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星獣と元聖女
閑話 シリウスの癒し手
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シリウスはしばらく粘っていたが、魔力探知を打ち切った。
「ダメだ。この地域の魔素と混ざり合って辿れない。元々、分身に魔法を使わせて干渉していたらしいな。そもそもが術式発動状態だから、聖龍反応の挙動がおかしかったわけだけど、巧妙に探知阻害の高等魔導が用いられている。――厄介だ」
シリウスの護衛士フォレスが尋ねた。
「高等魔導ということは、最上級魔法ですか…」
「そうだ」
魔法にもランクがあり、区分として魔法、魔術、魔導の三段階に分けられていた。
中でも魔導は桁外れの魔力使用量であり、また、術を使う際に術式を組み立てるわけだが、その術式も難解で複雑なものとなっていた。
それゆえに使い手も限られてくるのだった。
「…疲れた」
シリウスはそうぼやくと、首を横に振った。
「どの聖龍だろうと俺の女に手を出さなければ、どうでもいい…」
「シリウス様」
「…っと、本音が。でも、実際そうだろう? その聖龍が何をしたのか知らないけど、俺の可愛いスーに手を出したわけじゃないなら、本気を出す必要もない。――まあ、仮に、俺のスーに手を出したなら…そして奪おうとするものなら容赦はしないが」
一瞬で殺意を帯びたシリウスの表情に呆れつつ、フォレスが首を横に振った。
「殿下、婚約者殿を溺愛するのは良いことですが、その、『スー』呼びはやめませんか? 『マチルダ』様というお名前があるではないですか。ミドルネームは確かに略するとスー、となりますが…」
「スーはスーだ。前世の時の嫁に俺が転生の権利を一度与えて、特別に転生させた存在。あっちも納得しているんだから問題ないだろう。むしろ、何が問題なんだ?」
「…いろいろと問題な気がします。というか、聖龍の転生の権利を一人の人間に分け与えるなんて許されるのですか!?」
「どの聖龍も一回はやっていることだ。気に入った伴侶を――まあ、人間の魂は脆いから一回しかさせてあげられないんだが――転生させてもう一度結ばれるようにする。…失敗した奴もいるけど」
「よく、始祖龍がお許しになりましたね?」
「始祖龍はめったなことで怒りはしない」
不機嫌そうな顔をしたシリウスは指を一度打ち鳴らすと、シリウスとフォレスの景色が一瞬で変化し、ウィノンの高級住宅街の屋敷の一つ、その前へと降り立った。
そして、屋敷の敷地内へと足を踏み入れると、庭で使用人と一緒にハーブティーに使うハーブを採集していた蜂蜜色の髪の毛に美しいエメラルドグリーンの瞳の美女が振り返って満面の笑みを浮かべた。
「シリウス様」
「ただいま、スー。…君を見たら全部の疲れが吹き飛んだよ」
「それはよかったです」
にっこりと笑って歩み寄ってきた彼女をギュッと抱きしめたシリウスは、頬を朱に染めながらも抱き返してきた彼女の額にキスを落とし、口元を緩めた。
「君さえいればそれでいい。今度こそは失敗しないって決めているんだ。――どんな手を使っても、な」
「…はい。信じています」
「ふふっ、いい子だ」
シリウスは彼女を抱き上げてお姫様抱っこをすると、「ひゃあ!?」と驚きすぎて素っ頓狂な声を上げた彼女に微笑みかけた。
「相変わらず、耐性がないね」
「嬉しいのですが…その、やっぱり人目があるから恥ずかしいですよ、シリウス様」
「おかしいな。きちんとシリウスって呼べるようにしたはずなのに」
「使用人の前で、まだ妻でもないのに呼び捨てなんてできませんよ。それより、重くないですか?」
恥ずかしそうにまだ、頬を朱に染めたままそう尋ねた彼女に、彼は首を横に振って甘い視線を投げかけた。
「全然。むしろ紙のように軽いよ、小鳥ちゃん」
面白がるように声を弾ませたが、声のトーンも甘く優しいトーンへと変わっていた。面映ゆそうに目を閉じた彼女はシリウスの肩に額を寄せ、手を回して抱き着きながら口元を緩めた。
「じゃあ、ちょっと早いですけど…――シリウス。私のおねだりを聞いてもらってもいいですか?」
「もちろん」
「今の名前で呼んでもらってもいいですか? 二人きりの時は前世の時の名前で呼んでくれても構いませんから、今は…」
「いいよ、――マチルダ」
彼女――マチルダはくすぐったさそうな顔をし、勢い良くシリウスに抱き着き直すと、バランスを崩したシリウスが尻もちをついた。
しかし、二人は顔を見合わせるとクスクスと笑いだした。
「マチルダ、愛しているよ」
「私もです、シリウス」
そんな二人を優しく見守っている使用人たちとは対照的にフォレスはラブラブオーラに当てられてげっそりとしていた。
「リア充…滅しろ」
ボソッと聞こえないように囁いたはずなのだが、シリウスが不気味な笑みを浮かべて振り返る。
「何か言ったかい、フォレス?」
「い、いえ…」
「自分と奥さんが冷えかけているからって滅しろ、はないだろう?」
「そ、そんなことは…」
マチルダはシリウスの頬を包み込むように触れ、優しく彼を振り向かせると額と額をくっつけた。
「シリウス。それだけ私たちが幸せだってわかってもらえているってことですよ。…両陛下がお戻りになったら、一緒に報告に行きましょうね」
「そうだね」
シリウスはフッと微笑むと、マチルダの顎に手を添えて軽く持ち上げると唇を重ねた。
その瞬間、耳まで赤くなったマチルダを再び抱き上げて立ち上がったシリウスは魔法でドアを開けると、邸宅の中に足を踏み入れた。
そして、ドアを閉める前にフォレスを振り返る。
「さて、報告は頼んだよ」
そして、魔法で扉が閉まった後、フォレスは深くため息を漏らした。
「まあ、幸せそうで何よりなのだが、マリアンヌ様に何とお伝えすればいいものか…」
そんなことをぼやいていると、この家の中年の侍女長に肩を叩かれたので振り返った。
「はい、どうぞ」
「どうも」
フォレスはそう言って包みを持ち帰ったが、王宮に戻ってから何気なく包みを開いたものの、その中身は夜食用のお弁当でも、庭で採れた薬草やフルーツでもなく、胃薬だった。
「ダメだ。この地域の魔素と混ざり合って辿れない。元々、分身に魔法を使わせて干渉していたらしいな。そもそもが術式発動状態だから、聖龍反応の挙動がおかしかったわけだけど、巧妙に探知阻害の高等魔導が用いられている。――厄介だ」
シリウスの護衛士フォレスが尋ねた。
「高等魔導ということは、最上級魔法ですか…」
「そうだ」
魔法にもランクがあり、区分として魔法、魔術、魔導の三段階に分けられていた。
中でも魔導は桁外れの魔力使用量であり、また、術を使う際に術式を組み立てるわけだが、その術式も難解で複雑なものとなっていた。
それゆえに使い手も限られてくるのだった。
「…疲れた」
シリウスはそうぼやくと、首を横に振った。
「どの聖龍だろうと俺の女に手を出さなければ、どうでもいい…」
「シリウス様」
「…っと、本音が。でも、実際そうだろう? その聖龍が何をしたのか知らないけど、俺の可愛いスーに手を出したわけじゃないなら、本気を出す必要もない。――まあ、仮に、俺のスーに手を出したなら…そして奪おうとするものなら容赦はしないが」
一瞬で殺意を帯びたシリウスの表情に呆れつつ、フォレスが首を横に振った。
「殿下、婚約者殿を溺愛するのは良いことですが、その、『スー』呼びはやめませんか? 『マチルダ』様というお名前があるではないですか。ミドルネームは確かに略するとスー、となりますが…」
「スーはスーだ。前世の時の嫁に俺が転生の権利を一度与えて、特別に転生させた存在。あっちも納得しているんだから問題ないだろう。むしろ、何が問題なんだ?」
「…いろいろと問題な気がします。というか、聖龍の転生の権利を一人の人間に分け与えるなんて許されるのですか!?」
「どの聖龍も一回はやっていることだ。気に入った伴侶を――まあ、人間の魂は脆いから一回しかさせてあげられないんだが――転生させてもう一度結ばれるようにする。…失敗した奴もいるけど」
「よく、始祖龍がお許しになりましたね?」
「始祖龍はめったなことで怒りはしない」
不機嫌そうな顔をしたシリウスは指を一度打ち鳴らすと、シリウスとフォレスの景色が一瞬で変化し、ウィノンの高級住宅街の屋敷の一つ、その前へと降り立った。
そして、屋敷の敷地内へと足を踏み入れると、庭で使用人と一緒にハーブティーに使うハーブを採集していた蜂蜜色の髪の毛に美しいエメラルドグリーンの瞳の美女が振り返って満面の笑みを浮かべた。
「シリウス様」
「ただいま、スー。…君を見たら全部の疲れが吹き飛んだよ」
「それはよかったです」
にっこりと笑って歩み寄ってきた彼女をギュッと抱きしめたシリウスは、頬を朱に染めながらも抱き返してきた彼女の額にキスを落とし、口元を緩めた。
「君さえいればそれでいい。今度こそは失敗しないって決めているんだ。――どんな手を使っても、な」
「…はい。信じています」
「ふふっ、いい子だ」
シリウスは彼女を抱き上げてお姫様抱っこをすると、「ひゃあ!?」と驚きすぎて素っ頓狂な声を上げた彼女に微笑みかけた。
「相変わらず、耐性がないね」
「嬉しいのですが…その、やっぱり人目があるから恥ずかしいですよ、シリウス様」
「おかしいな。きちんとシリウスって呼べるようにしたはずなのに」
「使用人の前で、まだ妻でもないのに呼び捨てなんてできませんよ。それより、重くないですか?」
恥ずかしそうにまだ、頬を朱に染めたままそう尋ねた彼女に、彼は首を横に振って甘い視線を投げかけた。
「全然。むしろ紙のように軽いよ、小鳥ちゃん」
面白がるように声を弾ませたが、声のトーンも甘く優しいトーンへと変わっていた。面映ゆそうに目を閉じた彼女はシリウスの肩に額を寄せ、手を回して抱き着きながら口元を緩めた。
「じゃあ、ちょっと早いですけど…――シリウス。私のおねだりを聞いてもらってもいいですか?」
「もちろん」
「今の名前で呼んでもらってもいいですか? 二人きりの時は前世の時の名前で呼んでくれても構いませんから、今は…」
「いいよ、――マチルダ」
彼女――マチルダはくすぐったさそうな顔をし、勢い良くシリウスに抱き着き直すと、バランスを崩したシリウスが尻もちをついた。
しかし、二人は顔を見合わせるとクスクスと笑いだした。
「マチルダ、愛しているよ」
「私もです、シリウス」
そんな二人を優しく見守っている使用人たちとは対照的にフォレスはラブラブオーラに当てられてげっそりとしていた。
「リア充…滅しろ」
ボソッと聞こえないように囁いたはずなのだが、シリウスが不気味な笑みを浮かべて振り返る。
「何か言ったかい、フォレス?」
「い、いえ…」
「自分と奥さんが冷えかけているからって滅しろ、はないだろう?」
「そ、そんなことは…」
マチルダはシリウスの頬を包み込むように触れ、優しく彼を振り向かせると額と額をくっつけた。
「シリウス。それだけ私たちが幸せだってわかってもらえているってことですよ。…両陛下がお戻りになったら、一緒に報告に行きましょうね」
「そうだね」
シリウスはフッと微笑むと、マチルダの顎に手を添えて軽く持ち上げると唇を重ねた。
その瞬間、耳まで赤くなったマチルダを再び抱き上げて立ち上がったシリウスは魔法でドアを開けると、邸宅の中に足を踏み入れた。
そして、ドアを閉める前にフォレスを振り返る。
「さて、報告は頼んだよ」
そして、魔法で扉が閉まった後、フォレスは深くため息を漏らした。
「まあ、幸せそうで何よりなのだが、マリアンヌ様に何とお伝えすればいいものか…」
そんなことをぼやいていると、この家の中年の侍女長に肩を叩かれたので振り返った。
「はい、どうぞ」
「どうも」
フォレスはそう言って包みを持ち帰ったが、王宮に戻ってから何気なく包みを開いたものの、その中身は夜食用のお弁当でも、庭で採れた薬草やフルーツでもなく、胃薬だった。
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