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新人メイドたちの日々
ep6
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「う~ん、美味しぃ!」
アリシアはもぐもぐとピザを一切れ食べ、幸せそうに顔を綻ばせた。
「ギュスターヴ様、ありがとうございます! とても美味しいです!」
「喜んでくれたなら、よかった」
ギュスターヴが頬を緩め、楽しそうに声を弾ませるが、アリシアはピザに夢中で彼の声の変化に気が付いていないようだった。
少女のように無邪気な笑みを浮かべながらギュスターヴを振り返ったアリシアは、満面の笑みを浮かべる。
とても喜んでいるのが伝わってきて、ギュスターヴがそっと目を細めると、自分も一切れ手に取って食べた。
「…うん、いつも通り美味しい」
アリシアはワインを飲みながら幸せそうに顔を綻ばせると、ギュスターヴは思い出したように懐からエメラルドのお守りを取り出した。
「そういえば、セルヴォ――つまり、君と最初に踊った騎士――から、落とし物を預かっているんだ。君が落としたお守り、だろう?」
アリシアはキョトンとした後、慌てて懐を探り、目を見開いて彼を見た。深い海のような青が揺れる。
「あの、その騎士様によろしくお伝えください。…とても、とても大切なものなのです」
「確かに、そんな大粒のエメラルドを身に付けていたら狙われる」
「それもあるのですが、私にとって初めてもらった誕生日プレゼントだったんです。とても大切な人からもらった最初で最後の…」
そう言ってお守りを受け取ると、首から下げて懐にしまい込んだ。
そして、ホッとしたように胸の前で手を握り合わせ、小さく微笑んだ。
「ギュスターヴ様も、届けてくださってありがとうございます」
「え? い、いや、気にしなくていい」
彼が少し照れてうつむいた直後、店内がざわついた。アリシアは不思議そうに小首を傾げると、ギュスターヴの隣に誰かが座ったので振り返り、驚いた顔をする。
ギュスターヴは身を固くしてゆっくりと振り返り、不気味な笑みを浮かべた自らの主にギョッとして絞り出すように尋ねた。
「…マリアンヌ様、なぜ、…ここに?」
「なぜって、決まっているでしょ」
マリアンヌのすぐ横に女騎士、そして、巨漢の中年騎士がその横に並んで座る。そのおかげでカウンター席は割と空いていたはずなのにほぼ満員になった。
「アリシア様に粗暴な態度をしないか見張るためよ」
アリシアに聞こえない程度の声量でそう言ったマリアンヌにギュスターヴが顔を引きつらせる。
「そんなこと、しませんよ」
「どうかしら? 一緒に組んで踊ったときにいい匂いだったとか、胸が柔らかいとか言っていた人間を信用できないんだけど?」
「肌が柔らかいとは言いましたが、胸じゃないです。手がモチ肌ですごい気持ち良くて…。それに、別に彼女のうなじに顔を埋めたわけじゃないです。ふんわりと優しい柑橘類みたいな匂いがするんです」
「…じゃあ、なんでデートに誘ったのかしら?」
「デート? なんのことですか?」
コソコソと二人で話していると、不思議そうにアリシアが小首を傾げて声をかけてきた。
「あの、作戦会議ですか? お邪魔なら私の分をお支払いして先に帰りますが…」
すると、先ほどまで浮かべていた不気味な笑みはいずこかへ消えたマリアンヌが身を乗り出してギュスターヴを押しのけ、満面の笑みを浮かべた。
「いえ、もう、ギュスターヴに全部払わせてしまえばいいわ。女性に見返りナシで奢ってこそ私の騎士なのだから。…ねぇ?」
ギュスターヴは話しを振られ、冷や汗を浮かべながら何度も頷いた。
「そ、そういうことなので、気にせず食べてくれ」
「…ギュスターヴ様、顔色が良くないですよ? お体の調子でも悪いのですか?」
心配そうな顔をしたアリシアに、彼は首を横に振る。
「いや、そうではなく…」
マリアンヌがやれやれと首を横に振って立ち上がり、大袈裟にため息を漏らした。
「まあ、いいですわ。でも、ギュスターヴ。――城に戻ったら話がありますので私の元に必ず来るように。来なかったら『お話』の時間が長くなるだけですけれどね?」
「なぜ、怒っていらっしゃるのでしょうか?」
「あら、それを聞くの? あなたの仕事態度と、そして女性の扱いの下手さを聞くたびに情けなくなるのだけど、見限ってほしいということかしら?」
「…そうではないですが…」
「雇って一日目からメイドに何かあっては、王家としても立つ瀬がありません。ですので、節度ある行動を騎士にも重々お願いしたはずです。――まあ、あなたはそのお願いの場にいなかったようだけど」
「…はい」
「わかったなら、よろしい。ただし、お説教はさせてもらいますけどね。ただ、何でもかんでも私に従えとは言わない。それでも、守るべき時に規律をしっかりと守ってもらうためにも、模範となってほしいというだけであって」
「申し訳ございません、マリアンヌ様」
深く頭を下げたギュスターヴにちょっと微笑んだマリアンヌは店主にチップとして少し代金を手渡した。
「これ、迷惑料です。お騒がせしてごめんなさいね。――今度はデリバリーで、だけどピザを注文するから許してね?」
ウィンクしたマリアンヌが颯爽と女騎士と巨漢の騎士を連れて立ち去ると、しんと静まり返っていた店内がゆっくりと音を取り戻し、やがて先ほどのような賑わいに戻っていった。
アリシアは俯いているギュスターヴの横顔を不思議そうに見つめると、彼はあいまいに微笑んだ。
「大丈夫だ。ただ、自分のことで手いっぱいだったせいで、主に心配をかけていたことが情けなくなっただけで」
アリシアが小さく微笑んだ。
「では、帰ったら私は礼拝堂で祈らねばなりませんね。――あなたの心が少しでも軽くなりますようにって」
ギュスターヴは目を見開くと、アリシアはワインを飲み干してグラスを軽く振り、小首を傾げた。
「マリアンヌ様をお待たせするわけにもまいりませんし、そろそろ戻りませんか?」
冗談交じりに彼女は、グラスも空ですし、と付け加えると、彼はフッと笑って立ち上がった。
「そうしようか」
ギュスターヴが二人分の代金を支払い、アリシアを寮の前まで送った後、彼は意を決して主の元へと向かった。
「ちょっと座りなさい」
「はい」
ギュスターヴはマリアンヌの前に設置されていた椅子に座らされ、マリアンヌとマリアンヌの護衛騎士の女騎士たちから主に集中砲火を受ける羽目となり、結局、日を跨ぐまで説教と、女性の扱いにおける講義が続いたのだった。
アリシアはもぐもぐとピザを一切れ食べ、幸せそうに顔を綻ばせた。
「ギュスターヴ様、ありがとうございます! とても美味しいです!」
「喜んでくれたなら、よかった」
ギュスターヴが頬を緩め、楽しそうに声を弾ませるが、アリシアはピザに夢中で彼の声の変化に気が付いていないようだった。
少女のように無邪気な笑みを浮かべながらギュスターヴを振り返ったアリシアは、満面の笑みを浮かべる。
とても喜んでいるのが伝わってきて、ギュスターヴがそっと目を細めると、自分も一切れ手に取って食べた。
「…うん、いつも通り美味しい」
アリシアはワインを飲みながら幸せそうに顔を綻ばせると、ギュスターヴは思い出したように懐からエメラルドのお守りを取り出した。
「そういえば、セルヴォ――つまり、君と最初に踊った騎士――から、落とし物を預かっているんだ。君が落としたお守り、だろう?」
アリシアはキョトンとした後、慌てて懐を探り、目を見開いて彼を見た。深い海のような青が揺れる。
「あの、その騎士様によろしくお伝えください。…とても、とても大切なものなのです」
「確かに、そんな大粒のエメラルドを身に付けていたら狙われる」
「それもあるのですが、私にとって初めてもらった誕生日プレゼントだったんです。とても大切な人からもらった最初で最後の…」
そう言ってお守りを受け取ると、首から下げて懐にしまい込んだ。
そして、ホッとしたように胸の前で手を握り合わせ、小さく微笑んだ。
「ギュスターヴ様も、届けてくださってありがとうございます」
「え? い、いや、気にしなくていい」
彼が少し照れてうつむいた直後、店内がざわついた。アリシアは不思議そうに小首を傾げると、ギュスターヴの隣に誰かが座ったので振り返り、驚いた顔をする。
ギュスターヴは身を固くしてゆっくりと振り返り、不気味な笑みを浮かべた自らの主にギョッとして絞り出すように尋ねた。
「…マリアンヌ様、なぜ、…ここに?」
「なぜって、決まっているでしょ」
マリアンヌのすぐ横に女騎士、そして、巨漢の中年騎士がその横に並んで座る。そのおかげでカウンター席は割と空いていたはずなのにほぼ満員になった。
「アリシア様に粗暴な態度をしないか見張るためよ」
アリシアに聞こえない程度の声量でそう言ったマリアンヌにギュスターヴが顔を引きつらせる。
「そんなこと、しませんよ」
「どうかしら? 一緒に組んで踊ったときにいい匂いだったとか、胸が柔らかいとか言っていた人間を信用できないんだけど?」
「肌が柔らかいとは言いましたが、胸じゃないです。手がモチ肌ですごい気持ち良くて…。それに、別に彼女のうなじに顔を埋めたわけじゃないです。ふんわりと優しい柑橘類みたいな匂いがするんです」
「…じゃあ、なんでデートに誘ったのかしら?」
「デート? なんのことですか?」
コソコソと二人で話していると、不思議そうにアリシアが小首を傾げて声をかけてきた。
「あの、作戦会議ですか? お邪魔なら私の分をお支払いして先に帰りますが…」
すると、先ほどまで浮かべていた不気味な笑みはいずこかへ消えたマリアンヌが身を乗り出してギュスターヴを押しのけ、満面の笑みを浮かべた。
「いえ、もう、ギュスターヴに全部払わせてしまえばいいわ。女性に見返りナシで奢ってこそ私の騎士なのだから。…ねぇ?」
ギュスターヴは話しを振られ、冷や汗を浮かべながら何度も頷いた。
「そ、そういうことなので、気にせず食べてくれ」
「…ギュスターヴ様、顔色が良くないですよ? お体の調子でも悪いのですか?」
心配そうな顔をしたアリシアに、彼は首を横に振る。
「いや、そうではなく…」
マリアンヌがやれやれと首を横に振って立ち上がり、大袈裟にため息を漏らした。
「まあ、いいですわ。でも、ギュスターヴ。――城に戻ったら話がありますので私の元に必ず来るように。来なかったら『お話』の時間が長くなるだけですけれどね?」
「なぜ、怒っていらっしゃるのでしょうか?」
「あら、それを聞くの? あなたの仕事態度と、そして女性の扱いの下手さを聞くたびに情けなくなるのだけど、見限ってほしいということかしら?」
「…そうではないですが…」
「雇って一日目からメイドに何かあっては、王家としても立つ瀬がありません。ですので、節度ある行動を騎士にも重々お願いしたはずです。――まあ、あなたはそのお願いの場にいなかったようだけど」
「…はい」
「わかったなら、よろしい。ただし、お説教はさせてもらいますけどね。ただ、何でもかんでも私に従えとは言わない。それでも、守るべき時に規律をしっかりと守ってもらうためにも、模範となってほしいというだけであって」
「申し訳ございません、マリアンヌ様」
深く頭を下げたギュスターヴにちょっと微笑んだマリアンヌは店主にチップとして少し代金を手渡した。
「これ、迷惑料です。お騒がせしてごめんなさいね。――今度はデリバリーで、だけどピザを注文するから許してね?」
ウィンクしたマリアンヌが颯爽と女騎士と巨漢の騎士を連れて立ち去ると、しんと静まり返っていた店内がゆっくりと音を取り戻し、やがて先ほどのような賑わいに戻っていった。
アリシアは俯いているギュスターヴの横顔を不思議そうに見つめると、彼はあいまいに微笑んだ。
「大丈夫だ。ただ、自分のことで手いっぱいだったせいで、主に心配をかけていたことが情けなくなっただけで」
アリシアが小さく微笑んだ。
「では、帰ったら私は礼拝堂で祈らねばなりませんね。――あなたの心が少しでも軽くなりますようにって」
ギュスターヴは目を見開くと、アリシアはワインを飲み干してグラスを軽く振り、小首を傾げた。
「マリアンヌ様をお待たせするわけにもまいりませんし、そろそろ戻りませんか?」
冗談交じりに彼女は、グラスも空ですし、と付け加えると、彼はフッと笑って立ち上がった。
「そうしようか」
ギュスターヴが二人分の代金を支払い、アリシアを寮の前まで送った後、彼は意を決して主の元へと向かった。
「ちょっと座りなさい」
「はい」
ギュスターヴはマリアンヌの前に設置されていた椅子に座らされ、マリアンヌとマリアンヌの護衛騎士の女騎士たちから主に集中砲火を受ける羽目となり、結局、日を跨ぐまで説教と、女性の扱いにおける講義が続いたのだった。
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