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女王の帰還
ep4
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「ルーキス王子殿下、見つけましたわよ」
「うげっ」
ルーキスが青ざめた顔をした。
マリアンヌはハイライトのない瞳で不気味に微笑んでおり、手にはどこから取り出したのかマリアンヌの腕ほどある巨大なハリセンが握られている。
それをパシッパシッと軽く手のひらに打ち付けるように振り下ろし、受け止めるということを繰り返しながら彼女はコテンと小首を傾げた。
「なぁにをしにきたのか・し・るぁ?」
巻き舌になっているが、最後は強調するように言葉を区切った。
「いや、その、駄犬にちょっかいをかけにきただけでして…」
マリアンヌがパシッとハリセンを受け止めたところで手を止めた。
声にドスが混じる。
「あれを駄犬と呼んでいいのは私だけですわ」
ルピルが緊張感のない声ではやし立てる。
「わあ、姐御! ぶちかましたれぇ!」
マリアンヌが両足を踏ん張り、ハリセンを振り上げる。
「レーゲン殿下、手を離す用意はよろしくてよ?」
レーゲンと呼ばれた兄王子は大きく頷く。
「おぅ、任しときぃ」
ルーキスが目を見開いて兄を睨んだ直後、マリアンヌが再びドスの利いた声で告げた。
「歯ぁ、食いしばれよ」
ルーキスがマリアンヌを振り返ったとき、両手で握りしめたハリセンを剣のように構えながら彼女が駆けだした。
レーゲンがぱっと手を離した刹那、マリアンヌが振り上げたハリセンはルーキスの頬を的確にとらえる。
「一打!」
吹き飛んだルーキスの体が宙を舞うが、マリアンヌは止まらない。空中で切り替え、そのまま第二打を放った。
「二打!」
ルーキスが空中停止しているように見えるほど素早い、全方位からのマリアンヌの素早い叩く攻撃が繰り広げられる。
「三打、四打! 絶対に許さないんだから。――兄さまから教わった秘儀パート19、ハリセン乱舞!」
技名をそう叫び終わった直後、フルスイングでルーキスの頭上から最後の一打が繰り出され、彼の後頭部にクリティカルヒットした。
そして、そのまま彼は叩き下ろされ、床にキスする羽目となった。
「ふぼっ」
ルーキスが沈んだ後、マリアンヌが最後のフルスイングの動作からゆっくりとまっすぐに立つ姿勢に戻り、優雅にお辞儀をした。
「お粗末様」
パンパンに腫れあがった頬を見ながらレーゲンがほうっと感心したように感嘆の声を上げる。
「壮観だのぅ」
ヒクヒクと足をヒクつかせながらルーキスはレーゲンを腫れあがった瞼の奥の瞳で見据えた。
「兄貴、よくも売ってくれたな…」
「自業自得、だろう? ワシはそもそも、ちょっかいを掛けに来たお前と違って、通行の挨拶に来ただけだし? まあ、褒められた方法ではないがのぅ」
「兄貴…」
「知っておるか、ルーキス。拷問では、じわじわと治しては再び死ぬ寸前の傷を与えて治してやるそうだ。そしてのぅ、相手の心が死ぬまで幾晩でも続くそうじゃのぅ」
「…なんで、拷問の話?」
「乙女の敵は己の敵よぉ…というお馬さんがそこにおるぞ」
マリアンヌの横に進み出てきたルピルが角先をルーキスの喉元に近づけた。
「姐さん、こいつぁ…どう調理しましょうか?」
唐突に話を振られたアリシアは驚いた顔をしたが、少し考えてから言葉を発した。
「ルピル、死人にそうするのはよくないと思いますよ? どこかのお偉いさんも言っていました。『地面にキスするのは死人くらいだ。その死人に最大限の敬意を払うべし。――ただし、先に果てやがる侮蔑を込めて』だそうですよ!」
アリシアがそう言うと、マリアンヌが呆れ顔をした。
「…それ、意味を分かって使っている?」
「うーん、先に果てるっていうのは死ぬという意味ですよね? でも、死んだ人には敬意を払いなさいっていうのは頷けますよ。侮蔑、なのかわかりませんけど…」
「ちなみに、その人はどうしたの?」
「金の雨を降らせたそうです。それと、鉛玉? を、添えて、赤い花を咲かせたそうです! あの、赤い花ってどこに仕込んであったのでしょうかね?」
アリシアがのほほんとそう言うと、マリアンヌがすかさずギュスターヴを咎めた。
「…ギュスターヴ、黙って拳銃を抜くんじゃないわよ。国際問題になるじゃない」
ギュスターヴが拳銃をホルスターに戻した様子を見ながら、アリシアはキョトンとしていると、ノリアがげっそりとした顔でアリシアを振り返った。
「アリー。鉛玉と金の雨っていうのは、銃弾と薬莢のことだよ。それに、赤い花っていうのは隠語で、死人の赤い血液だよ」
「え…」
困惑した彼女にカンナが尋ねた。
「何の本で読んだの?」
「軍人さんの手記、だった気がします」
「アリー、その迷言は、命を奪いきれなかった敵兵がきちんと死んでいるかどうか確認するために、トドメの掃討射撃を行うって意味だよ。死んでくれてありがとうって侮蔑交じりの敬意を払って――ってこと」
「ええええっ!?」
アリシアがそう叫ぶと、マリアンヌの騎士の一人、ネイラがギュスターヴの銃のグリップに手を掛けた。
「やってしまいましょうか?」
「姫の許可が下りていない」
ルーキスはギョッとして身を強張らせた。
「いやいやいや! 許可が下りたら殺すの!?」
「ブリガンテ族の族長にさえなれないような小国の王子風情が一人殺されたくらいでテレン連邦が動くと思うのか?」
セルヴォがやれやれと首を横に振った。
「煽ってどうするのです、ギュスターヴ。戦争が起きたら責任を取れる立場ではないでしょうに」
「それは…そうだが…」
マリアンヌはため息を漏らした。
その直後、パンパンッと手を叩く音が響き、威厳のある声が響き渡った。
「はいはい、そこまで。一角獣ルピル、悪いのだけど、その角をどけていただける?」
ルピルが珍しく気圧されて素直に従うと、やってきた女性が息を切らせたハインツと、そして一人の老騎士を連れてやってきた。
「母さま…」
マリアンヌが呆けた顔をすると、女王アリューゼはフフッと微笑んだ。
「おいたが過ぎたわねぇ、坊や?」
その声に静かな怒りが含まれており、その場の空気が一瞬にして震えた。
「うげっ」
ルーキスが青ざめた顔をした。
マリアンヌはハイライトのない瞳で不気味に微笑んでおり、手にはどこから取り出したのかマリアンヌの腕ほどある巨大なハリセンが握られている。
それをパシッパシッと軽く手のひらに打ち付けるように振り下ろし、受け止めるということを繰り返しながら彼女はコテンと小首を傾げた。
「なぁにをしにきたのか・し・るぁ?」
巻き舌になっているが、最後は強調するように言葉を区切った。
「いや、その、駄犬にちょっかいをかけにきただけでして…」
マリアンヌがパシッとハリセンを受け止めたところで手を止めた。
声にドスが混じる。
「あれを駄犬と呼んでいいのは私だけですわ」
ルピルが緊張感のない声ではやし立てる。
「わあ、姐御! ぶちかましたれぇ!」
マリアンヌが両足を踏ん張り、ハリセンを振り上げる。
「レーゲン殿下、手を離す用意はよろしくてよ?」
レーゲンと呼ばれた兄王子は大きく頷く。
「おぅ、任しときぃ」
ルーキスが目を見開いて兄を睨んだ直後、マリアンヌが再びドスの利いた声で告げた。
「歯ぁ、食いしばれよ」
ルーキスがマリアンヌを振り返ったとき、両手で握りしめたハリセンを剣のように構えながら彼女が駆けだした。
レーゲンがぱっと手を離した刹那、マリアンヌが振り上げたハリセンはルーキスの頬を的確にとらえる。
「一打!」
吹き飛んだルーキスの体が宙を舞うが、マリアンヌは止まらない。空中で切り替え、そのまま第二打を放った。
「二打!」
ルーキスが空中停止しているように見えるほど素早い、全方位からのマリアンヌの素早い叩く攻撃が繰り広げられる。
「三打、四打! 絶対に許さないんだから。――兄さまから教わった秘儀パート19、ハリセン乱舞!」
技名をそう叫び終わった直後、フルスイングでルーキスの頭上から最後の一打が繰り出され、彼の後頭部にクリティカルヒットした。
そして、そのまま彼は叩き下ろされ、床にキスする羽目となった。
「ふぼっ」
ルーキスが沈んだ後、マリアンヌが最後のフルスイングの動作からゆっくりとまっすぐに立つ姿勢に戻り、優雅にお辞儀をした。
「お粗末様」
パンパンに腫れあがった頬を見ながらレーゲンがほうっと感心したように感嘆の声を上げる。
「壮観だのぅ」
ヒクヒクと足をヒクつかせながらルーキスはレーゲンを腫れあがった瞼の奥の瞳で見据えた。
「兄貴、よくも売ってくれたな…」
「自業自得、だろう? ワシはそもそも、ちょっかいを掛けに来たお前と違って、通行の挨拶に来ただけだし? まあ、褒められた方法ではないがのぅ」
「兄貴…」
「知っておるか、ルーキス。拷問では、じわじわと治しては再び死ぬ寸前の傷を与えて治してやるそうだ。そしてのぅ、相手の心が死ぬまで幾晩でも続くそうじゃのぅ」
「…なんで、拷問の話?」
「乙女の敵は己の敵よぉ…というお馬さんがそこにおるぞ」
マリアンヌの横に進み出てきたルピルが角先をルーキスの喉元に近づけた。
「姐さん、こいつぁ…どう調理しましょうか?」
唐突に話を振られたアリシアは驚いた顔をしたが、少し考えてから言葉を発した。
「ルピル、死人にそうするのはよくないと思いますよ? どこかのお偉いさんも言っていました。『地面にキスするのは死人くらいだ。その死人に最大限の敬意を払うべし。――ただし、先に果てやがる侮蔑を込めて』だそうですよ!」
アリシアがそう言うと、マリアンヌが呆れ顔をした。
「…それ、意味を分かって使っている?」
「うーん、先に果てるっていうのは死ぬという意味ですよね? でも、死んだ人には敬意を払いなさいっていうのは頷けますよ。侮蔑、なのかわかりませんけど…」
「ちなみに、その人はどうしたの?」
「金の雨を降らせたそうです。それと、鉛玉? を、添えて、赤い花を咲かせたそうです! あの、赤い花ってどこに仕込んであったのでしょうかね?」
アリシアがのほほんとそう言うと、マリアンヌがすかさずギュスターヴを咎めた。
「…ギュスターヴ、黙って拳銃を抜くんじゃないわよ。国際問題になるじゃない」
ギュスターヴが拳銃をホルスターに戻した様子を見ながら、アリシアはキョトンとしていると、ノリアがげっそりとした顔でアリシアを振り返った。
「アリー。鉛玉と金の雨っていうのは、銃弾と薬莢のことだよ。それに、赤い花っていうのは隠語で、死人の赤い血液だよ」
「え…」
困惑した彼女にカンナが尋ねた。
「何の本で読んだの?」
「軍人さんの手記、だった気がします」
「アリー、その迷言は、命を奪いきれなかった敵兵がきちんと死んでいるかどうか確認するために、トドメの掃討射撃を行うって意味だよ。死んでくれてありがとうって侮蔑交じりの敬意を払って――ってこと」
「ええええっ!?」
アリシアがそう叫ぶと、マリアンヌの騎士の一人、ネイラがギュスターヴの銃のグリップに手を掛けた。
「やってしまいましょうか?」
「姫の許可が下りていない」
ルーキスはギョッとして身を強張らせた。
「いやいやいや! 許可が下りたら殺すの!?」
「ブリガンテ族の族長にさえなれないような小国の王子風情が一人殺されたくらいでテレン連邦が動くと思うのか?」
セルヴォがやれやれと首を横に振った。
「煽ってどうするのです、ギュスターヴ。戦争が起きたら責任を取れる立場ではないでしょうに」
「それは…そうだが…」
マリアンヌはため息を漏らした。
その直後、パンパンッと手を叩く音が響き、威厳のある声が響き渡った。
「はいはい、そこまで。一角獣ルピル、悪いのだけど、その角をどけていただける?」
ルピルが珍しく気圧されて素直に従うと、やってきた女性が息を切らせたハインツと、そして一人の老騎士を連れてやってきた。
「母さま…」
マリアンヌが呆けた顔をすると、女王アリューゼはフフッと微笑んだ。
「おいたが過ぎたわねぇ、坊や?」
その声に静かな怒りが含まれており、その場の空気が一瞬にして震えた。
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