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第3章 躍進の始まり

89.【サーシスの傷跡6 癒し系、バミューダ君】

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 少しすると、被害者の家に着いた。今日は、ユリとバミューダ君がメインで訪問するため、俺とクリスは父さん達と一緒に離れた場所で見守ることにする。

「シャールちゃーん! 遊びにきたでー!」

 昨日と同じく、ミッシェルさんが明るく声をかけると、扉が開いて女の子が両親と一緒に出てきた。

「あ、ミッシェル様! 来てくれたの?」
「そや、来たでー。今日は新しいおもちゃとお友達を連れて来たんや。仲良うしたってや」

 ユリとバミューダ君がケイミ―ちゃんの前に進み出た。

「こんにちは! 私、ユリ! よろしくね」
「こんにちは、バミューダ……です。よろしく……です」

 シャールちゃんはユリとバミューダ君を交互に見る。

「わぁ。こんにちは。私シャール! こちらこそ、よろしく!」

 シャールちゃんは満面の笑みを浮かべていた。これなら問題ないだろう。そう思った矢先の事だった。

「色々新しいおもちゃを持ってきたんだ! ほら、これとか面白いよ! 一緒に――」
「――いやぁ!!!」

 シャールちゃんが絶叫する。ユリは、シャールちゃんを遊びに誘うため、手を差し伸べただけなのだが、どうやらそれが怖かったようだ。

「やだ!! やだやだやだ! パパとママと一緒にいるの!」
「シャール! 大丈夫だ。私達はここにいるよ」
「そうよ。もう2度とあなたを一人にしないわ」
「やだ! やだやだやだー!」

 シャールちゃんは、ユリにどこかに連れていかれると思い、パニックになってしまったようだ。ご両親が話しかけても嫌がるばかりで話ができない。

 突然の事に、ユリは茫然としてしまっている。だが、俺達がフォローしに行っても、シャールちゃんがますますパニックになってしまうかもしれない。

 どうすることもできず、立ち尽くしていると、パーン! という音が響き渡った。バミューダ君が両手を叩いたのだ。

 突然の事に驚いて、皆、バミューダ君を見る。

「独楽、綺麗……です」
「……こま?」

 バミューダ君がシャールちゃんの足元を指差すと、そこには独楽が回っていた

「凄い……回ってて倒れない」
「こうやって糸をまいて投げると回る……です。一緒にやろ……です」
「……うん!」

 バミューダ君が勧めた独楽を受け取ってシャールちゃんも独楽を投げてみるがうまく回らず倒れてしまう。

「……うまく回んない」
「投げるときに独楽のここをもって引っ張りながら投げる……です。肘を使うと投げやすい……です」
「こう? あ、回った! 回ったよ!」
「うん、上手……です」

 シャールちゃんは嬉しそうにはしゃいでいる。先ほどまでパニックになっていたのが、嘘のようだ。

 その後も、シャールちゃん達は羽子板や蹴鞠を楽しんでいたが、時間になってしまったので、ミッシェルさんが声をかける。

「ユリちゃん、バミューダ君、そろそろ時間や」
「はーい」
「分かった……です」
「バミューダ君、行っちゃうの?」

 シャールちゃんが悲しそうな眼でバミューダ君を見つめた。

「もっと遊びたいな……」
「ごめんなさい……です。また来るから……です」
「……絶対だよ? 絶対来てね?」
「約束する……です」
「……分かった。またね」
「またね……です」

 シャールちゃんはとても名残惜しそうにしているが、ちゃんと別れの挨拶をできたようだ。シャールちゃんとお別れして、少し離れたところまできたバミューダ君達と合流する。

「ユリもバミューダ君もお疲れ様。何とか1件目終了だね」
「……バミューダ君のおかげでね。私一人じゃ何もできなかったよ」

 合流したユリはひどく落ち込んでいた。シャールちゃんの前では隠していたが、シャールちゃんがパニックになってしまった時、何もできなかったことを悔やんでいるようだ。

「あれは仕方ないよ……昨日、俺も何もできなかったもん。バミューダ君は良く対応できたね」
「パニックになっている子は、何かで気を引いてから全然関係ない事を話すのが良いって教わった……です」
「そうなんだ……よし、次は私も頑張る!」

 ユリがやる気を見せている横でクリスが心配そうな顔をしている。

「クリス、何か心配事?」
「あ、はい……その、バミューダ君……大丈夫でしょうか?」
「? 大丈夫って……何が?」
「シャールちゃんのバミューダ君を見る目が……その、『恋する乙女』だったような気がして……」
「……」

 確かにシャールちゃんはお別れの時、バミューダ君をじっと見ていた。名残惜しだけかと思ったが、恋した乙女の顔と言われれば、そうなのかもしれない。

「バミューダ君にその気はないみたいなので、ミーナ様への裏切りというわけではないんですが、後々大変そうだな、と……」
「……大事にないことを祈るよ」



 その後も、被害にあった子供達の家を訪問していったのだが、別れ際になるとほとんどの子がバミューダ君に熱い視線を向けているように見えた。ひどい目に会った彼女達からすると、癒し系のバミューダ君は理想の相手なのかもしれない。

「バミューダ君、彼女達の視線に全く気付いてませんね」
「もともと自信のある子じゃないからね。女の子から慕われてるなんて想像もしてないんじゃないかな」
「まずいですよね……」
「……まずいね」
「どうします?」
「…………どうしよう」

 被害者達のフォローという意味では、皆、明るくなっていたので、大成功と言えるだろう。

 ただし、バミューダ君に婚約者がいると知った時、どのような反応をするか想像がつかない。

(闇落ちしなければいいけれど……)

 心配する俺達の横で母さんが誇らしげにバミューダ君を見つめていた。

「流石、バミューダ君ね。さっそくトレーニングの結果が出たようだわ」
「母さん!? バミューダ君になにしたの!?」
「何って、普通のトレーニングよ。アレンがやったの物の強化版」
「それでなんであんなことになるのさ?」
「バミューダ君がもともと持っていた魅力が皆に伝わったって事よ。そのうち分かるわ」

 よく理解できなかったが、母さんはそれ以上話す気はないようだ。

 一抹の不安はあったが、何とか残りの被害者達の家を訪問して、俺達は別荘に戻った。
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