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プロローグ 〈繋ぎ〉の聖女の転職
ep1
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とある剣と魔法の世界にて――
礼拝堂で一人の女性が5メートルほどある美しい八翼の龍の聖像の前で跪き、祈りを捧げていた。
「始祖たる龍の恵みに感謝します」
黒を基調とした修道女の衣装に身を包んだそのうら若い娘は大きな聖像を見上げていたのだが、不意に声を掛けられて振り返った。
「聖女アリシア・コーシカ」
そこには若き司祭がいた。この国では見かけない、黒髪に黒い目の若い娘を連れて。
その娘は不安そうに周囲を見回していたが、視線が合った時にふっと勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
アリシアがその顔にぞっとしていると、彼女を連れている司祭は気が付いていないのか不思議そうに小首を傾げていただけだった。
「? まあ、いい。君に重大なお知らせがあるんだ」
「司祭、結婚するのですか?」
「え? 結婚? いや、しないよ? 実は本物の聖女様を連れてきたんだ」
「…本物?」
アリシアが怪訝そうな顔をすると、司祭は声のトーンを落とした。
「君が偽物とか、そういう話じゃない。ただ、教会内のバランスの問題さ。一派が力を得ようとすれば、反発を招く。――それに終止符を打つには、聖書の『奇跡』を起こせばいい」
「…聖書の『奇跡』というと――まさか、異世界召喚、ですか!?」
「そう。そうして、このセナ嬢を召喚したということなんだ。でね。そうなると、聖女が二人になってしまうわけなんだが、奇跡として召喚したセナ嬢を教会の目玉に仕上げたいんだ」
司祭に振り替えられ、一瞬で不安そうな顔の純朴そうな乙女に戻った黒髪黒目の娘の顔を見ながら、アリシアは小さく吐息を漏らした。
「では、私はクビ、ですか?」
「安心し給え。きちんと退職金は出るし、支援金は出るから」
そう言って司祭が一歩進み出た。セナという娘もつられて前に進み出る。
「今までご苦労様。〈繋ぎ〉の聖女様?」
ポンッと肩に手を置かれ、にこりと感じのいい笑みを向けられてアリシアは遠い目をした。
その後、部屋に戻った彼女はいつの間にか彼女の荷物がまとめられており、机の上に貴重なアイテムである魔法鞄と一緒に大量の『退職金』が乗せられていることで嫌でも悟らされた。
『さっさと出ていけ』
そうアピールされていることに。
見た目よりもたくさんの物が質量を無視して入る魔法鞄にお金を入れ、そして自分の着替えや貴重品、そして書物などを詰め込んだ。
修道院を出るということなので着替えたいところだが、彼女自身はほとんど私服を持っておらず、公務用の黒いドレススーツにオーダーメイドの黒い小さな帽子、そして白いタイツに履き慣れた黒いハイヒールを履いて街に繰り出した。
しかし。
数分後、彼女は近くの公園でベンチに腰掛けながら途方に暮れていた。
「帰る実家がないのに…」
彼女は見事に路頭に迷っていた。
そう。彼女に実家がない。そもそも、親が誰か知らなかった。
生まれたばかりの彼女がおくるみに包まれて、教会の前に捨てられていたところを教会が保護し、育ててくれたことで生きながらえてきた。
だが、彼女の持つ『触れるだけで死なない程度の傷をたちどころに治す力』に教会は目を付け、教会政治の派閥争いに利用するべく聖女に仕立て上げたのだった。
命の恩人である教会に恩義を果たすべく公務にいそしんできたが、その縛りが無くなった今、彼女には何をすればいいのかわからない有り様である。
「…どうしたら…」
ベンチに腰掛けて途方に暮れていたアリシアだったが、不意に風に煽られて飛んできた広告が顔にへばりついた。
「…惨めすぎませんか、これ…」
そうぼやいて彼女がその紙を引きはがすと、仕事斡旋を行うギルドの広告であることに気が付いて目を輝かせた。
「これです、これ!」
大声を出してしまったことで周囲から視線を集めてしまった彼女は気恥ずかしそうに身を竦め、そそくさとその場を立ち去るとその紙を手に意気揚々とギルドに向かった。
礼拝堂で一人の女性が5メートルほどある美しい八翼の龍の聖像の前で跪き、祈りを捧げていた。
「始祖たる龍の恵みに感謝します」
黒を基調とした修道女の衣装に身を包んだそのうら若い娘は大きな聖像を見上げていたのだが、不意に声を掛けられて振り返った。
「聖女アリシア・コーシカ」
そこには若き司祭がいた。この国では見かけない、黒髪に黒い目の若い娘を連れて。
その娘は不安そうに周囲を見回していたが、視線が合った時にふっと勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
アリシアがその顔にぞっとしていると、彼女を連れている司祭は気が付いていないのか不思議そうに小首を傾げていただけだった。
「? まあ、いい。君に重大なお知らせがあるんだ」
「司祭、結婚するのですか?」
「え? 結婚? いや、しないよ? 実は本物の聖女様を連れてきたんだ」
「…本物?」
アリシアが怪訝そうな顔をすると、司祭は声のトーンを落とした。
「君が偽物とか、そういう話じゃない。ただ、教会内のバランスの問題さ。一派が力を得ようとすれば、反発を招く。――それに終止符を打つには、聖書の『奇跡』を起こせばいい」
「…聖書の『奇跡』というと――まさか、異世界召喚、ですか!?」
「そう。そうして、このセナ嬢を召喚したということなんだ。でね。そうなると、聖女が二人になってしまうわけなんだが、奇跡として召喚したセナ嬢を教会の目玉に仕上げたいんだ」
司祭に振り替えられ、一瞬で不安そうな顔の純朴そうな乙女に戻った黒髪黒目の娘の顔を見ながら、アリシアは小さく吐息を漏らした。
「では、私はクビ、ですか?」
「安心し給え。きちんと退職金は出るし、支援金は出るから」
そう言って司祭が一歩進み出た。セナという娘もつられて前に進み出る。
「今までご苦労様。〈繋ぎ〉の聖女様?」
ポンッと肩に手を置かれ、にこりと感じのいい笑みを向けられてアリシアは遠い目をした。
その後、部屋に戻った彼女はいつの間にか彼女の荷物がまとめられており、机の上に貴重なアイテムである魔法鞄と一緒に大量の『退職金』が乗せられていることで嫌でも悟らされた。
『さっさと出ていけ』
そうアピールされていることに。
見た目よりもたくさんの物が質量を無視して入る魔法鞄にお金を入れ、そして自分の着替えや貴重品、そして書物などを詰め込んだ。
修道院を出るということなので着替えたいところだが、彼女自身はほとんど私服を持っておらず、公務用の黒いドレススーツにオーダーメイドの黒い小さな帽子、そして白いタイツに履き慣れた黒いハイヒールを履いて街に繰り出した。
しかし。
数分後、彼女は近くの公園でベンチに腰掛けながら途方に暮れていた。
「帰る実家がないのに…」
彼女は見事に路頭に迷っていた。
そう。彼女に実家がない。そもそも、親が誰か知らなかった。
生まれたばかりの彼女がおくるみに包まれて、教会の前に捨てられていたところを教会が保護し、育ててくれたことで生きながらえてきた。
だが、彼女の持つ『触れるだけで死なない程度の傷をたちどころに治す力』に教会は目を付け、教会政治の派閥争いに利用するべく聖女に仕立て上げたのだった。
命の恩人である教会に恩義を果たすべく公務にいそしんできたが、その縛りが無くなった今、彼女には何をすればいいのかわからない有り様である。
「…どうしたら…」
ベンチに腰掛けて途方に暮れていたアリシアだったが、不意に風に煽られて飛んできた広告が顔にへばりついた。
「…惨めすぎませんか、これ…」
そうぼやいて彼女がその紙を引きはがすと、仕事斡旋を行うギルドの広告であることに気が付いて目を輝かせた。
「これです、これ!」
大声を出してしまったことで周囲から視線を集めてしまった彼女は気恥ずかしそうに身を竦め、そそくさとその場を立ち去るとその紙を手に意気揚々とギルドに向かった。
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