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第6章 裏側

176【もう一人の実行犯3 チェーン】

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 男性は視線を、おばあちゃん、ユリ、そして俺の順番で動かした後、おもむろにため息を吐いた。その眼からは、ダームさんの感情を読み取ることは出来ない。とはいえ、このまま黙っているわけにもいかないので、意を決して話しかけてみる。

「ダーム=マグゼムさん、で、よろしいでしょうか?」
「そうだけど……こんな時間に何の用かな? 俺を殺したいという事であれば、無駄だし、君が死ぬ事になるからやめて欲しいんだけど?」

 俺の事をユリ、もしくはおばあちゃんの仕返しに来た者だと思っているようだ。ダームさんの対応を見る限り、前にも似たようなことがあったのだろう。

「お話したい事があってきました。中に入れて頂けますか?」
「――正気かい? こんな時間に俺の家に入りたがるだなんて」
「正気ですよ。?」
「――!?」

 ダームさんは驚きの表情を浮かべた後、少し考えてから俺達を家に入れてくれた。多少なりとも、俺達に興味を持ってもらえたようだ。

 玄関を通る時、膜のようなものを通り抜けた感覚があった。おそらく、不法侵入を防いでいる魔道具があるのだろう。膜に『許されて』家の中に入れた気がする。

 家の中は外見からは想像もできないほど綺麗だった。所々に装飾品が置かれていて、むしろ高級感すら漂っている。

「この部屋で話そう」

 ダームさんがとある部屋へ案内してくれた。部屋の中には見覚えのある机が置かれている。

(あれ……『防音』の魔道具?)

 案内された部屋に入り、勧められるがまま椅子に座った。ダームさんは向かいの椅子に座って机の上に手をかざす。すると、机の中心がわずかに光り出した。

「よし。これでここでの会話は外に漏れる事は無い。それで? 君達の目的は何なんだい? いや、それ以前に君達は何者なんだい?」

 やはりこの机は『防音』の魔道具の様だ。なぜ、こんな貧困街の民家に『防音』の魔道具があるのかは謎だが、内緒の話をしたい俺達にとっては都合がいい。

「俺の名前は、アレン=クランフォード。2年前、父と母を殺された者です」
「……そうか」

 途端に、ダームさんの表情が曇った。

「色々な方の協力により、実行犯は3人である事を突き止めました。実行犯の内、2人はすでに殺しています。残りはダームさん。貴方1人です」
「…………」

 ダームさんは、黙って俺の話を聞いてくれている。だが、わずかに重心が低くなった。座って話を聞きながらも、俺達が何か行動を起こせば、即座に対処できるようにしている。

「本来であれば、ダームさんを殺して黒幕について調べるつもりだったのですが……ある情報提供者に言われたのです。『ダームさんも被害者』なのだと」
「……ほう」

 ダームさんが下げていた重心を元に戻した。

「……ダームさん。その首にされているチェーン。カミール王子から贈られた物ではありませんか?」
「――!」

 俺の言葉に、ダームさんは驚きの表情を浮かべる。ユリとおばあちゃんも、驚いた様子でダームさんの首元を見た。

「……どうやら、カマをかけているわけじゃなさそうだね」

 ダームさんが、自分の服の首元を開く。そこには所々にガーネットが施されたチェーンが掛けられていた。直接『鑑定』する事によって、より明確な情報が頭の中に流れ込んでくる。

『名称:奴隷化の首輪 状態:加工品 所有者:カミール=ルーヴァルデン 対象:ダーム=マグゼム 特性:①所有者の許可なく対象から外す事が出来なくなる。②対象は所有者の命令に絶対服従となる。継続的な命令は1つのみ。③対象の感覚を全て奪う。④対象の身体を自由に操作できる』

(ガーネットの石言葉は『目標達成』『精神を強化』それに『愛に溢れる』だったはず……でもそれをチェーンに施して強引に……これは……酷い……)

 チェーンの石言葉は『束縛と隷属』。その特性がガーネットによって強化されてしまっている。まさに名前の通り、人を奴隷化するためだけに作られた魔道具だ。

 さらにもっと注意深く見る事によって『継続的な命令』についても理解することが出来た。今の『継続的な命令』は、『カミール王子に関する全ての情報の口外の禁止』だ。ゆえに、ダームさんはカミール王子が所有者となっている『奴隷化の首輪』について口外できず、周囲の誤解を解く事すらできないのだろう。

「見えたかな?」
「……ええ、はっきりと」
「そうか」

 ダームさんは俺の返事を聞いてから、首元を元に戻した。

「情報漏洩の禁止、とかにしておけばいいのに、ほんと頭が弱いよね」
「ははっ。そうですね」

 ダームさんの言う通り『情報漏洩の禁止』という命令であれば、俺にチェーンを見せる事は出来なかっただろう。もしかしたら、『鑑定』を使える俺の前に出る事すらできなかったかもしれない。だが、『カミール王子に関する全ての情報の口外の禁止』という命令なら『鑑定』される事を防ぐ必要はない。

「もう察しているかもしれないけど……」

 そう言ってダームさんは机から大きめのメモ帳を取り出して、とあるページを見せてくる。そこには『筆談なら可能。どんな質問にも答える』と、書かれていた。確かに筆談なら、大勢の誤解を解くのは難しくても、俺達と会話するだけなら十分だ。

「それでは……カミール王子に妹を人質に取られていると聞きましたが、本当ですか?」

 俺がそう聞くと、ダームさんは『妹は難しい病気で治療できる医者は少ない。カミール王子の口利きで治療を受けさせてもらっている』と書かれた紙を見せながら頷く。

そこからは俺達が色々質問して、ダームさんが口頭で答えるか、回答が書かれたページを見せる、もしくは新しいページに回答を書く、という形でやり取りを行った。

「妹さんは今どこに?」
『カミール王子の口利きで大きな病院に入院させてもらっている』
「治療にはまだまだ時間がかかるそうだ。月に2回面会しているんだけど、表情は暗いんだ。もしかしたら、治療費を気にして俺に遠慮しているのかもな……」

「そのチェーンはいつからしているんですか?」
『2年前。カミール王子に付けられた』

「俺の両親を殺した時の事を覚えています?」
「……誰かを殺した記憶は俺にはないよ」

「2年前のこの時期、貴方は何をしていましたか?」
『カミール王子の命令で辺境の村へ行った』

「その後の記憶はないと」
「そう」

「記憶を失う前後で、何か覚えている事はありませんか?」
『記憶を失う前に2人の男と合流した。その後は、やけに身体が重かった事と、変な臭いがした事は覚えている』

「似たような事は他にもありましたか?」
『ある。それ以降、月に2,3回どこかに行けと指示されるようになった。その後はいつも似たような感じになる』

「貴方が婦女暴行犯だと言われている事は……」
「ああ。知ってる。と言っても、知ったのは最近だけどね」

 ダームさんは苦笑した後、メモ帳のとあるページを指差す。そこには『そんな!? それは、カミール王子が俺の身体で女性に暴行してるって事か!?』と殴り書きされていた。
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