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カルディア兄さんからの手紙
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トマトが真っ赤に育って、美味しそうだ。
陽が上り切る前に畑仕事に精を出していた私は、間近に迫った収穫に心躍らせる。
蕾のついてる苗を買ってきたの正解だった……。
「殿下!!!
アルメリア様からお手紙ですよ!!!」
私はレンタールの声に、畑を耕す手を止めた。
アルメリア様からの手紙っていうことは、要するに、カルディア兄さんからの手紙ってことで……。
「分かった!
今行くね??」
私はタオルで汗をぬぐいながら、部屋の中へと戻った。
一緒に畑作業をしていたユーノスも、私を追いかけるように部屋の中に入ってくる。
実はお忍びで出かけてからの2週間、ユーノスは私と喋ろうとしなかった。
もちろん必要最低限の話はするけど、いざちゃんと話そうとすると、避けられてしまうのだ。
なんで……???
私、何か嫌われるようなこと、した???
でもそれならなんで、ユーノス私にキスしたんだろう?
ユーノスにキスされて、私……は、初めてだったから、頭に血が上って、何が何だかわからなかった。
だけどキスが終わると、ユーノスは私を突き飛ばすように体を押しやった。
あの時はよくわかってなかったけど……あれって、もしかして、罰……だったの???
………確かに、私がベーレン王子のことうっかり喋ってしまったから窮地に陥ってしまった。
それでユーノス怒ってて、口もきいてくれなくなったのかな???
嫌われたのかと思うと、悲しくて泣いちゃいそうだけど、でも私が悪いんだよね???
もしかして、私がアルメリアって気付いたから嫌われたのかなって思ったけど、レンタールに相談したらユーノスは私が「女の子だって、気付いていませんよ」って言う。
でもでも、じゃあなんで、私のことアルメリアって呼んだの??
おかしいよね??? 話しかけても答えてくれないから、確かめようがない。
私はそのことを思い出すと、気持ちが暗く沈みこんだけど、レンタールの差し出す手紙を気を取り直して受け取った。
蜜蝋の封を切って、兄さんのミミズのくねったような文字を解読しながら、私は手紙を読み進めた。
兄さん、手紙が流出しているのを警戒しているのか、文章に使用しているアルファベットを3つずつずらして書いている。
無駄に読みにくい。
もう!
こんなことしなくても、兄さんの汚い字は私とレンタールにしか読めないから!!!
「んん???
あれ???
これって???
ねぇ、レンタール!!!
見てみて……??」
解読してみてわかったけど、それは手紙なんてものじゃなかった。
カルディア兄さんからの『指令書』。
本日、正午。
女装して黒宮を抜け出してくること。
※注 ユーノスは黒宮で待たせてろ。
女装って……私女だよ?
……あれ? ちょっと待って?
……………なんで、兄さん。
抜け道のこと知ってるの?????
「ごくろうだったな、アルメリア!」
時間通りに黒宮を抜け出すと、地下道を抜けた先に待っていたのは、他でもないカルディア兄さんだった。
「ええーー???
カルディア兄さん、いつ来たの??」
「ハハ!
つい、昨日だ!
驚いたか!!!」
豪快に笑いながら、カルディナ兄さんは私の頭をぽんぽん、と叩いた。
ふふ……兄さん、私よりちょっと背が高いだけなのに、無理してる。
それにしても、いったいどうしたんだろう……?
会いに来てくれた……訳じゃなさそうなんだけど???
それより、兄さんの体………。
「驚きました!!!
それに、カルディア兄さん……もとに戻ってる!!!」
私は、以前と変わらないほっそりとしたカルディナ兄さんに驚きの声を上げた。
まだ2か月くらいしかたってないのに、以前と変わらないカルディア兄さんだ。
兄さんは、「まぁ本気をだせば、こんなものだ」なんて笑い声をあげていたけど、不意に真顔になって、私の両肩に手を置くと、ぎゅっと握りしめた。
「本当にご苦労だった、アルメリア。
お前の任務は今日で終わりだ。
このままブーデリアに帰ってくれ!」
えっ……!!
ホントにブーデリアに帰っていいの??
信じられずにレンタールを見ると、レンタールはにっこりと笑って頷いた。
「良かったですわね、アルメリア様。
ブーデリアでも、お健やかにお過ごしくださいまし」
「あ、じゃぁ、レンタールは??」
「レンタールはここに残る」
兄さんに言われ、私はがっくりと頭を垂れた。
そっか、そうだよね……。
レンタールはもともと兄さんの侍女なんだから。
でも、レンタールは兄さんの次に仲がいいし寂しいけど……。
ああ、ユーノスともお別れなんだな……。
私は急に寂しくなり、レンタールにぎゅっと抱き着いた。
「今までありがとう、レンタール。
兄さんのことよろしくね」
泣きそうだったけど、我慢した。
……大丈夫!!
お別れが、想像してたより、ちょっぴり早まっただけだから。
それから私は、兄さんが乗ってきた馬車に乗り換えた。
御者さんと従者さんが一人ずつ。
あまり知らない人だけど、顔には見覚えがある。
どっちも兄さんお付きの人だ。
私が「ブーデリアまでよろしくね?」と言うと、お任せください、と、二人は力強く頷いた。
「アルメリア……お前。
俺がいなくても、しっかりやれよ??」
珍しく兄さんが、優しい言葉をかけてくれた。
嬉しくなって、自然と笑顔が出せた。
「はいっ!!
頑張ります!!
あ、兄さん!!!
中庭のトマトが食べごろなので、収穫お願いします!!
それとウサギの燻製を枕の下に隠してあるので、証拠隠滅お願いしますね!!!」
「………お前の心配は、食い物だけか??」
兄さんに苦笑されたけど、仕方ない!!
だって、トマトさん、本当に美味しそうに育ってたんだよ???
私は見送るレンタールと兄さんの姿を、木に遮られて二人が見えなくなるまで馬車の窓から眺めていた。
「………ひっく……」
あ、あれ……??
変だな……???
きっと、気のせい……。
「……うぇ………ひっく………」
…………うううう!!!
「レンタール……!!!
ユーノス!!
カルディア兄さん!!!」
一人っきりになると、急に我慢していた涙がこみ上げてきて止まらなくなった。
皆とお別れするのは、もう少し先のことだと思ってたのに………!!!!
………どうしよう!!!!
私、明日っから独りぼっちだ!!!!!
陽が上り切る前に畑仕事に精を出していた私は、間近に迫った収穫に心躍らせる。
蕾のついてる苗を買ってきたの正解だった……。
「殿下!!!
アルメリア様からお手紙ですよ!!!」
私はレンタールの声に、畑を耕す手を止めた。
アルメリア様からの手紙っていうことは、要するに、カルディア兄さんからの手紙ってことで……。
「分かった!
今行くね??」
私はタオルで汗をぬぐいながら、部屋の中へと戻った。
一緒に畑作業をしていたユーノスも、私を追いかけるように部屋の中に入ってくる。
実はお忍びで出かけてからの2週間、ユーノスは私と喋ろうとしなかった。
もちろん必要最低限の話はするけど、いざちゃんと話そうとすると、避けられてしまうのだ。
なんで……???
私、何か嫌われるようなこと、した???
でもそれならなんで、ユーノス私にキスしたんだろう?
ユーノスにキスされて、私……は、初めてだったから、頭に血が上って、何が何だかわからなかった。
だけどキスが終わると、ユーノスは私を突き飛ばすように体を押しやった。
あの時はよくわかってなかったけど……あれって、もしかして、罰……だったの???
………確かに、私がベーレン王子のことうっかり喋ってしまったから窮地に陥ってしまった。
それでユーノス怒ってて、口もきいてくれなくなったのかな???
嫌われたのかと思うと、悲しくて泣いちゃいそうだけど、でも私が悪いんだよね???
もしかして、私がアルメリアって気付いたから嫌われたのかなって思ったけど、レンタールに相談したらユーノスは私が「女の子だって、気付いていませんよ」って言う。
でもでも、じゃあなんで、私のことアルメリアって呼んだの??
おかしいよね??? 話しかけても答えてくれないから、確かめようがない。
私はそのことを思い出すと、気持ちが暗く沈みこんだけど、レンタールの差し出す手紙を気を取り直して受け取った。
蜜蝋の封を切って、兄さんのミミズのくねったような文字を解読しながら、私は手紙を読み進めた。
兄さん、手紙が流出しているのを警戒しているのか、文章に使用しているアルファベットを3つずつずらして書いている。
無駄に読みにくい。
もう!
こんなことしなくても、兄さんの汚い字は私とレンタールにしか読めないから!!!
「んん???
あれ???
これって???
ねぇ、レンタール!!!
見てみて……??」
解読してみてわかったけど、それは手紙なんてものじゃなかった。
カルディア兄さんからの『指令書』。
本日、正午。
女装して黒宮を抜け出してくること。
※注 ユーノスは黒宮で待たせてろ。
女装って……私女だよ?
……あれ? ちょっと待って?
……………なんで、兄さん。
抜け道のこと知ってるの?????
「ごくろうだったな、アルメリア!」
時間通りに黒宮を抜け出すと、地下道を抜けた先に待っていたのは、他でもないカルディア兄さんだった。
「ええーー???
カルディア兄さん、いつ来たの??」
「ハハ!
つい、昨日だ!
驚いたか!!!」
豪快に笑いながら、カルディナ兄さんは私の頭をぽんぽん、と叩いた。
ふふ……兄さん、私よりちょっと背が高いだけなのに、無理してる。
それにしても、いったいどうしたんだろう……?
会いに来てくれた……訳じゃなさそうなんだけど???
それより、兄さんの体………。
「驚きました!!!
それに、カルディア兄さん……もとに戻ってる!!!」
私は、以前と変わらないほっそりとしたカルディナ兄さんに驚きの声を上げた。
まだ2か月くらいしかたってないのに、以前と変わらないカルディア兄さんだ。
兄さんは、「まぁ本気をだせば、こんなものだ」なんて笑い声をあげていたけど、不意に真顔になって、私の両肩に手を置くと、ぎゅっと握りしめた。
「本当にご苦労だった、アルメリア。
お前の任務は今日で終わりだ。
このままブーデリアに帰ってくれ!」
えっ……!!
ホントにブーデリアに帰っていいの??
信じられずにレンタールを見ると、レンタールはにっこりと笑って頷いた。
「良かったですわね、アルメリア様。
ブーデリアでも、お健やかにお過ごしくださいまし」
「あ、じゃぁ、レンタールは??」
「レンタールはここに残る」
兄さんに言われ、私はがっくりと頭を垂れた。
そっか、そうだよね……。
レンタールはもともと兄さんの侍女なんだから。
でも、レンタールは兄さんの次に仲がいいし寂しいけど……。
ああ、ユーノスともお別れなんだな……。
私は急に寂しくなり、レンタールにぎゅっと抱き着いた。
「今までありがとう、レンタール。
兄さんのことよろしくね」
泣きそうだったけど、我慢した。
……大丈夫!!
お別れが、想像してたより、ちょっぴり早まっただけだから。
それから私は、兄さんが乗ってきた馬車に乗り換えた。
御者さんと従者さんが一人ずつ。
あまり知らない人だけど、顔には見覚えがある。
どっちも兄さんお付きの人だ。
私が「ブーデリアまでよろしくね?」と言うと、お任せください、と、二人は力強く頷いた。
「アルメリア……お前。
俺がいなくても、しっかりやれよ??」
珍しく兄さんが、優しい言葉をかけてくれた。
嬉しくなって、自然と笑顔が出せた。
「はいっ!!
頑張ります!!
あ、兄さん!!!
中庭のトマトが食べごろなので、収穫お願いします!!
それとウサギの燻製を枕の下に隠してあるので、証拠隠滅お願いしますね!!!」
「………お前の心配は、食い物だけか??」
兄さんに苦笑されたけど、仕方ない!!
だって、トマトさん、本当に美味しそうに育ってたんだよ???
私は見送るレンタールと兄さんの姿を、木に遮られて二人が見えなくなるまで馬車の窓から眺めていた。
「………ひっく……」
あ、あれ……??
変だな……???
きっと、気のせい……。
「……うぇ………ひっく………」
…………うううう!!!
「レンタール……!!!
ユーノス!!
カルディア兄さん!!!」
一人っきりになると、急に我慢していた涙がこみ上げてきて止まらなくなった。
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