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第3章 躍進の始まり

76.【盗賊1 襲撃】

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 俺達が用意した馬車1台と、ミケーラさんが用意してくれた馬車と荷馬車が1台ずつ、合わせて3台の馬車でブリスタ領を目指す。

「さて、バミューダ君。見張りは私達でやるわよ。まずは私がお手本を見せるわね」
「はい! ……です!」

 母さんがバミューダ君に見張りのやり方について教えている。

「見張りをするときに大事なのは、眼に頼らないこと。敵を眼だけで探すと、だんだん疲れてしまって、いずれ必ず敵を見落とすわ。だからこうするの」

 母さんは御者をしている父さんの隣に腰かけると、遠くを見つめた。

(何してるんだろう?)

 俺から見るとただ、遠くを見つめているようにしか見えないが、バミューダ君は違ったらしい。

「す、すごい……です」
「バミューダ君。母さんが何してるか分かるの?」
「は、はい……です。お母さん、自然と一体化してる……です」

(自然と一体化?)

「よくわかったわね。こうすれば、疲れないし、敵を見逃すこともないわ。やってみなさい」
「はい! ……です!」

 バミューダ君が母さんの隣に座って遠くを見つめだした。

「上手よ。でも、まだ眼に頼ってるわね。心を穏やかにして、生き物達の音や空気の流れを肌で感じなさい」
「はい……です」

 俺から見ると、母さんもバミューダ君もただ、ぼぉーっと遠くを見ているだけなのだが、どうやらこれで見張りができているらしい。それが分かったのは、町を出て半日ほどたった時だった。



「お母さん!」

 そろそろ昼休憩というタイミングで、バミューダ君が叫んだ。

「ええ。よく気付いたわね。言った通り、馬車は私が守るから、バミューダ君は盗賊を捕まえてみなさい。繰り返すけど、深追いはせず、危ないと思ったらすぐに逃げること。いいわね?」
「はい! ……です!」

 次の瞬間、バミューダ君は走っている馬車から飛び降りて、近くの茂みの中に消えていった。

「…………バミューダ君、走ってる馬車から普通に飛び降りたね」

 ユリのつぶやきに俺はうなずくことしかできない。

義弟バミューダ君がどんどん人間離れしていくな……)

 俺達が唖然としている間に、母さんがマリーナさん達にハンドサインを送り、俺達には口頭で注意を促した。

「いい? ここから先400mくらいの所に盗賊が15人潜んでいるわ。あと、5分ほどで、敵の射程に入る。その前にバミューダ君が交戦に入るけど、敵の半分くらいはこちらに攻撃してくる可能性が高いわ。攻撃は必ず・・私が防ぐから、絶対に馬車の外に出ないこと! いいわね?」
「わ、分かった」

 いつになく真面目な母さんの表情に、これが実戦であることを実感する。

(もうすぐ、戦いが……命のやり取りが始まるんだ)

 身体がこわばるのを感じる。だが、クリスさんやユリの前で怖気づくわけにはいかない。俺は2人の前に立ち、父さんの後ろから前方を見つめた。

「来たわね」

 母さんがそう呟いた次の瞬間、俺達の馬車に向けて複数の矢が放たれる。

 どこから放たれたのか、俺にはわからない。だが、このままだと馬車が射抜かれる事だけは分かった。

「シッ!!」

 鋭い掛け声とともに母さんが腰の件を抜く。抜いた動作で俺の目の・・・・前に迫ってい・・・・・・矢を1本、そのまま、流れるような動作で、俺や父さんに降り注ぐはずだった矢を切り伏せて行く。

「アレンさん! 大丈夫ですか!?」

 クリスさんに声をかけられて、ようやく俺は自分に矢が迫っていた事、母さんが切り伏せてくれなかったら矢が刺さっていた事を自覚する。

「だ、大丈夫……大丈夫です」

 心臓が早鐘を打つ。思わず、座り込んでしまいそうになるが、必死に足を踏ん張った。そうしている間にも矢は降り注いでいるが、全て母さんが切り伏せてくれる。

(ちゃんと見るんだ! 今は何もできないけど……それでもちゃんと見るんだ!)

 見ることにどんな意味があるのかは、分からない。それでも見なければならない。なぜか俺はそう確信していた。



 どれくらいの時間が経ったのだろうか……。10分以上たった気もする。だが、実際には20秒ほどのはずだ。矢が飛んでこなくなった。

「終わったようね」

 矢が飛んでこなくなった後も警戒していた母さんが、刀を納める。

「馬車を止めて。バミューダ君を迎えに行きましょう」
「了解!」

 父さんが馬の手綱を操作すると、だんだん馬車の速度が落ちていく。

「アレン、ユリちゃん、それにクリス様も一緒に来てもらえるかしら?」

 クリスさんも一緒に、という事に疑問を覚えたが、クリスさんが承諾していたので俺が何かいう事もないだろう。馬車が完全に止まったので、母さんに続いて馬車を降りる。

「お母さん! やりました! ……です!」

 茂みの奥からバミューダ君の声がした。

「分かったわ。すぐ行くからもう少し待っててね」
「はい! ……です!」

 母さんが馬車の荷台から荷物を取り出してからバミューダ君のもとに向かう。

 茂みの奥には、満面の笑みを浮かべたバミューダ君と、地面に転がっている盗賊達の姿があった。

「盗賊、15人。全員生きているわね。上出来よ、バミューダ君」
「ありがとう! ……です!」
「さて、アレン。盗賊達を拘束するわよ。まずは手枷をはめましょう。抵抗してくるやつがいるかもしれないから私と一緒にね」

 母さんは荷物の中から鉄製の手枷を取り出して俺に手渡す。俺は受け取った手枷を盗賊達にはめていった。

「いてぇ……いてぇよぉ……」
「うぅ………畜生……化け物め……」

 よく見ると、盗賊達は足が折れているようだ。バミューダ君の強さと足の痛みによって心も折れているようで、抵抗なく手枷をはめられていく。……そう思って油断していた。

「畜生が!!」

 盗賊の一人が俺に向かってナイフで切りかかってきた。盗賊に手枷をはめとしていた俺はとっさに後ろに下がる。情けなくも尻もちをついてしまったが、何とかナイフを避けることができた。

「このっ! ………………え?」

 なおも盗賊は俺に切りかかろうとしたが、途中で自分の身体の異変に気付いたようだ。右腕が無かったのだ。

「ぎゃぁぁあああーーー!!!」

 盗賊の足元には切り捨てられた右腕が転がっている。盗賊自身も痛みに耐えかねて地面を転がった。

「痛い! 痛い!! 痛い!!!」
「うるさいわよ」

 母さんが冷たく言い放った後、盗賊の首を一突きした。盗賊はしばらく痙攣していたが、すぐに大人しくなる。盗賊から刀を引き抜いた母さんが俺を見て言った。

「よく避けれたわね。偉いわ」
「……母さんのトレーニングのおかげだよ」

 昔の俺だったら、命の危機に固まってしまって、ナイフを避けることはできなかっただろう。母さんとのトレーニングをへて、命の危機に瀕してもちゃんと動けるようになったおかげで避けることができたのだ。

「一応控えていたけど不要だったわね。それじゃ、残りの手枷をつけちゃいましょ」

 母さんもどことなく嬉しそうだ。

(少しは成長しているのかな……。ユリやバミューダ君だけじゃない。俺だって!)

 意外な形で母さんとのトレーニングの成果を実感することになったが、自分の成長を感じながら、俺は盗賊達に手枷をはめていった。
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