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第3章 躍進の始まり
77.【盗賊2 後処理】
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「彼らをどうするのですか?」
生きている全ての盗賊達に手枷をはめ終えた後、クリスさんが母さんに聞いた。
「手枷にロープを通して道の近くの木に縛り付けておきます。巡回している治安部隊が見つけてくれるでしょう」
「……仲間が助けに来たりしないのでしょうか」
「まず来ませんし、来ても何もできません。この手枷は専用の鍵がないと外せない特別なものです。鍵は後で治安部隊に届けてしまうので、彼らが自力で手枷を外すには、手首を切り落とすしかありません」
恐ろしいことをさらりと言う。
「手首を切り落とされた者は、助かったとしてもただのごく潰しになります。ごく潰しになると分かっていて、わざわざ助けに来るほど、盗賊達に余裕はありません。そもそも、手首を切り落とすのも大変ですしね」
「なるほど……納得しました。ありがとうございます」
「いえいえ、分からないことはどんどん聞いて下さい。義娘になるんですもの。遠慮は無用ですよ」
「! ……あ、ありがとうございます」
母さんからの突然の不意打ちにクリスさんは顔を赤めている。
「逆に口封じに来たりしないのかな?」
今度はユリが母さんに聞いた。
「その可能性はあるわね」
「え……いいの?」
「もちろんよ。それ以外にも猛獣に襲われたり、他の盗賊に襲われる可能性は十分にあるわ。でもそれは私達の知った事ではないわね」
ユリは絶句している。俺も思わず、母さんを見た。そんな俺達を見返して母さんは言う。
「クリス様は分かっているようね。いい? アレン、ユリちゃん、それにバミューダ君も。はっきり言うわ。もし、あなた達が盗賊を捕えた後、専用の拘束具が無い時は、迷わず殺しなさい」
「「「!!」」」
予想外の言葉に驚いてしまう。特に母さんから『殺すな』と言われていたバミューダ君は混乱しているようだ。
「え……でも――」
「――生きて捕まえた方が治安部隊の助けになるのは確かよ。だから、今回のようにちゃんと拘束出来るなら拘束して放置したり、治安部隊が近くにいれば、連れて行ってもいいわ。でもそうでないなら必ず殺しなさい」
「そ、そんな――」
「――でないと、寝首を搔かれるわよ」
母さんが厳しい言葉で戒める。
「盗賊行為は重罪よ。捕まれば極刑もあり得るわ。いえ、死んだ方がましな環境で働かされるかもしれないわね。そうならないように盗賊達はどんなことをしてでも逃げようとするわ」
失うものがない犯罪者は怖い。前世でも聞いた言葉だ。
「いい? 盗賊に情けは無用よ。情けをかけたら自分か、仲間か、もしくは見知らぬ誰かが犠牲になる。それを忘れないようにね」
「……分かった」
そうなった時、ちゃんと殺せる自信は無い。前世の価値観があるせいか、『犯罪者にも人権がある』とか考えてしまう。だが、それは甘い考えなのだろう。
俺は盗賊達の手枷を鉄製のロープでつなぎ、さらにそのロープを道の近くの丈夫な木に結んだ。絶対にほどけないよう、結び目を何度も確認する。
「ロープ、結んだよ。結び目も大丈夫」
「ありがとう。それじゃ、最後の仕上げね」
母さんは盗賊達を見て言う。
「武器を隠し持っている者は今すぐに出しなさい。偽れば殺します」
「……ちっ!」
盗賊達はそれぞれ隠し持っている武器を取り出していく。
「これで全部ですか?」
「ああ、そうだよ。文句あっか!?」
「……そうですか」
次の瞬間、母さんの姿がぶれたかと思ったら、盗賊達の内、3人の首が胴体からずり落ちる。
「な! 何しやがる!?」
「……静かにした方が良いですよ? ただでさえ血の匂いで猛獣が寄ってきやすくなっているんですから」
「う………………ちっ、くそが……」
騒ぐと命の危険があることを理解したのか、盗賊は押し黙った。
「――結構。アレン、彼らはそれぞれ靴の中、上着のポケット、ベルトの内側にナイフを隠し持ってます。回収しておきなさい」
母さんの指示を受けて、死体を確認する。
(死体を漁るなんて、前世の俺には絶対に出来なかっただろうな……おっと)
母さんの指摘通り、死体はナイフを隠し持っていた。
盗賊達の武器を全て回収し、マリーナさん達の馬車に収納する。荷馬車に乗せようとしたら、『商品と同じところに武器を置くわけにはいかない』とのことなので、馬車に収納した。
「忘れ物はないわね? それじゃ出発!」
母さんの掛け声で、俺達は再び出発する。馬車の中で、俺はクリスさんに話しかけた。
「盗賊達の捕まえた後の事、クリスさんはご存じだったんですね」
「ええ。ブリスタ領でも盗賊行為にはさんざん悩まされましたから……軽蔑しましたか?」
盗賊達の命を軽く扱ったことを俺が嫌悪すると思ったのか、クリスさんは恐る恐る聞いてくる。
「いえ、むしろ尊敬します。どう考えてもクリスさんや母さんの考えが正しい。自分の考えがいかに甘かったか、痛感している所です……」
「アレンさん……」
「色々足りない俺ですが、これからもよろしくお願いしますね」
「!! ……ふふ。はい、こちらこそ、よろしくお願いします」
盗賊を捕えた後からクリスさんの様子がおかしかった。おそらく、俺達と価値観が違うことを気にしていたのだろう。
自分の領で盗賊の問題に悩まされてきたクリスさんと、盗賊に会うのは今日が初めての俺達では、価値観が異なるのは仕方ない。だが、今、正しいのはクリスさんや母さんの考えだ。自分の価値観にそぐわなくても、それは見誤ってはいけない。
だから俺は、クリスさんの考えが正しいのだとはっきりと伝えた。少し強引だったと思うが、元気が出たようで何よりだ。
その後、2度にわたって盗賊に襲撃されたが、母さんとバミューダ君が問題なく対処してくれる。2度目の襲撃の際には矢だけでなく、火の玉も飛んだ来たが、母さんが難なく切り裂いたので、被害はなかった。
(あの火の玉って攻撃魔法だよな!? それを切り裂くって……)
火を斬れるという事実に驚いたが、母さんならそれくらいできてもおかしくないと思えてしまう。
そうして、町を出発した翌日の夕方に、俺達はブリスタ領に到着した。
生きている全ての盗賊達に手枷をはめ終えた後、クリスさんが母さんに聞いた。
「手枷にロープを通して道の近くの木に縛り付けておきます。巡回している治安部隊が見つけてくれるでしょう」
「……仲間が助けに来たりしないのでしょうか」
「まず来ませんし、来ても何もできません。この手枷は専用の鍵がないと外せない特別なものです。鍵は後で治安部隊に届けてしまうので、彼らが自力で手枷を外すには、手首を切り落とすしかありません」
恐ろしいことをさらりと言う。
「手首を切り落とされた者は、助かったとしてもただのごく潰しになります。ごく潰しになると分かっていて、わざわざ助けに来るほど、盗賊達に余裕はありません。そもそも、手首を切り落とすのも大変ですしね」
「なるほど……納得しました。ありがとうございます」
「いえいえ、分からないことはどんどん聞いて下さい。義娘になるんですもの。遠慮は無用ですよ」
「! ……あ、ありがとうございます」
母さんからの突然の不意打ちにクリスさんは顔を赤めている。
「逆に口封じに来たりしないのかな?」
今度はユリが母さんに聞いた。
「その可能性はあるわね」
「え……いいの?」
「もちろんよ。それ以外にも猛獣に襲われたり、他の盗賊に襲われる可能性は十分にあるわ。でもそれは私達の知った事ではないわね」
ユリは絶句している。俺も思わず、母さんを見た。そんな俺達を見返して母さんは言う。
「クリス様は分かっているようね。いい? アレン、ユリちゃん、それにバミューダ君も。はっきり言うわ。もし、あなた達が盗賊を捕えた後、専用の拘束具が無い時は、迷わず殺しなさい」
「「「!!」」」
予想外の言葉に驚いてしまう。特に母さんから『殺すな』と言われていたバミューダ君は混乱しているようだ。
「え……でも――」
「――生きて捕まえた方が治安部隊の助けになるのは確かよ。だから、今回のようにちゃんと拘束出来るなら拘束して放置したり、治安部隊が近くにいれば、連れて行ってもいいわ。でもそうでないなら必ず殺しなさい」
「そ、そんな――」
「――でないと、寝首を搔かれるわよ」
母さんが厳しい言葉で戒める。
「盗賊行為は重罪よ。捕まれば極刑もあり得るわ。いえ、死んだ方がましな環境で働かされるかもしれないわね。そうならないように盗賊達はどんなことをしてでも逃げようとするわ」
失うものがない犯罪者は怖い。前世でも聞いた言葉だ。
「いい? 盗賊に情けは無用よ。情けをかけたら自分か、仲間か、もしくは見知らぬ誰かが犠牲になる。それを忘れないようにね」
「……分かった」
そうなった時、ちゃんと殺せる自信は無い。前世の価値観があるせいか、『犯罪者にも人権がある』とか考えてしまう。だが、それは甘い考えなのだろう。
俺は盗賊達の手枷を鉄製のロープでつなぎ、さらにそのロープを道の近くの丈夫な木に結んだ。絶対にほどけないよう、結び目を何度も確認する。
「ロープ、結んだよ。結び目も大丈夫」
「ありがとう。それじゃ、最後の仕上げね」
母さんは盗賊達を見て言う。
「武器を隠し持っている者は今すぐに出しなさい。偽れば殺します」
「……ちっ!」
盗賊達はそれぞれ隠し持っている武器を取り出していく。
「これで全部ですか?」
「ああ、そうだよ。文句あっか!?」
「……そうですか」
次の瞬間、母さんの姿がぶれたかと思ったら、盗賊達の内、3人の首が胴体からずり落ちる。
「な! 何しやがる!?」
「……静かにした方が良いですよ? ただでさえ血の匂いで猛獣が寄ってきやすくなっているんですから」
「う………………ちっ、くそが……」
騒ぐと命の危険があることを理解したのか、盗賊は押し黙った。
「――結構。アレン、彼らはそれぞれ靴の中、上着のポケット、ベルトの内側にナイフを隠し持ってます。回収しておきなさい」
母さんの指示を受けて、死体を確認する。
(死体を漁るなんて、前世の俺には絶対に出来なかっただろうな……おっと)
母さんの指摘通り、死体はナイフを隠し持っていた。
盗賊達の武器を全て回収し、マリーナさん達の馬車に収納する。荷馬車に乗せようとしたら、『商品と同じところに武器を置くわけにはいかない』とのことなので、馬車に収納した。
「忘れ物はないわね? それじゃ出発!」
母さんの掛け声で、俺達は再び出発する。馬車の中で、俺はクリスさんに話しかけた。
「盗賊達の捕まえた後の事、クリスさんはご存じだったんですね」
「ええ。ブリスタ領でも盗賊行為にはさんざん悩まされましたから……軽蔑しましたか?」
盗賊達の命を軽く扱ったことを俺が嫌悪すると思ったのか、クリスさんは恐る恐る聞いてくる。
「いえ、むしろ尊敬します。どう考えてもクリスさんや母さんの考えが正しい。自分の考えがいかに甘かったか、痛感している所です……」
「アレンさん……」
「色々足りない俺ですが、これからもよろしくお願いしますね」
「!! ……ふふ。はい、こちらこそ、よろしくお願いします」
盗賊を捕えた後からクリスさんの様子がおかしかった。おそらく、俺達と価値観が違うことを気にしていたのだろう。
自分の領で盗賊の問題に悩まされてきたクリスさんと、盗賊に会うのは今日が初めての俺達では、価値観が異なるのは仕方ない。だが、今、正しいのはクリスさんや母さんの考えだ。自分の価値観にそぐわなくても、それは見誤ってはいけない。
だから俺は、クリスさんの考えが正しいのだとはっきりと伝えた。少し強引だったと思うが、元気が出たようで何よりだ。
その後、2度にわたって盗賊に襲撃されたが、母さんとバミューダ君が問題なく対処してくれる。2度目の襲撃の際には矢だけでなく、火の玉も飛んだ来たが、母さんが難なく切り裂いたので、被害はなかった。
(あの火の玉って攻撃魔法だよな!? それを切り裂くって……)
火を斬れるという事実に驚いたが、母さんならそれくらいできてもおかしくないと思えてしまう。
そうして、町を出発した翌日の夕方に、俺達はブリスタ領に到着した。
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