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第4章 王都にて

98.【王都1 王都到着】

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「それじゃ、私達は行きますね。長い間お世話になりました」
「こちらこそ、あんさんらのおかげで、助かったわ。ほんま、おおきに」

 ミッシェルさん達に別れを告げ、俺達は王都に向かう。一緒にいるのは、クランフォード家の皆と、クリス、シャル様、それにターニャさんだ。その他にも王家専属の護衛が潜んでいるらしいが、俺には分からない。

「流石、王家の護衛ともなると隠密性も大したものね。どう? バミューダ君。どこに護衛がいるか分かる?」
「……あそことあそこに二人ずついる……です。後4人いるのは分かる……です。でも場所は分からない……です」
「そうなのですか? ターニャ?」

 母さんとバミューダ君の会話にイリス様が反応した。

「申し訳ありません。護衛の情報を明かすわけには――」
「――正解よ。残りの4人は前後に2人ずつ分かれているわ」
「うぅ……あ! 本当だ! ……です。2人ずついた! ……です!」

 ターニャさんは黙秘しようとしたが、母さんが答えてしまった。

「ターニャ?」
「………………ノーコメントです」

 たとえバレていても、自分から明かすことはできないのだろう。ターニャさんは黙秘を続けている。

「それにしても流石ですね、イリス様。私の護衛を見つけるなんて! 私が彼らを撒こうとしても、気付いたら側にいますのに……」
「シャル様……いつも申しておりますが、護衛を撒こうとしないでください」
「それはできない相談だわ」
「…………はぁ。あまり彼らの手を煩わせないでください」 

(護衛が隠密してどうすんだと思ったけどそういうことか……)

 護衛には、襲撃者への牽制の意味を込めて目立つ見た目をしている事が多い。『護衛がいるから、襲ってくるなよ』と襲撃者にアピールしているのだ。

 そんな護衛が隠密性を高めているのは、シャル様が逃げ出そうとするのを防ぐためだろう。本来目立つべき彼らが、目立たないよう努力して隠密性を身に着けたのだ。彼らの苦労が偲ばれる。



 そんなことがありながらも、王都までの道中は比較的穏やかに進んだ。本来、王都に近づくにつれて、治安は良くなるのだ。護衛の数も増えているし、ある意味当然かもしれない。

「見えてきました! 王都です!」

 シャル様の声につられて前方を見ると、視界の端から端まで続いている白い壁が見えた。おそらく城壁だろう。あまりの大きさに言葉を失ってしまう。

 城壁に近づくにつれて、城壁の入り口まで続く人の列が見えてきた。王都に入るための列のようだ。

「凄い人……」
「くらくらする……です」

 俺達の町では考えられない人の量にユリもバミューダ君も目を回している。前世の記憶が無ければ、俺もヤバかったかもしれない。

「王都ですからね。この国で最も人が行き来している場所です。あ、私達は貴族用の入口から入るので、あちらですよ」

 そう言われて俺達は並んでいる人たちを尻目に貴族用の入口を目指した。何も問題ないはずだが、なぜかいけない事をしている気分になってくる。

(なんか……ちゃんと並んでいる人に申し訳ないな)

 これから王子に謁見する者が何を言っているという感じだが、小市民な俺には特別待遇というのはむず痒いものがあるのだ。

「失礼します。身分証もしくは招待状をご提示ください」

 いつの間にか貴族用の入口に着いたようだ。衛兵が声をかけてくる。

「こちらを」
「失礼します…………っ!」

 御者さんが何かを衛兵に見せた。確認した衛兵があからさまにうろたえている。

「し、失礼いたしました! どうぞ、お通り下さい!」
「ありがとうございます」

 貴族の相手をしなれているはずの仲間の様子に、周囲の衛兵に緊張が走った。一部の衛兵が走り去っていく。

「王宮に先触れを出してくれたようですね。このまま王宮に向かいましょう」
「かしこまりました」

 シャル様の指示に従って御者さんが馬車を走らせた。謁見の時間が迫っていることを感じ、緊張で手が震えてくる。

 そんな俺の様子に気付いたクリスが、俺の手を優しく握ってくれた。

「大丈夫ですよ。モーリス王子はお忙しい方です。先触れが届いたからと言って、今日の今日、謁見するようなことにはなりません。少なくとも明後日以降の謁見になるでしょう」

 手から伝わるクリスのぬくもりと言葉で落ち着きを取り戻す。

「そう……だね。……うん、ありがとう」
「……アレン。よろしければ、わたくしが王都を案内しますのでデートしませんか?」
「……え?」
「デートです。以前はアレンが素敵なエスコートをしてくださいました。ですので今度はわたくしがエスコートしたいのです」

 子爵令嬢が男性をエスコートするなんてありえない。少なくともクリスにそんな経験はないはずだ。そんなクリスが俺のためにエスコートを申し出てくれた。その事実に心が満たされるのを感じる。

「クリス……ありがとう」
「いえいえ。楽しみにしていてくださいね」
「ああ!」

 そんな俺達のやり取りを見つめる視線があった。

「なんでしょう。私も婚約者が欲しくなりました」
「シャル様、お気持ちは分かりますが、王族にとって結婚は政略です。夢を見ますと、後が辛いですよ。……お気持ちは分かりますが」
「ターニャさん、2度言いましたね。まぁ私も気持ちは分かりますけど! お兄ちゃんばっかり……でも邪魔するわけにはいかないし……」
「ミーナ様に会いたい……です」
「バミューダ君まで! くぅ……」
「……ユリ様。よろしければ、私が王都をご案内しましょうか?」
「いいんですか!?」
「ええ。私も王都を散策したい気分なので」
「ありがとうございます!」
「シャル様……はぁ。護衛の皆さん申し訳ありません。明日も仕事になりそうです……」

 ターニャさんが深いため息をつく。若干の責任を感じなくもないが、護衛の方には頑張って頂こう。

 なお、この時の事がきっかけで、ユリの絵が全国的に広まるのだが、それはまたまだ大分先の話。
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