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第4章 王都にて

100.【王都3 サウナ】

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 シャル様と散策を開始した……が、シャル様は本当に散策がしたかっただけのようだ。何件かの古びたお店を外から眺めただけで宿に戻った。

「あまりアレン様を連れまわすとクリス様に申し訳ないじゃないですか。初めての王都はクリス様とお楽しみくださいな」

 とのことだ。



 宿に戻ると、ちょうど晩御飯の時間だった。クリスとユリが部屋から出てきたので、俺はニマニマしているユリを問い詰める。

「変な事話してないだろうな?」
「変な事話してないよ。ねぇ、クリス様?」
「ええ。素敵なお話しか聞いていませんよ」

 クリスもニコニコしているので、何かを話していたのは確実なのだが、詳細を聞くのが怖い。

「晩御飯食べたら続きを話そうね!」
「ええ。楽しみです」

(クリスにばれて困るような話は無い。だから大丈夫! ……なはず)

 俺は自分に言い聞かせる。

「2人とも何の話をしているの?」

 そこへ父さんと母さんも合流した。

「クリス様にお兄ちゃんの話をしてたの!」
「色々素敵なお話を聞けました」

 それを聞いた母さんの眼が輝く。

「まぁ、良いわね! 私も話したいわ。……そうだ! 晩御飯食べたら一緒に大浴場に行きましょう! そこなら色々お話しできるわ」
「ちょ!?」
「わー! 楽しそう!」
「いいですね。お風呂もイリス様のお話も楽しみです」

 女性陣が盛り上がってしまう。

「待って待って! 母さん、何話す気!?」
「あら、アレン。気になるの? なら、一緒に入る?」
「入るわけないでしょ!?」
「ふふふ、冗談よ。大丈夫、変なこと話さないから」
「で、でも……」
「アレン、諦めろ。こうなった母さん……いや、女性陣を止めるのは無理だ」
「父さんまで……うぅ……」

 女性陣の盛り上がりは収まる事を知らない。バミューダ君も出てきたので、食堂に移動したのだが、すでに俺の話を続けている。

「そうなのよ。アレンは幼いころから大人びてて頭も良かったわ」
「計算とか読み書きとかお兄ちゃんに教わったけどよく考えたら、凄い事だよね。7歳の子が勉強を教えるって……」
「貴族でも7歳で計算まで出来る子は少ないです。ましてや、他人に教えることが出来る子などほとんどいないでしょう」
「そうなの! わがままも言わないし、仕事も手伝ってくれるし、面倒見もいいし。本当にいい子だったわ」
「私やマナちゃんの面倒見てくれたよね。色々わがまま言ったけど、見放さずちゃんと面倒見てくれたんだ!」
「面倒見が良いのも昔からなんですね! わたくしのわがままも叶えてくれました」

(恥ずかしい! 恥ずかしすぎる!)

 決して悪口ではないのだが、聞いているのが辛い。 

「母さん! ほら! 母さんの好きな肉料理が来たぞ! 旨そうだな!」
「あら、ありがとう。……それでね! 近所の方からも――」

 父さんが料理を見せて話を逸らそうとしてくれたが、すぐに元の話に戻ってしまう。

「うぅ……」
「アレン……まぁ……うん……」
「お兄ちゃん大丈夫? ……です?」 

 羞恥に悶える俺をバミューダ君が心配してくれる。

「大丈夫……だけど大丈夫じゃない……恥ずかしい……」
「でも皆、お兄ちゃんの事褒めてる……です」
「それが恥ずかしいんだよぉ……」
「? よくわからないけど皆楽しそう……です」
「まぁ、好きな相手の事を話すのは楽しいもんさ」

 父さんが答えた。

「自分が話すのも相手の話を聞くのも楽しい。そりゃ盛り上がるよな」
「みんなお兄ちゃんのことが好き! ……です!」
「そういう事だ。だからアレンは嬉しいけどそれ以上に恥ずかしいのさ」
「なるほど……です」

 納得したバミューダ君が俺の頭を撫でてくれる。

「僕もお兄ちゃん好き……です」
「バミューダ君……ありがとう。俺もバミューダ君の事、好きだよ」
「当然俺もな」
「あはは。父さんもありがとう」

 女性陣は相変わらず盛り上がっているが、俺は父さん達と話すことで、恥ずかしさを忘れることが出来た。

 食事を済ませた俺達は男女に分かれて大浴場へ向かう。

「これは凄いな」
「お風呂いっぱいある……です」
「ん? あれ? これ冷水だな」
「本当だ……です。ここは……『サウナに入った後に1~2分程お入りください』って書いてある……です」

 バミューダ君が受付でもらった『風呂の入り方』を見ながら答える。

「『サウナ』って……あ、この部屋か? あっつ! 熱い! なんだ!? 蒸し風呂か!?」
「えっと……『5~10分程したら水風呂に入ってください』って書いてある……です」
「この部屋で汗をかいて冷水の風呂に入れって事か? こっちは……休憩スペース? 飲み水まで置いてある……なんで風呂場に?」
「こっちは……『水風呂に入ったら休憩スペースで5~10分程して下さい』って書いてある……です。『これをこれを2~3回繰り返すとダイエットや疲労回復に効果があります』……です」
「ほう、やってみるか」
「うん……です」
「アレンも行くぞ」
「あ、うん」

(これ……モーリス王子、絶対サウナ―だな……いや、確証はないんだけど……)

 前世ではサウナ―だった俺にはわかる。このサウナや水風呂、そして休憩スペースの配置はサウナを知り尽くしている者が設計している……と。

(サウナストーブの配置や空気の循環、水風呂の温度に休憩室に置かれている飲み水。『ととのう』ために必要な物が全て揃っている……凄いな)

 軽い興奮を覚えながら3人でサウナに入り、『手順』通りに進めていく。普段から運動しているバミューダ君は2周で『ととのった』ようだが、父さんは『ととのう』まで5周もかかっていた。

「あー……なるほど。『これ』かぁ」
「そう、『これ』。気持ちいいよね」
「気持ちいいー……ですー」
「なるほどなぁ。何度も頑張った甲斐があったわ。『これ』は、はまる……」

 3人でたっぷりサウナを堪能してから風呂をあがる。部屋の前で、くつろいでいた母さん達と合流した。

「お待たせ」
「珍しいわね。あなたが私より長くお風呂に入っているなんて」
「いやぁ、『サウナ』にはまっちゃってさ」
「あの熱いお部屋? そんなに良かったの? よくわからなかったから1周でやめちゃったんだけど……」
「格別だったね。あれはいい。今から明日が楽しみだ」
「そんなに……明日は私も入るわ」
「そうしなよ。俺は『ととのう』までに5周かかったけど母さんなら2~3周で『ととのう』と思うよ」
「『ととのう』? よくわからないけど……分かったわ」

 サウナを知らない人は1周でやめてしまってサウナの本当の魅力に気付けない場合が多い。

(これで母さんもサウナにはまるな)

「アレンもサウナに入ったんですか?」
「もちろん! 気持ちよかった……よ……」
「そうなんですね。ならわたくしも明日は試してみます。……アレン?」

 クリスの姿を見た俺はフリーズしてしまう。

(か、可愛い……)

 湯上りのクリスの破壊力は凄まじかった。蒸気した頬、まだ湿っている髪、潤いを保っている肌。それらがクリスの魅力を3倍以上に引き上げている。

「あ、あの、アレン。そんなに見られると恥ずかしい……」

 恥じらう姿もまた格別だった。

「お兄ちゃん見過ぎ! ほら、クリス様。お部屋に入りましょう」
「え、あ、はい。アレン、明日、朝ご飯を食べたら王都を散策しましょうね」
「わ、分かった……」
「それでは、おやすみなさい」
「おやすみー」
「おやすみなさい……です」
「お、おやすみ」

 ユリに連れられて、クリスが部屋に入って行ったが、俺はしばらく立ち尽くしてしまう。

「お兄ちゃん? お部屋戻ろ? ……です?」
「あ、ああ。そうだね」

 フリーズしていた俺は、バミューダ君に声を掛けられてようやく動き出せた。

「それじゃ、おやすみ」
「おやすみなさい……です」
「ああ。おやすみ」
「おやすみなさい」

 父さん達に挨拶をして部屋に入る。

(風呂上がりのクリス、めっちゃ可愛かったな……)

「ふふふ。アレンが可愛いわ」
「言ってやるな。まだまだ若いんだから仕方ないだろう」
「そうだけど……あれは結婚したら絶対に尻に敷かれるわね」
「……クリス様ならそうなっても大丈夫さ」
「そうね。ふふふ」

 途中で聞こえてきた父さん達の会話は全力で聞こえないふりをした。
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