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プロローグ 〈繋ぎ〉の聖女の転職
ep4
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アリシアはいつも通り日の出とともに目を覚ますと、そろそろ洗濯をしたいが魔法で綺麗にしただけの公務服に身を包んだ。
そして、まだ肌寒い外に出ると太陽が昇る方角へと跪き、手を握り合わせて祈りを捧げる。
「慈悲深き始祖の女神よ。今日も一日、皆をお守りくださいませ」
本当は一時間以上もかけてミサを行うべきなのだろうが、聖女ではなくなってしまったので略式の祈りだけを捧げた。
いや、本当は祈りを捧げないことで違和感を覚えているものの、今まで通りに過ごすのが正しいのか、それとも教会の人間ではないということで修道者としての義務を果たさないようにするのか、どちらが正しいのかわからなかった。――今の彼女には、特に。
お祈りをすることでアリシアは緊張感も和らぐのを感じていると、不意に声を掛けられて文字通りに彼女は飛び上がった。
「あのさ」
「ひゃあ!?」
素っ頓狂な声で叫んだ彼女は慌てて口を塞いだが、驚きすぎてしゃっくりが出ていた。
「す、すまない。驚かせるつもりはなかったんだが…」
気まずそうにそう言ったのはアリシアより年上のように見える若い男。
騎士の礼服に身を包み、茶髪にヨモギ色の瞳をしたその男はへたり込んでしまっているアリシアへと手を差し伸べ、アリシアが立つのを手助けした。
「今、水を持ってくる」
「いえ、すみ、ま、せん」
しゃっくりしていたアリシアは魔法で水を呼び出そうとしたが盛大に失敗し、絹の手袋と一張羅の袖口がびしょぬれになってしまった。
「ひゃっ…」
泣きそうな顔をしたアリシアの手のひらを包み込むように握った男は、魔法を使って一瞬で袖口と手袋を乾かし、そして一口サイズの水の球体を空中に浮かべた。
そして手を離し、指を彼女の口元に示す仕草をすると、水の球体が彼女の口元に運ばれ、その球体をアリシアはパクリと頬張った。
しばらくして落ち着いてくると、アリシアは気の抜けた笑顔で彼に笑いかけた。
「ありがとうございます、騎士様。落ち着きました」
それから、アリシアは小首を傾げる。
「何か御用ですか?」
「いや、その、わざわざ外で祈りを捧げなくても、王宮の中にも礼拝堂があるから、そこを使えばいいのではないかと思って、…な。外で長居すると今の時期、風邪をひく」
「え?」
「ここは海に近いから、冬場は特に冷える。信心深いことが悪いことだとは思わないが、少し体を労わった方がいい」
彼が背を向けたのでアリシアはぺこりと頭を下げた。
「ご忠告、痛み入ります。…礼拝堂、があるんですね。ですが、私は受験者程度の存在ですし、王宮の礼拝堂を使用するなど恐れ多いですから」
彼は振り返ったが、すっと視線をそらした。
「礼拝堂は母屋側であって、別に離宮にさえ今は近づかなければいい。警備の邪魔になることさえしなければ、何も問題はないからな」
「そう、なんですね」
アリシアはふにゃりと表情を緩めた時、彼が思い出したように再び振り返った。
「ああ、そうだ。受験者で受験番号42番を探している。朝、彼女の部屋に執事長からの伝言を頼まれたのだが、すでに出かけてしまっていて会えなかった」
「え、私ですけど…?」
アリシアがキョトンとしていると、彼が懐から取り出したのは一枚の紙。
それを受け取って文面に目を通し、目を輝かせたアリシアに彼はあまり愛想のよくない顔で、少し優しい口調で告げた。
「そうか。…頑張れよ」
「ありがとうございます!」
アリシアは意気揚々と歩き出したが、次第に早足に変わり、やがて駆け足に変わった。
それもそのはずで、メモに書かれていたのは『最終審査を行うので食堂にいらしてください』と書かれていたのだから。
夕食は食堂で用意されたので、場所はわかっていた。
食堂にたどり着いて息を整えてからドアをノックし、返事があると中に足を踏み入れた。その直後、
パァン
クラッカーが打ち鳴らされ、飾り紙がひらひらとアリシアの頭に降ってきた。虚を突かれていると、昨日の老齢の執事が優雅にお辞儀をして出迎えた。
その後ろにはたくさんの騎士や執事、そして侍女たちが拍手をして彼女を歓迎している。
「おめでとうございます、アリシア・コーシカさん。これから、メイドとしてよろしくお願いしますね」
その執事の隣にいた10代半ばほどの純白の髪の毛に薄水色の瞳を持つ美少女がアリシアの頭にメイドのカチューシャを乗せた。
「よろしくね、アリシアさん」
困惑しながらアリシアは執事を見やった。
「あの、最終試験は?」
「昨日の試験を待つ態度。あれですべて総合的に判断させていただきました。また、お夕飯を召し上がる際のマナーや態度、そして品位。いくら仕事ができても品位を下げる方を王宮に雇うわけにはまいりませんからね。それらから判断したところ、適正ありと判断させていただいたので、本日からよければご一緒に仕事がしたいと思っているのですが、いかがでしょうか?」
「…え? ええっ!?」
アリシアが困惑していると、食堂の入り口から銀髪に薄氷色の瞳をした、10代後半くらいの青年がやってきた。
「つまり、昨日の時点で既に採点は始まっていて、君は見事に合格したということだ。騎士にうつつを抜かすことなく、目の前のことをきちんと成し遂げられる。というか、騎士にメロメロになられて仕事に不具合が出ると困るからね。騎士はイケメンぞろいだったわけだけど、気にならなかった?」
「…え、でも、未来がかかった大事な試験ですし、これに落ちると職が決まるまで路頭に迷ってしまう羽目になったので。…それに、騎士様がいくら格好良くても、私は25歳で、一般的に行き遅れの領域ですし、バツイチさん以上の人じゃないとたぶん、縁談の話もないでしょうし」
アリシアは苦笑すると、彼は穏やかに微笑んだ。
「結婚するしないは別として、君の生活が良くなるように我々も協力しよう。――変な話をして悪かったね」
「いえ、構いません。司祭様の中にはパワハラで結婚していないことをネタにグチグチ言われたこともありますから。それに、勝手に私が余計なことまで喋ってしまっただけでして」
彼はにこりと笑った。
「まあ、とりあえずよろしくね」
すると、老執事が彼の袖を軽く引いた。
「シリウス王子。余計なことは考えていませんよね?」
「どうだと思う?」
その返しに老執事はこめかみを抑えて深くため息を漏らす。
一方のアリシアはキョトンとしていた。
「シリウス…? 青の聖龍様と同じ名前…? ですが、いえ、王家では一部、聖龍様と同じ名前を付けることをごく一部、許される方がいらっしゃると聞きますが…」
そんなことをブツブツと口の中で呟いていると、シリウスが振り返った。
その拍子に驚いてアリシアが文字通りに飛び上がると、ピンヒールの踵がうまく着地できず、バランスを崩した。
(あ、倒れる)
しかし、そのまま後ろに倒れこむことなく、誰かに抱き留められた。そして、起こすのを手伝ってもらう。
「…あ、ありがとうございます」
先ほど出会った茶髪の騎士がそこにいた。
老執事の横にいる白髪の美少女が目を見開いてその茶髪の騎士を指さし、大声を上げた。
「ああっ! ギュスターヴ、今までどこに行っていたのよ!? 歓迎会で一緒に出迎えるように言ったじゃないの!」
「失礼ながら、マリアンヌ姫。歓迎会は夜では?」
「こ・れ・が、歓迎会よ! 歓迎パーティは夜!」
声を荒げる彼女に、ギュスターヴと呼ばれた騎士は淡々と返した。
「それは、大変失礼しました、わが君」
「…で? どうしてここに?」
少し落ち着いたらしいマリアンヌがそう言うと、ギュスターヴは老執事を振り返った。
「ゼルム執事長にこちらの方への伝言を頼まれたので。その完了報告をしに来たのですが、わが君がいるとは思いもしませんでした」
「…まあ、いいわ。とりあえず、このアリシアさんを採用することになったから、ギュスターヴも仲良くしてよ。ね?」
「はい」
淡々とした返事を聞きながら、アリシアは王宮でメイドにて採用されたという実感がこみ上げて、周囲を見渡してにっこりと笑った。
「よろしくお願いします皆様」
温かな拍手をもらい、アリシアは居場所を見つけたことで温かいものがこみ上げてくるのを感じながら深々と頭を下げた。
そして、まだ肌寒い外に出ると太陽が昇る方角へと跪き、手を握り合わせて祈りを捧げる。
「慈悲深き始祖の女神よ。今日も一日、皆をお守りくださいませ」
本当は一時間以上もかけてミサを行うべきなのだろうが、聖女ではなくなってしまったので略式の祈りだけを捧げた。
いや、本当は祈りを捧げないことで違和感を覚えているものの、今まで通りに過ごすのが正しいのか、それとも教会の人間ではないということで修道者としての義務を果たさないようにするのか、どちらが正しいのかわからなかった。――今の彼女には、特に。
お祈りをすることでアリシアは緊張感も和らぐのを感じていると、不意に声を掛けられて文字通りに彼女は飛び上がった。
「あのさ」
「ひゃあ!?」
素っ頓狂な声で叫んだ彼女は慌てて口を塞いだが、驚きすぎてしゃっくりが出ていた。
「す、すまない。驚かせるつもりはなかったんだが…」
気まずそうにそう言ったのはアリシアより年上のように見える若い男。
騎士の礼服に身を包み、茶髪にヨモギ色の瞳をしたその男はへたり込んでしまっているアリシアへと手を差し伸べ、アリシアが立つのを手助けした。
「今、水を持ってくる」
「いえ、すみ、ま、せん」
しゃっくりしていたアリシアは魔法で水を呼び出そうとしたが盛大に失敗し、絹の手袋と一張羅の袖口がびしょぬれになってしまった。
「ひゃっ…」
泣きそうな顔をしたアリシアの手のひらを包み込むように握った男は、魔法を使って一瞬で袖口と手袋を乾かし、そして一口サイズの水の球体を空中に浮かべた。
そして手を離し、指を彼女の口元に示す仕草をすると、水の球体が彼女の口元に運ばれ、その球体をアリシアはパクリと頬張った。
しばらくして落ち着いてくると、アリシアは気の抜けた笑顔で彼に笑いかけた。
「ありがとうございます、騎士様。落ち着きました」
それから、アリシアは小首を傾げる。
「何か御用ですか?」
「いや、その、わざわざ外で祈りを捧げなくても、王宮の中にも礼拝堂があるから、そこを使えばいいのではないかと思って、…な。外で長居すると今の時期、風邪をひく」
「え?」
「ここは海に近いから、冬場は特に冷える。信心深いことが悪いことだとは思わないが、少し体を労わった方がいい」
彼が背を向けたのでアリシアはぺこりと頭を下げた。
「ご忠告、痛み入ります。…礼拝堂、があるんですね。ですが、私は受験者程度の存在ですし、王宮の礼拝堂を使用するなど恐れ多いですから」
彼は振り返ったが、すっと視線をそらした。
「礼拝堂は母屋側であって、別に離宮にさえ今は近づかなければいい。警備の邪魔になることさえしなければ、何も問題はないからな」
「そう、なんですね」
アリシアはふにゃりと表情を緩めた時、彼が思い出したように再び振り返った。
「ああ、そうだ。受験者で受験番号42番を探している。朝、彼女の部屋に執事長からの伝言を頼まれたのだが、すでに出かけてしまっていて会えなかった」
「え、私ですけど…?」
アリシアがキョトンとしていると、彼が懐から取り出したのは一枚の紙。
それを受け取って文面に目を通し、目を輝かせたアリシアに彼はあまり愛想のよくない顔で、少し優しい口調で告げた。
「そうか。…頑張れよ」
「ありがとうございます!」
アリシアは意気揚々と歩き出したが、次第に早足に変わり、やがて駆け足に変わった。
それもそのはずで、メモに書かれていたのは『最終審査を行うので食堂にいらしてください』と書かれていたのだから。
夕食は食堂で用意されたので、場所はわかっていた。
食堂にたどり着いて息を整えてからドアをノックし、返事があると中に足を踏み入れた。その直後、
パァン
クラッカーが打ち鳴らされ、飾り紙がひらひらとアリシアの頭に降ってきた。虚を突かれていると、昨日の老齢の執事が優雅にお辞儀をして出迎えた。
その後ろにはたくさんの騎士や執事、そして侍女たちが拍手をして彼女を歓迎している。
「おめでとうございます、アリシア・コーシカさん。これから、メイドとしてよろしくお願いしますね」
その執事の隣にいた10代半ばほどの純白の髪の毛に薄水色の瞳を持つ美少女がアリシアの頭にメイドのカチューシャを乗せた。
「よろしくね、アリシアさん」
困惑しながらアリシアは執事を見やった。
「あの、最終試験は?」
「昨日の試験を待つ態度。あれですべて総合的に判断させていただきました。また、お夕飯を召し上がる際のマナーや態度、そして品位。いくら仕事ができても品位を下げる方を王宮に雇うわけにはまいりませんからね。それらから判断したところ、適正ありと判断させていただいたので、本日からよければご一緒に仕事がしたいと思っているのですが、いかがでしょうか?」
「…え? ええっ!?」
アリシアが困惑していると、食堂の入り口から銀髪に薄氷色の瞳をした、10代後半くらいの青年がやってきた。
「つまり、昨日の時点で既に採点は始まっていて、君は見事に合格したということだ。騎士にうつつを抜かすことなく、目の前のことをきちんと成し遂げられる。というか、騎士にメロメロになられて仕事に不具合が出ると困るからね。騎士はイケメンぞろいだったわけだけど、気にならなかった?」
「…え、でも、未来がかかった大事な試験ですし、これに落ちると職が決まるまで路頭に迷ってしまう羽目になったので。…それに、騎士様がいくら格好良くても、私は25歳で、一般的に行き遅れの領域ですし、バツイチさん以上の人じゃないとたぶん、縁談の話もないでしょうし」
アリシアは苦笑すると、彼は穏やかに微笑んだ。
「結婚するしないは別として、君の生活が良くなるように我々も協力しよう。――変な話をして悪かったね」
「いえ、構いません。司祭様の中にはパワハラで結婚していないことをネタにグチグチ言われたこともありますから。それに、勝手に私が余計なことまで喋ってしまっただけでして」
彼はにこりと笑った。
「まあ、とりあえずよろしくね」
すると、老執事が彼の袖を軽く引いた。
「シリウス王子。余計なことは考えていませんよね?」
「どうだと思う?」
その返しに老執事はこめかみを抑えて深くため息を漏らす。
一方のアリシアはキョトンとしていた。
「シリウス…? 青の聖龍様と同じ名前…? ですが、いえ、王家では一部、聖龍様と同じ名前を付けることをごく一部、許される方がいらっしゃると聞きますが…」
そんなことをブツブツと口の中で呟いていると、シリウスが振り返った。
その拍子に驚いてアリシアが文字通りに飛び上がると、ピンヒールの踵がうまく着地できず、バランスを崩した。
(あ、倒れる)
しかし、そのまま後ろに倒れこむことなく、誰かに抱き留められた。そして、起こすのを手伝ってもらう。
「…あ、ありがとうございます」
先ほど出会った茶髪の騎士がそこにいた。
老執事の横にいる白髪の美少女が目を見開いてその茶髪の騎士を指さし、大声を上げた。
「ああっ! ギュスターヴ、今までどこに行っていたのよ!? 歓迎会で一緒に出迎えるように言ったじゃないの!」
「失礼ながら、マリアンヌ姫。歓迎会は夜では?」
「こ・れ・が、歓迎会よ! 歓迎パーティは夜!」
声を荒げる彼女に、ギュスターヴと呼ばれた騎士は淡々と返した。
「それは、大変失礼しました、わが君」
「…で? どうしてここに?」
少し落ち着いたらしいマリアンヌがそう言うと、ギュスターヴは老執事を振り返った。
「ゼルム執事長にこちらの方への伝言を頼まれたので。その完了報告をしに来たのですが、わが君がいるとは思いもしませんでした」
「…まあ、いいわ。とりあえず、このアリシアさんを採用することになったから、ギュスターヴも仲良くしてよ。ね?」
「はい」
淡々とした返事を聞きながら、アリシアは王宮でメイドにて採用されたという実感がこみ上げて、周囲を見渡してにっこりと笑った。
「よろしくお願いします皆様」
温かな拍手をもらい、アリシアは居場所を見つけたことで温かいものがこみ上げてくるのを感じながら深々と頭を下げた。
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