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新人メイドたちの日々
ep1
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アリシアは他に採用された二人と一緒にメイド服に着替えた後に呼び出された。
侍女長らしい年配の女性が膝下まであるエプロンドレス姿で待っていたが、三人がやってくると顔を上げた。
「職に就いて早々で申し訳ございませんが、さっそく仕事を覚えていただきます。次期女王陛下であるマリアンヌ様はお祝い事が好きなようでございまして、新しい人が入るたびに歓迎パーティを開いておりますし、妹様には甘いシリウス王子殿下も同調なさってご一緒されますが…歓迎していないわけではないのですが、いつまでも歓迎される側の気分でいられては困りますので」
淡々とそう告げたその年配の侍女は優雅にお辞儀をした。
「ああ、申し遅れましたね。私は侍女長をしているケイリー・マクミラン。あなたたちの教育係をつとめますのでよろしく」
アリシアは優雅にお辞儀を返した。
「お初にお目にかかります、侍女長。私はアリシア・コーシカと申します。精進いたしますのでよろしくお願いいたします」
他の二人も慌てて淑女の礼をした。
「カンナ・レム・フェイルです! えと、せ、精一杯頑張りますのでよろしくお願いします!」
「ノリア・グースと申します! ど、どうぞよろしくお願いいたします!」
侍女長は目を細めてアリシアを見据えた。
「…一つよろしいかしら?」
「はい?」
「あなた、神殿の方はいいのかしら?」
「はい。知っていらっしゃいますか、侍女長? 異世界より聖女が降臨なさったことを。――ゆえに、聖女は二人も必要ないとの見解でしたので」
アリシアの顔を見ながら侍女長は複雑そうな顔をした。
「そう。…でも、くれぐれもそういう話は王子殿下の前で特にしないように。教会が下手をすると血の海になるので」
「? あの、そんなに激しい方なのですか?」
「いえ、普段はお優しいですよ。使用人に対してもきちんと配慮いただけるような方です。ですが、自分の庇護下の者を傷つけられるとなると、話は別です。あらゆる権力を駆使してそれらを排除し、盤上をひっくり返すような方です」
小首を傾げるアリシアを余所に、侍女長は小さく息を吐き出すと姿勢を正して軽く顎を上げた。
三人の新入りも慌てて姿勢を正すと、侍女長が三人へ手帳サイズの小さな小冊子を配布し、そして言い放った。
「それには王家で働くにあたって必要な心構えが書いてあります。まあ、あなたたちが姫や王子の専属侍女というわけではないので、そこまで深く気負う必要は一切ありませんが、一度は目を通しておくように」
「「「はい!」」」
元気のいい返事が響いた後、侍女長はふと、思い出したように言った。
「ああ、そうだ。あなたたち三人にはメイドとしての仕事を教えていきますが、最低限の護身術も学んでいただきます」
「護身術…?」
ノリアが不思議そうに小首を傾げると、侍女長は少し困ったような顔をした。
「問題を起こすような人は騎士として王宮に残していないはずなのですけれども、時として、うら若い娘を前にすると下心がはみ出る阿呆どももいる、という可能性の話です。…それに、それだけでなく『お客様』で品のない方も中にはいらっしゃるかもしれません。そんな愚か者どもからわが身を守るには必要なことです」
そして、侍女長がエプロンの裏から唐突にナイフを取り出した。さらにはブーツから二本、袖口から拳銃を二丁、かがみこんでスカートの中からどこに隠していたのかと思えるほど大きな大剣を一振り取り出した。
さらに、エプロンのポケットからライフル、カチューシャから大量の銃弾が零れ落ちる。
「このように武器を各所に隠して持ち歩けるようになっていただきます。大剣やライフルなんかは別ですが、ナイフや拳銃は最悪でも扱えるレベルになっていただかなくては困ります」
侍女長は目を白黒している三人を見渡し、武器をそれぞれしまい始めた。
「なぜなら、有事の際に王家の方々をお守りするのも我らが使命ということを忘れられては困ります。…王家の方に専属護衛騎士である『円卓の騎士団』がいるとはいえ、限度があるので。――まあ、あなた方のような新人は邪魔になるのでさっさと逃がすでしょうけれど」
侍女長はそう言った後に切り替えるように掃除箱から掃除用具を取り出して説明を始めたが、いつもの掃除とほとんど大まかに変わっている部分は見当たらない。
ただ、アリシアとしてはどうやって大剣をスカートの中に隠しているのかそればかり気になって仕方がなく、少し落ち着かない気分でいた。
歓迎会までの間、他の二人と一緒にいろいろな仕事内容をメモしていたが、ふとした瞬間に侍女長の武器を隠している状態が気になって仕方がなくなっていたのだが、とても聞ける雰囲気ではなく落ち着かないアリシアであった。
侍女長らしい年配の女性が膝下まであるエプロンドレス姿で待っていたが、三人がやってくると顔を上げた。
「職に就いて早々で申し訳ございませんが、さっそく仕事を覚えていただきます。次期女王陛下であるマリアンヌ様はお祝い事が好きなようでございまして、新しい人が入るたびに歓迎パーティを開いておりますし、妹様には甘いシリウス王子殿下も同調なさってご一緒されますが…歓迎していないわけではないのですが、いつまでも歓迎される側の気分でいられては困りますので」
淡々とそう告げたその年配の侍女は優雅にお辞儀をした。
「ああ、申し遅れましたね。私は侍女長をしているケイリー・マクミラン。あなたたちの教育係をつとめますのでよろしく」
アリシアは優雅にお辞儀を返した。
「お初にお目にかかります、侍女長。私はアリシア・コーシカと申します。精進いたしますのでよろしくお願いいたします」
他の二人も慌てて淑女の礼をした。
「カンナ・レム・フェイルです! えと、せ、精一杯頑張りますのでよろしくお願いします!」
「ノリア・グースと申します! ど、どうぞよろしくお願いいたします!」
侍女長は目を細めてアリシアを見据えた。
「…一つよろしいかしら?」
「はい?」
「あなた、神殿の方はいいのかしら?」
「はい。知っていらっしゃいますか、侍女長? 異世界より聖女が降臨なさったことを。――ゆえに、聖女は二人も必要ないとの見解でしたので」
アリシアの顔を見ながら侍女長は複雑そうな顔をした。
「そう。…でも、くれぐれもそういう話は王子殿下の前で特にしないように。教会が下手をすると血の海になるので」
「? あの、そんなに激しい方なのですか?」
「いえ、普段はお優しいですよ。使用人に対してもきちんと配慮いただけるような方です。ですが、自分の庇護下の者を傷つけられるとなると、話は別です。あらゆる権力を駆使してそれらを排除し、盤上をひっくり返すような方です」
小首を傾げるアリシアを余所に、侍女長は小さく息を吐き出すと姿勢を正して軽く顎を上げた。
三人の新入りも慌てて姿勢を正すと、侍女長が三人へ手帳サイズの小さな小冊子を配布し、そして言い放った。
「それには王家で働くにあたって必要な心構えが書いてあります。まあ、あなたたちが姫や王子の専属侍女というわけではないので、そこまで深く気負う必要は一切ありませんが、一度は目を通しておくように」
「「「はい!」」」
元気のいい返事が響いた後、侍女長はふと、思い出したように言った。
「ああ、そうだ。あなたたち三人にはメイドとしての仕事を教えていきますが、最低限の護身術も学んでいただきます」
「護身術…?」
ノリアが不思議そうに小首を傾げると、侍女長は少し困ったような顔をした。
「問題を起こすような人は騎士として王宮に残していないはずなのですけれども、時として、うら若い娘を前にすると下心がはみ出る阿呆どももいる、という可能性の話です。…それに、それだけでなく『お客様』で品のない方も中にはいらっしゃるかもしれません。そんな愚か者どもからわが身を守るには必要なことです」
そして、侍女長がエプロンの裏から唐突にナイフを取り出した。さらにはブーツから二本、袖口から拳銃を二丁、かがみこんでスカートの中からどこに隠していたのかと思えるほど大きな大剣を一振り取り出した。
さらに、エプロンのポケットからライフル、カチューシャから大量の銃弾が零れ落ちる。
「このように武器を各所に隠して持ち歩けるようになっていただきます。大剣やライフルなんかは別ですが、ナイフや拳銃は最悪でも扱えるレベルになっていただかなくては困ります」
侍女長は目を白黒している三人を見渡し、武器をそれぞれしまい始めた。
「なぜなら、有事の際に王家の方々をお守りするのも我らが使命ということを忘れられては困ります。…王家の方に専属護衛騎士である『円卓の騎士団』がいるとはいえ、限度があるので。――まあ、あなた方のような新人は邪魔になるのでさっさと逃がすでしょうけれど」
侍女長はそう言った後に切り替えるように掃除箱から掃除用具を取り出して説明を始めたが、いつもの掃除とほとんど大まかに変わっている部分は見当たらない。
ただ、アリシアとしてはどうやって大剣をスカートの中に隠しているのかそればかり気になって仕方がなく、少し落ち着かない気分でいた。
歓迎会までの間、他の二人と一緒にいろいろな仕事内容をメモしていたが、ふとした瞬間に侍女長の武器を隠している状態が気になって仕方がなくなっていたのだが、とても聞ける雰囲気ではなく落ち着かないアリシアであった。
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