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第6章 裏側

175【もう一人の実行犯2 現状】

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「おばあちゃん……その、身体を乗っ取るっていうのは……」
「言葉通りの意味じゃよ。とある魔道具を身に着けた人間の身体を好きなタイミングで己の身体のように扱う事が出来るようじゃ。それが、カミール王子の魔法なのか、魔道具の効果なのかは不明じゃがの」

 いずれにしても、身体を乗っ取る条件として、『とある魔道具を身に着けた人間』というのを聞いて少しだけ安心する。もし、条件が分からなければ、対処のしようがない。

「よくそんな情報を手に入れられたね。流石、おばあちゃん!」
「ははっ! それはあやつが愚かなおかげじゃな。酒を飲ませて美女を数人派遣したら簡単にしゃべりおったわい」

 カミール王子が馬鹿で本当に良かった。絶対に漏らしちゃいけない重大情報だろうに……

「あの……それが、カミール王子が流した偽情報という可能性はないのでしょうか?」

 クリスがおばあちゃんに聞いた。確かに通常であれば、フェイクの可能性を疑うべき話だ。

「うむ、その可能性は確かにある。じゃが、美女達に持たせていた『嘘発見』の魔道具に反応はなかった。じゃから、少なくともカミール王子がそのように考えている事は間違いないのじゃ」

 カミール王子がそう思っている以上、カミール王子と対峙する上では、その情報が正しいと思っていいだろう。

「なるほど。すみません、出しゃばってしまいました」
「いや、構わないのじゃ。むしろ、色々な視点からの意見が欲しいから、もっと色々言って欲しいのじゃ。そのための会議なのじゃからの。さて、カミール王子が『魔道具を身に着けた他人と身体を入れ替えられる』という事は分かってもらえたかのう?」

 おばあちゃんの問いかけに皆が頷く。

「結構なのじゃ。そして、この『身体を乗っ取る』能力じゃが、2年前、イリスとルーク殿を襲撃した際に使われたのが最初と考えておる。というのもな、あの事件以降、王都近郊における『婦女暴行事件』が多発しておるのじゃ。目撃情報などから『ダームが犯人名なのでは?』ともっぱらの噂じゃが、なぜか犯人は捕まっておらんのじゃ」
「それって……」
「十中八九、カミール王子の仕業じゃろうな。もともと、手当たり次第に女性に手を出すクズじゃったのを、側室やサーカイル王子がコントロールしていたんじゃが、新しい手段を手に入れて、たかが外れたのじゃろう」

 とんでもない女好きで女の敵。それがカミール王子のようだ。

「以上が、ダームについての説明じゃ。わしが言った『こやつも被害者じゃ』という言葉の意味は、分かってもらえたかの?」

 皆が俺の方を見る。

「そう、だね。少なくとも俺が考えていたような極悪人じゃない事は分かったよ……ダームと話がしたい。出来るかな?」
「もちろんじゃ。今の時間、あやつは自宅にいるはずじゃよ。行くなら案内するぞ」
「お願い。ユリも一緒に来てもらえる? あ、皆は解散で! 今日は集まって頂き、ありがとうございました!」

 皆に一礼してから、俺はユリとおばあちゃんと一緒に研究室を出た。

「えっと、とりあえず王都のお店でいい?」
「そうじゃな。少し歩く事になるが、そこが一番近いじゃろ」
「了解だよ!」

 ユリの『転移』で王都のお店の前に『転移』する。

「こっちじゃ。ダームは貧困街に住んでおる。周囲の警戒は怠るでないぞ」

 モーリス王子の政策のおかげで、貧富の差は改善されたし、治安も大分よくなったが、犯罪が無くなったわけではない。だいぶ暗くなったこの時間に貧困街に行くのであれば、いくら王都の中と言っても警戒を怠るわけにはいかない。

 周囲を警戒しながら、おばあちゃんの後に続いて歩いていくと、周囲の雰囲気が変わってきた。

「(ここから先が貧困街じゃ。気を引き締めるんじゃぞ)」
「「(了解!)」」

 さらに警戒しながら歩みを進めていくと、どこからか複数の視線を感じる。場違いな俺達を警戒しているのだろう。だが、俺達を襲ってくる気は無いようで近づいてくる気配はない。

「(さすがじゃの、ユリ。わしが教える前にちゃんと目で追い払ったな)」
「(えっへん! お母さんとおばあちゃんに鍛えられているからね)」
「……」

 どうやら、襲う気が無いのではなく、ユリによって追い払われていたようだ。隠れて監視している敵を正確に睨む事で、『隠れているのは分かっているから無駄に襲ってくるなよ。簡単に返り討ちに出来るからな』と威圧したのだろう。

(相変わらず義妹が頼もし過ぎるな……)

 一応、俺も警戒はしているが、あまり役に立っていない気がする。

 そうして歩き続ける事、十数分。おばあちゃんが『あそこじゃよ』と言って、1軒の家を指差した。

「――!」

 その家は、貧困街の中でも特に汚れていた。というより、明らかに何者かによって汚されていたのだ。

 壁には、複数の場所に何かの汁のようなものがこびりついており、それ以外の部分には下品な落書きが書かれていて、綺麗な部分はほとんど残っていない。ほとんどの窓は割られていて、木材で補修された跡が痛々しかった。

「あれは……なんであんな……」
「……事情を知らぬ者にとってダームは『なぜか逮捕されない婦女暴行犯』じゃ。被害にあった者やその関係者がやった物もあるのじゃろうが……大半は正義感を拗らせた連中がやったんじゃろうな」

 事情を知らないものが、ダームさんを恨んでしまう気持ちは分かる。俺だっておばあちゃんから事情を知らされるまでは、ダームさんを恨んでいたし、殺すつもりだった。

 だからこそ分かるのだが、ダームさんの家に行われたいたずらの大半は、面白半分で行われたものだ。少なくとも本気で恨んでいる人間は、くだらない落書きなんかしない。

「……行こう」

 ユリとおばあちゃんに声をかけてから、ダームさんの家に向かう。これ以上、この家を見ていたくなかったのだ。

 ダームさんの家の玄関に着いたのだが、呼び鈴が壊されていたので、扉を手でノックする。

 しばらくすると、中から暗い顔の男性が現れた。
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