シリウスは微かに首を傾げた。
「なあ、料理長」
「はい?」
「今日のミルクプリン、何となく甘い気がするんだけど」
「レシピ通りに作りましたよ?」
「そうなのか?」
スーヴィエラが作ったことは上達するまで言わないで欲しいと口止めされているため、料理長は何も言わずに彼の前に出した。
「それに、少し柔らかい気がするが…」
ミルクプリンへのこだわりが強いシリウスにはスーヴィエラの作ったミルクプリンへ違和感があるようだった。
「少し柔らかめに作ってみました。お嫌いですか?」
「いや? すごく美味しい。むしろ、こっちの方が好きかな」
料理長は内心で、
(そりゃあ、あなたの愛する奥様が作ったミルクプリンですからね)
と、思ったが口には出さない。
シリウスがスーヴィエラのミルクプリンの味に気がつくのは、まだ、数年以上後の話。
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