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姫様の専属侍女
ep2
しおりを挟むアリシアが翌日、日課の清掃を終えて食堂に向かうと、すでに席を確保して待っていたカンナとノリアだけでなく、視線を感じて居心地が悪くて視線を泳がせた。
「アリー、聞いたよ! マリアンヌ様の専属に選ばれたって…!」
ノリアが嬉しそうに声を弾ませ、カンナも優しく微笑んでいた。
「さすがアリーだね。それにしても、女王陛下も大胆。新入りをそのまま登用するだなんて」
アリシアは戸惑いを浮かべながら席についた。
「でも、よくわからないんです」
「アリーは治癒魔法も使えて掃除も完璧だからじゃない?」
そう言いながらノリアが確保してあったうどんをズルズルッと啜った。
「ん~、おいし~い♡」
幸せそうに頬に手を当てて顔を綻ばせるノリアに呆れ顔を向け、カンナはやれやれと首を横に振る。
「真剣な話をしているときにノリアってば…」
そして、アリシアを振り返ったカンナが言った。
「あ、そうだ。アリーの朝食、今日はお薦めのメニューがポットパイになっていたから、ポットパイとバゲットのセットにしちゃったけど、よかった?」
「ありがとうございます! あ、キチンとサラダもついているんですね」
「うん。お揃いだと面白みがないと思ったけど、ホワイトシチューのポットパイとビーフシチューのポットパイが合って、アリーの方はビーフシチューにしてみたんだ」
「いえ、嬉しいですよ。でも、カンナの方も一口食べてみたいです」
「うん、いいよ」
カンナはのんびりとそう言った後、チラリとノリアを見た。
「この食いしん坊さんは相も変わらず分け合えないものを頼んできちゃうし、取り皿も用意しないし、替え玉チケットも用意しているんだよ?」
ノリアがチュルッとその啜っていたうどんを口に収めると、モグモグと咀嚼してゴクンと飲み込んだ。
「食べる…?」
そう尋ねたノリアの葛藤するような顔を見て、二人は顔を見合わせて笑った。
「ね?」
「ですね。――ノリア、そんな顔をしなくても大丈夫ですよ」
ノリアはうどんをもう一口啜る。
「だって、美味しいんだもん」
その言葉にアリシアは優しく微笑んだ。
「ご飯が美味しいのは重要ですよね」
すると、ノリアが大きく頭を振って頷いた。そして、声を大にして言い切る。
「ここの食堂のご飯はとっても美味しい! うちの実家で出てきたご飯よりもずっと、ずーっと美味しい! 王家の使用人用食堂、万歳だよ!」
ただ、声が大きすぎて周囲から無駄に視線を集め、思わず立ち上がってまで宣言していたノリアは耳まで赤くなって、慌てて座って声のトーンを落としながら身を竦めた。
「と、とにかく…美味しいんだもん」
アリシアとカンナはクスクスと笑い、他のテーブルでも笑い声が漏れ聞こえたが、しばらくすると元の喧騒へと戻っていた。
ノリアはそのタイミングを見計らっていたのか、チケットを手にして素早く替え玉を取りに行く。
だが、戻ってきたノリアが泣きそうな顔をしていることに気が付いてアリシアは心配そうな顔をした。
「ノリア、どうしたんです? 替え玉、売り切れていたんですか?」
首を横に振ったノリアはうどんのつゆに浮かぶ麺と、そしてトロトロの半熟に煮えた煮卵を見せた。
「卵、サービスしてもらった…!」
カンナが笑って滲んだ涙を拭った。
「よかったね」
「うん、生きていてよかったレベルで」
ノリアが鼻水を啜ってそう言ったので、堪えきれずにアリシアとカンナが声をあげて笑った。
例によって侍女長に早く食べてしまいなさいと言われるまで、二人は楽しそうに笑い、当の本人は幸せそうに煮卵を見ていたのだった。
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