コーポ小林事件

６

大悟はノリカさんついて詳しく資料を読んでいる。
紀華、名前の感じ通り華やかな人だった。
私もあんな感じにセクシー路線だったらどんな人生だったのだろう。
前科の結婚詐欺、騙されることはあっても騙すことはないだろう。
そもそも彼氏もいない私には縁もない話だ。
大悟は「何件もやっている。」と言いながら資料を私に読めと渡した。
「危うく引っかかるところでしたね。」と言おうと口を開く前に、「どこかでみたことのある顔だと思ったんだ。証言は全て疑ってかからないとな。」と大悟は真剣な顔だった。
真剣な大悟の顔を見て、気を引き締めて資料を読むしかない。
前科は結婚詐欺が１件だけだったが、金銭トラブルが複数回相談されていた記録があった。
どれもノリカさんは否定していた。
「自分のためにお金をくれた、誰とも結婚の約束はしていない。」それがノリカさんの主張。
私が取り調べの担当や検察、裁判官だったらノリカさんに言われたら信じてしまいそうだ。
だが、大悟の経験を信じてノリカさんを疑わなければ。

大家さんに連絡を取るのかと思ったが、先にハナちゃんに会いたいそうだ。
木村さんの証言では大家さんは親からの相続でコーポを手に入れているため、住人との関係がわからないので慎重にいくそうだ。
被疑者の少し年上だが、男だから訳ありの住人に圧力をかけているかもしれないからと。
圧力？と思ったが、ノリカさんのことを思い出して女性に肉体関係を迫っていたかもしれないということだろうと思い至った。
分かる範囲では現在の大家さんが自分で選んだのはパク君だけだ。
買い物だけなら午前中だけだろうから午後にもう一度ハナちゃんを尋ねることに。
出発時間を合わせてそれまで私は報告書の続き、先輩はノリカさんのことをもう少し調べることになった。

ハナちゃんが家にいないことが分かった時点で木村さんかノリカさんにハナちゃんがどこに行って何時に戻るのか聞けばよかった。
近くの小さい駅からではなく隣のもう少し大きい駅から来るバスの時間似合わせて、バス停で張り込んだ。
若い女性だということくらいしか分からなかったのにハナちゃんが分かるのか気になり聞いた。
先輩は「普段引きこもりなら、他の人と挙動が違うから。」とバス停から目を離さずに言った。
挙動が違う。
どう違うのだろう。
男なら違うのがすぐに分かるが、女、まして若い女は世間に馴染む。
私は、きっと、見分けがつかない、自信がない。

バスは来たが、先輩は動かなかった。
若い女は３人降りた。
そのうち１人がコーポの方へと向かった。
先輩は一瞥したがすぐにバスへと目線を向けて何かを確認して、「乗ってない、これの前だったかもしれない。」とコーポへ向かうことになった。