コーポ小林事件

ゆとり理

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バスから降りた女は追わずに車を回して、反対方向へと向かった。
思わず追わないのかと確認したが「追わない、違う。」とだけ言って大回りをしてコーポへ向かった。
コーポに着く1つ前の道で先程の女とすれ違った。
「さっきの女だ、あの女は買い物という感じじゃない、知り合いのところに訪ねて来たんだ。」そう横目に見ながら車を進めた。
最近の若い女性という雰囲気でどう違うのか分からなかった。
曖昧にそうなんですねとだけ返事をした。
すぐにコーポ着いた。

101号室はいまだ郵便物が溜まっていたので戻ってきていないようだ。
ハナちゃんの部屋のチャイムを鳴らしたがまだ帰って来ていないようだ。
メーターも大して動いていない。
一応ということで104号室101号室204号室も鳴らしたが留守だった。
ハナちゃんの真上ということでノリカさんに話を聞くため202号室のチャイムを鳴らした。
ノリカさんはこの後どこかに出かけるのか午前中とは違う格好をしていた。
私が「ハナちゃん、」と言うと、それを遮るように先輩が話し始めた。
「三田紀華さん、どうしてこんなところにお住いに?」先輩は厳しい顔だった。
「ちょっとね、ふふふ?」色っぽかったが何かを隠している、そう思う他なかった。
「貴女はこんなところに住む人じゃない。」
確かにノリカさんが住むような建物ではない。
外見も古くてあちこち錆びているし、現場写真の資料でしか見ていないが中も快適とは言えないだろう。
そんな追求もサラリとかわすように、「私がどこで何をしようと勝手じゃなくて?それより私のこと調べられちゃったのね?残念。刑事さんとは『仲良く』なりたかったのに。」と妖しげに笑った。
「そうですね、今回の事件には関わっては、」「いないわよ、失礼ね。」先輩の言葉を遮りながら否定した言葉には嘘はなさそうだ。
「用事がないならもういいかしら?今日はこの後出かけなくちゃいけないの?明日、も無理かな。明後日ならゆっくりお話し出来るわよ?」私には目もくれず先輩を誘惑していた。
「そうですか、それではお話を聞くことになりましたら明後日に来ます。今は少し確認したいことが。」
ノリカさんの誘惑をかわしたのかかせてないのかは分からないが、私を見た。
ハナちゃんのことを聞けということだとすぐに分かった。
ハナちゃんはと言いかけたところで下から物音が聞こえた。
私にノリカさんから聞くように言って先輩は階段を駆け下りた。
慌てている私にノリカさんは優しく「何かしら?」と微笑んだ。
「ハナちゃんは今日はどちらに行ったかわかりますか?午前中に訪ねたときはいなくて。」
たったそれだけなのに何度も噛んだ。
恥ずかしくて顔が赤くなったのが分かったが、仕事なのでノリカさんを見つめるしかなかった。
ノリカさんの答えは衝撃だった。
「どこにも出かけてないわよ?さっきも音してたから。」と不思議そうに首を傾げた。
出かけていない。
音がしていた。
それはつまり、居留守?
い・る・す?
IRUSU?
つまるところのイルス?
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