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《sideレイチェル》
「り、リチャード……様」
彼女達の中で、最初に硬直が溶けたのはフォーレンス伯爵令嬢でした。
「なぜ……なぜ、ここに……」
「……その疑問に答える前に、訂正してもらおうか。私は君にその呼び方を許した覚えはないよ」
「ひっ!」
わずかにリチャード殿下の言葉に宿った怒気に、フォーレンス伯爵令嬢は悲鳴を上げてしまいました。普通の令嬢であれば致し方ない事かもしれませんが、伯爵令嬢としては情けないとしか言えません。
「し、失礼致しました。リチャード殿下!」
「うん。それで、『私がなぜここにいるか』だっけ? そんなの、愛しの婚約者が窮地に陥っていると聞いたからに決まっているじゃないか」
「っ!」
女同士の争いに男性が口を出すというのは、王妃教育を受けた私からすると、屈辱でしかありません。思わず反論してしまいそうになります。
(って、違う違う! そうじゃない!)
「(くっ!)…………きゃー、リチャード様! 嬉しいです!」
何とか仮面を被りなおしてから、特別な王妃教育で習った反応を返す私を、リチャード殿下は楽し気に眺められた。
「ふふふ。愛しのレイチェル。君は本当に可愛いね。その羞恥の顔、最高に可愛いよ。本当はもう少し眺めていたいけど……それ、もうやめていいよ」
「……え?」
「「「……え?」」」
……え?
(……え?)
様々な人の疑問符が重なり、この場の皆の心が1つになったような気がします。
(まさか……)
「あ、あの。リチャード様。『それ』、とは……」
「ん? だからレイチェルが『そのキャラを演じている事』だよ。僕的にはずっとそのままでいて欲しいんだけど、一応ケリはついたみたいだしこれ以上は可哀想だと母上もおっしゃっているからね。これ以上は無理強い出来ないよ。あ、もちろんレイチェルがそれを気に入っているなら、今後も続けて――」
「遠慮いたします!!!」
羞恥心や自尊心がごちゃごちゃにかき乱されて、思わず大声を出してしまいました。これではフォーレンス伯爵令嬢の事を情けないといえません。
(は、恥ずかしい!! え、リチャード殿下ずっと気付いてたの!? 私が演じている事に? 気付いてて楽しんでいたの!? 何それ!!!)
「………………いつからお気づきになっておられたのですか?」
「ん? 最初からだよ? ってか、レイチェルにそのキャラを演じてもらうよう指示したの、私だし」
「………………は?」
(は???)
「な、なぜそのような事を??」
「それについては、もう少し待ってね。まずは――」
パチンッ!
リチャード殿下が指を鳴らすと、どこからともなく現れた人達が、フォーレンス伯爵令嬢達を拘束していきます。
「リチャードさ……殿下! 何をなさるのですか!」
拘束されたフォーレンス伯爵令嬢が驚愕の表情を浮かべてリチャード殿下をみています。ですが、これは当然の事でしょう。
(『何を』も何も……さっきの自分の言動、忘れてるの??)
「ここでの発言は、私と彼ら、『王家の影』達が聞いていた。君らの行いは不敬罪及び反逆罪にあたる。ゆえに拘束させてもらった」
王族、およびその婚約者等の準王族にあたる人は、常に王家の影が護衛に着く。貴族であれば、知っていて当然の知識です。そして私と影の前であのような発言をすれば、拘束されるのも当然の事です。それなのに、彼女達は何を驚いているのでしょうか。
「……まさかここまでとはね。彼らが匙を投げるわけだ。背後関係含めて全て吐いてもらうから覚悟しろよ? 連れていけ!」
「ちょ、ちょっと!!」
なおもフォーレンス伯爵令嬢達は抵抗しようとしましたが、相手は王家の影、つまりはプロです。抵抗むなしく、彼女達は抱えられるように連れていかれました。
「…………さて、と。レイチェル。私に聞きたいことがある……よね?」
「ええ。そうですわね。殿下。当然、答えてくださいますよね?」
もう特別な王妃教育で習った仮面を被らなくてよくなった私は、貴族令嬢の仮面を被って応えました。それでも声に怒気が乗ってしまったのは、仕方のない事でしょう。
「あ、ああ、もちろん! とはいえ、ここではなんだ。とりあえず王宮に行こうか!」
私の声がよほど恐ろしかったようです。リチャード殿下は足早に教室を後にしました。
(あらら。リチャード殿下の仮面が剥がれちゃってるわね)
そうですね。ところで、先ほどの彼女達の言葉、貴女は理解できたのですか?
(何とかね。『きみかて』とか『めざしん』とか、分からない言葉もあったけど何となく想像つくよ)
良かったです。貴女も理解できない言葉だったら、どうしようかと思いました。
それじゃあ、詳しく教えて下さい。
(OKー)
私は王宮に向かう馬車の中で、彼女の話を聞く事にしました。
「り、リチャード……様」
彼女達の中で、最初に硬直が溶けたのはフォーレンス伯爵令嬢でした。
「なぜ……なぜ、ここに……」
「……その疑問に答える前に、訂正してもらおうか。私は君にその呼び方を許した覚えはないよ」
「ひっ!」
わずかにリチャード殿下の言葉に宿った怒気に、フォーレンス伯爵令嬢は悲鳴を上げてしまいました。普通の令嬢であれば致し方ない事かもしれませんが、伯爵令嬢としては情けないとしか言えません。
「し、失礼致しました。リチャード殿下!」
「うん。それで、『私がなぜここにいるか』だっけ? そんなの、愛しの婚約者が窮地に陥っていると聞いたからに決まっているじゃないか」
「っ!」
女同士の争いに男性が口を出すというのは、王妃教育を受けた私からすると、屈辱でしかありません。思わず反論してしまいそうになります。
(って、違う違う! そうじゃない!)
「(くっ!)…………きゃー、リチャード様! 嬉しいです!」
何とか仮面を被りなおしてから、特別な王妃教育で習った反応を返す私を、リチャード殿下は楽し気に眺められた。
「ふふふ。愛しのレイチェル。君は本当に可愛いね。その羞恥の顔、最高に可愛いよ。本当はもう少し眺めていたいけど……それ、もうやめていいよ」
「……え?」
「「「……え?」」」
……え?
(……え?)
様々な人の疑問符が重なり、この場の皆の心が1つになったような気がします。
(まさか……)
「あ、あの。リチャード様。『それ』、とは……」
「ん? だからレイチェルが『そのキャラを演じている事』だよ。僕的にはずっとそのままでいて欲しいんだけど、一応ケリはついたみたいだしこれ以上は可哀想だと母上もおっしゃっているからね。これ以上は無理強い出来ないよ。あ、もちろんレイチェルがそれを気に入っているなら、今後も続けて――」
「遠慮いたします!!!」
羞恥心や自尊心がごちゃごちゃにかき乱されて、思わず大声を出してしまいました。これではフォーレンス伯爵令嬢の事を情けないといえません。
(は、恥ずかしい!! え、リチャード殿下ずっと気付いてたの!? 私が演じている事に? 気付いてて楽しんでいたの!? 何それ!!!)
「………………いつからお気づきになっておられたのですか?」
「ん? 最初からだよ? ってか、レイチェルにそのキャラを演じてもらうよう指示したの、私だし」
「………………は?」
(は???)
「な、なぜそのような事を??」
「それについては、もう少し待ってね。まずは――」
パチンッ!
リチャード殿下が指を鳴らすと、どこからともなく現れた人達が、フォーレンス伯爵令嬢達を拘束していきます。
「リチャードさ……殿下! 何をなさるのですか!」
拘束されたフォーレンス伯爵令嬢が驚愕の表情を浮かべてリチャード殿下をみています。ですが、これは当然の事でしょう。
(『何を』も何も……さっきの自分の言動、忘れてるの??)
「ここでの発言は、私と彼ら、『王家の影』達が聞いていた。君らの行いは不敬罪及び反逆罪にあたる。ゆえに拘束させてもらった」
王族、およびその婚約者等の準王族にあたる人は、常に王家の影が護衛に着く。貴族であれば、知っていて当然の知識です。そして私と影の前であのような発言をすれば、拘束されるのも当然の事です。それなのに、彼女達は何を驚いているのでしょうか。
「……まさかここまでとはね。彼らが匙を投げるわけだ。背後関係含めて全て吐いてもらうから覚悟しろよ? 連れていけ!」
「ちょ、ちょっと!!」
なおもフォーレンス伯爵令嬢達は抵抗しようとしましたが、相手は王家の影、つまりはプロです。抵抗むなしく、彼女達は抱えられるように連れていかれました。
「…………さて、と。レイチェル。私に聞きたいことがある……よね?」
「ええ。そうですわね。殿下。当然、答えてくださいますよね?」
もう特別な王妃教育で習った仮面を被らなくてよくなった私は、貴族令嬢の仮面を被って応えました。それでも声に怒気が乗ってしまったのは、仕方のない事でしょう。
「あ、ああ、もちろん! とはいえ、ここではなんだ。とりあえず王宮に行こうか!」
私の声がよほど恐ろしかったようです。リチャード殿下は足早に教室を後にしました。
(あらら。リチャード殿下の仮面が剥がれちゃってるわね)
そうですね。ところで、先ほどの彼女達の言葉、貴女は理解できたのですか?
(何とかね。『きみかて』とか『めざしん』とか、分からない言葉もあったけど何となく想像つくよ)
良かったです。貴女も理解できない言葉だったら、どうしようかと思いました。
それじゃあ、詳しく教えて下さい。
(OKー)
私は王宮に向かう馬車の中で、彼女の話を聞く事にしました。
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