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第5章 転換期

130.【王都出店12 王子の好み】

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「アレンの方はどうなんだ? まぁ、王都に出店するくらいだから順調だとは思うが」

 ソバを食べながらモーリス王子が聞いてきた。

「そうだね。おかげさまで貴族院に認められて、成人してから王都に店を構えられるようになったよ。今はその下準備中」
「やはりか。……って、アレン一人でか?」
「ユリも来てるよ。貴族院に認められたのが、俺個人だったからな。両親を連れてくるわけにはいかなかったんだ」
「ああ、イリス殿は貴族位を返上しているからな……ブリスタ子爵令嬢は置いてきたのか?」
「うん。クリスには支店の方で働いてもらってる。まぁ、成人したら結婚してこっちで働いてもらう予定だけどね」
「相変わらず仲のいい事で……羨ましいよ」
「そう言えば、モーリス王子は、婚約者を作らないのか?」

 カミール王子やサーカイル王子にも確か婚約者はいたはずだ。あまり仲が良くないという噂ではあるが……。

「……候補は何人かいるんだけど、迷ってるんだ」
「そうはいっても王太子になる以上、婚約者不在ってわけにはいかないだろ? 王妃教育だってあるだろうし」
「そういうのはもうクリアした子が候補として選ばれてるんだ。後は、国家機密の情報だけ教わればいいって子がね。選ばれなかった子にもちゃんと良縁を確保してあるし、急ぐ必要はない。問題はそこじゃないんだ……」
「? どういう事?」
「…………候補の女の子が全員好みじゃない」
「……………………………………は?」

 思わず、耳を疑ってしまう。

「だから! 候補の女の子が全員好みじゃないんだよ! 皆、いかにも高貴な家のご令嬢! って感じでさ。『自分が選ばれて当然!』って感じなんだ!」
「あー……えっと。じゃ、じゃあ、モーリス王子はどんな子が好みなの?」
「おしとやかで控えめなタイプ」
「……もしかして、男の後ろを1歩下がってついてくる的な?」
「そう! まさにそれ! そんな子が好きなんだ!」

 昔の日本人男性が求めたタイプを言ったのだがドンピシャだったようだ。だが、それを貴族令嬢に求めるのは難しいだろう。と言うより……。

「だけど、そんな子が王妃になるのは大変じゃない?」

 王妃には、いざという時に国王に代わって国を動かす事が求められる。どんなことが起きても慌てない胆力と皆をまとめる求心力、そして問題にたいしょする対応力が求められるのだ。おしとやかで控えめな子に務まるとは思えない。

「まぁな。分かってる。分かってはいるんだよ……はぁー」
「……ど、ドンマイ」

 王族に恋愛結婚など許されないことは、モーリス王子も分かっているのだろう。だが、元日本人として感情を無視した結婚をしたくない気持ちは理解できる。

 俺は良い励ましの言葉が思い浮かばないまま、パスタを口に運んだ。



「ま、愚痴ってばかりいても仕方ないからな。他の話をしよう。アレン、魔法使いになったんだってな?」
「――!?」

 思わず、パスタを運んでいた手を止めてモーリス王子を見つめてしまった。

「な、なぜそれを?」
「いや、何を驚いている? 魔導書貸出店は国営だぞ? 誰が魔法使いになったかはきっちり把握してるに決まってるじゃないか」
「……あ」

言われてから気付いた。国営である以上、王子であるモーリス王子が知らないわけないのだ。

「おいおい忘れてたのか? ……まぁいい。それで? 魔法は試してみたのか? 確か、『創作』と『鑑定』の属性を修めたんだろ?」
「『鑑定』は試してみたよ。『創作』はもう少しユリが魔法を修めてからかな」
「ああ、『創作』は他の属性と組み合わせが必要だもんな。だけど練習はしてみてもいいんじゃないか? 妹さんが他の属性を修めるまで隙だろ?」

 流石は第三王子。王都でお店を出す時に、準備することが少ない事は知っているらしい。

「そう、だね。午後は何か作ってみようかな」
「それが良い。何か良い物も出来たら教えてくれ。もし、『スマフォ』を作ってくれたら『ロイヤルワラント』を授与するぞ」
「いや、それは無理!」

 思わず突っ込んでしまったが、モーリス王子が気にした様子はなかった。むしろ突っ込まれた事が嬉しいのか、笑顔を浮かべている。

「ははは! そうか、無理か。ふふふ、そんな風に断られたのは転生してから初めてだ。ふははは。はぁ……」

 ひとしきり笑った後、王子は姿勢を正した。

「さてと、そろそろ王宮に戻るとするか。楽しかったぞ、アレン。ああ、分かっていると思うが、ここ以外では以前のように接してくれ。煩わしいと思うが、余にも立場があるからな」
「はっ! 心得ております」

 すっかり第三王子としての品格を取り戻したモーリス王子に俺は頭を下げて答える。


「うむ。また時間が合えば昼食を共にしよう。では、行くぞ」
「はっ!」

 俺は先回りして扉を開いた。

「ご苦労」

 そんな俺に一声かけてモーリス王子が部屋を後にする。

「あ、お帰りですか?」

 部屋を出たモーリス王子にいち早く気付いたピリムさんがモーリス王子に話しかけた。

「うむ。余とアレンの昼食代はいつものように処理してくれ」
「かしこまりました。またのお越しをお待ちしております」

 ピリムさんがお辞儀をしている横をモーリス王子が通り過ぎて、店を後にする。その姿を見た店内の何人かの客が急いで席を立ってモーリス王子の後を追った。

「(モーリス王子の護衛らしいわ。王子が来店されるといつもこうなの)」

 周りに聞こえない声でピリムさんが耳打ちしてくれる。

(さすがに未来の王太子をフリー護衛のいない状態にはしないか。でもあれじゃ、モーリス王子の息が詰まるのもしょうがないな)

 そう感じた俺は、『もしまたモーリス王子から昼食を誘われたら、付き合ってあげよう』と心に決めて、店を後にした。
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