ギソコン~ワケあって偽装婚約した彼は、やり手のイケメン弁護士!?~

深海 なるる

文字の大きさ
45 / 46

44話 初恋の人

しおりを挟む
「ちょ、ちょっとタツキ君っ!? い、いま冬馬先生の事、私の『初恋の人』って言ったよね!?」
 私は今度こそこの謎を解き明かそうとタツキ君を問いただした。
「あ、ああ……」
「それ、どういう事? なんで冬馬先生が私の初恋の人だって分かったの?」
「え? だってお前そんなの……え? チヒロ、まさか自覚ないのか?」
 私の問いにタツキ君はあきれたような表情で尋ねかえした。
 自覚?
 自覚って何の?
「だってお前、そんなのこの人と会えば一目瞭然だろ。なにしろ……そっくりじゃないか」
 タツキ君は自身の正面に立っている先生の顔とベンチに座る私の顔を交互に見る。
「そっくり?」
「ああ、どう見てもそっくりだろ?」
 え?
「先生が誰に似てるっていうの?」
「誰ってそりゃ……センパの、レンに」
 え、えええええぇっ!?
 レ、レン!?
 先生がレンに……似てるっ!?
 衝撃を受ける私にタツキ君はさらに追い打ちをかけた。
「いや、きっと順番が違うんだな。レンが似てるんだ。お前の初恋の……四宮さんに」
…………!!
 そ、そんなっ!?
 そんなことっ……ない、とは言えない。
 た、確かに。
 確かに似てるんだよ!
 切れ長の瞳も、スラッとした体形も。
 それに何よりあの責任感の強い性格も。
 レンのアイドルらしからぬ、あの凛としたたたずまい。
 目の前に颯爽と立つ冬馬先生に、めちゃくちゃそっくりじゃないかっ!
 う、うわわっ、私、レンが好きだって家族にも友達にも言いまくってて、今も部屋にはポストカードをはってる!!
 家出する前はリビングでライブのDVDを見ながら『やっぱり、レンが一番カッコイイよね~』なんてはしゃいじゃってたよ。
 わ、私の冬馬先生への恋心なんて……とっくにバレバレだったんじゃん!!
 お父さんにも、お母さんにも、お姉ちゃんにもぜーんぶ筒抜けだったの!?
 マジか!
 は、恥ずかしすぎるっ!
……そりゃ、こんなに似てちゃ萌ちゃんやチカさんにも一瞬でばれるはずだよっ……。
 心の中でひとり悶えていたら先生が困惑した顔で私に問いかけた。
「あの、千尋さん? センパのレンって……誰です?」
 あれ?
 ばれていないのは唯一冬馬先生本人だけ?
「先生、知らない? アイドルユニット聖パイレーツのリーダー」
「千尋さんが以前からどなたかのファンだという事は承知しているのですが……すみません、芸能人には詳しくなくて……」
「千尋ちゃん、めちゃくちゃセンパのレンのファンなんですよ。自分の子供にも同じ名前を付けるくらい」
 チカさんがニヤニヤしながら先生に説明してくれる。
 ううっ、チカさんめ、確実におもしろがってるな。
 くそぅ、せめて今朝教えてくれてたら今、先生の目の前でこんな思いをしなくてすんだのに。
『秘密』だなんて、チカさんのバカッ……なんて、思ってゴメン。
 私、完全に八つ当たりしてる。
 だってね、ずっとずっと隠してたつもりの恋心が周囲にはバレバレだったんだよ。
 私もう、いますぐ逃げ出したいくらいに恥ずかしくってたまらない!
 でも、そんな私の気持ちを知らない先生は私の隣に腰かけると甘く囁いた。
「蓮さんの名前は千尋さんがずっと応援している方から頂いたものでしたか。それは……光栄ですね。蓮さんの名前の由来になった方と似ているなんて、これ以上に嬉しいことはありませんよ、千尋さん」
 冬馬先生はそれはもう嬉しそうに蕩けるような笑顔で私に微笑みかけた。
「センセ……」
 そ、そんなにカッコイイ顔で優しく見つめられたら私、嬉しすぎて舞い上がっちゃう……。
 も、もう、心臓はドキドキするし、頬だってさっきから火を噴きそうに熱い。
 私は先生の甘い眼差しに耐え切れず瞳をそらした。
 そんな私の頭上でチカさんがボソッと呟いた。
「あのさ、蓮くんの名前の由来はセンパのレンだとして、そもそも千尋ちゃんは四宮さんに似ているから無意識にレンのファンになったわけで……」
 うん。
「つまり、蓮くんの名前のルーツってまわりまわって結局四宮さんって事になるんじゃないの…‥‥?」
 ええっ!?
 そ、そうなの? 
 そう、なるの……?
 そうだったら嬉しいけど。
 だから先生はこんなにご機嫌なの……?
「はぁぁぁ、そうかー」
 急にタツキ君が両手を頭上に上げて大きく伸びをした。
「じゃあ、間違いじゃなかったんだな……『蓮』という名前は」
 蓮。
 この名前、タツキ君が付けてくれたんだよね。
 父親から息子へのはじめての贈り物。
「うん、間違いじゃなかったみたい……タツキ君、ありがとう」
 今までのすべてを込めて。
 ホントに、ホントにありがとう。
「……お礼を言いたいのは俺の方だよ」
「ううん。私ね……タツキ君がセンパのレンの事、バカにせずに聞いてくれて、それどころか『俺も一緒に推すよ』って言ってくれた時、ホントに嬉しかったの。私さ……全部捨てて家を飛び出したでしょ? そのせいで中学の頃からずっと秘めていた先生への想いさえ許されなくなった気がして、ホントはスゴク……苦しかったみたい」
 あの時の胸の痛みの理由が今頃分かるなんて。
 ホント私って鈍感だ。
「そうか、お前さ……四宮さんへの恋心を隠さなくちゃいけなかったから、逆に堂々と好きだと言えるアイドルに夢中になってたのかも知れないな」
 タツキ君のこの言葉にハッとする。
 そんな事、今まで思いもしなかった。
 自分が姉の恋人に横恋慕しているのかも? と気が付いた中学生の頃から先生への想いを隠して過ごしてきた。
 親友の萌ちゃんとも恋バナだけは出来なくて……。
 でも、そんな私もアイドルのレンの事なら大好きだと声に出して言えた。
 今思えば、そうやって心の隙間を埋めていたのかも知れない。
「うん、きっと、そう……だからタツキ君が私の想いを肯定してくれた時、心の奥に秘めた先生への想いも認めて貰えたように感じて嬉しかったのかも?」
「チヒロはさ、今も昔も変わらず、ずっと……四宮さんの事が大好きなんだな?」
 タツキ君はキリッとした綺麗な形の眉を片方あげてニヤリと笑った。
 え? タ、タツキ君?
 と、冬馬先生の目の前でそんなこと聞く!?
 私は一瞬返事に詰まった。
 タツキ君の顔を見上げ、何度か口を開いては閉じる。
 ううっ、横から痛いほど先生の視線を感じる。
 そっちを見る勇気はない。
 い、言わなきゃダメ?
 でも、うん、もう言葉にしてもいいんだもんね。
 私さ、ちゃんと言うよ。
「うん……そう、そうだよ。私は先生の事が好き……。駆け落ちする前も、してからも、いまだってずっと……大好き。この想いは多分、一生変わらないと思う」
 私もタツキ君の真似をしてニヤリと笑い返してみるけど……上手くできたかは分からない。
「……分かった、じゃあ、俺これからは……チヒロと蓮とそれから……四宮さんの事を『推す』事にするよ」
「タツキ君……!!」
 今日、こうしてタツキ君と和やかに話をする事が出来るなんて、少し前の私には想像も出来なかった。
 タツキ君が姿を消した時は不安でいっぱいだったよ。
 あの時は私自身も限界を感じていて先が見えずにいた。  
 だからね、今タツキ君とこうして笑いあえるだけで、私は嬉しいの。
 いつも私の背中を押してくれるタツキ君。
 私、タツキ君の事も大好きだよ。
 もちろん、チカさんもお姉さんも。
「ねえ、千尋ちゃん。もう、レンのファンはやめちゃうの?」
 ふいにチカさんが尋ねた。 
「え? まさか!」
 私は即座に否定する。
 レンのファンをやめるなんてありえない!
 先生と両思いになれて長年の片想いは成就したわけだけど、それとこれとは話が別!
「あのね、チカさん。私ね、好きになった人はずっと好きなの。けっこうしつこい性格なんだよ。だからね、レンのファンはやめないよ」
「うわ……千尋ちゃんらしい返事」
 チカさんは呆れたように呟いた。

「ねえ、千尋さん? 私とその方って……そんなに似てます?」
 先生の長い指がスッと伸びてきて私の顎をとらえた。
「え……?」
 先生の方を向くよう大きな手が優しく導く。
「センセ……?」
「どうです? ほら、よく見て、千尋さん」
 先生はほんの少し首をかしげて瞳を細めた。
 う、美しい……。
 切れ長の黒い瞳に吸い込まれそう……。
 私たちはしばし見つめあった。
「よ、良く、似てる……と思う。なのにどうして今まで気が付きもしなかったんだろう? 私やっぱり……わざと気が付かない様にしていたのかな?」
 先生への秘めた恋心に押しつぶされない様に。
「千尋さん……」
 あ、ごめんなさい、しんみりさせちゃったね。
 でも。
「も、センセッ、離して……」 
 私の声が上ずる。
 も、ダメだよ。
 限界!
 心臓が止まりそう。
 かっこよすぎて直視できないよ!
 だ、だってめちゃくちゃ好みの顔なんだもん。
 こんな間近でみつめられちゃ、ときめかないわけがない!
 こ、こんな姿を友達にさらすなんて、勘弁してよ~!
 心の中で大騒ぎする私の事なんてお構いなしに先生は真顔でこう囁いた。
「私の方がいい男でしょう?」
…………!!
 ぷっ、先生っ!
 その自信はどこから来るんだ?
 でも、そうだね。
 先生は最高にいい男だよ。
「私の部屋にポストカードを貼ってるから……見る?」
「ええ、あとでお部屋にお邪魔しても?」
「う、うん……」

 わ、私、先生を部屋に誘ってしまった……!!

「んんんっ、ゴホン」
 頭上からわざとらしい咳が響いた。
 チ、チカさんっ!?
「ねえ、二人がラブラブなのは分かったから、いちゃつくのは二人きりの時にしてくれる?」
 ひいぃぃぃっ!
 恐る恐る声の主を見上げたら、チカさんのかわいい目が……座ってる!
「タツキ、この二人、朝からずっとこんな調子だからね。もうっ、僕の目の前でどれだけイチャイチャされたことか!」
 朝はキスしてるところを目撃させてしまったし……チカさんホント、ごめんなさい……。
 これ以上怒らせない様に先生から少し離れたところに座りなおす。
 足は、そう痛まなかった。
 ああでも、両手を腰に当ててぷんすか怒るチカさんはやっぱりかわいい。
「あ、ところでタツキ。千尋ちゃんが受け取った金の事なんだけど……あれ、本当にお前じゃないの? 福岡の親父さんの所に行くまえに千尋ちゃん達に金を渡そうと思って入れてったんじゃ……?」
 チカさんの問いにタツキ君は首を振る。
「いや、本当にそれは俺じゃない」
「じゃあ、いったい誰が……」
 チカさんは途方にくれた様子で私を見下ろした。
 正直、タツキ君は否定していたけど今の今まで本当はきっと彼がお金を入れてくれたんだろうと思っていた。
 だけど、目の前のタツキ君は嘘をついているようには見えない。
 タツキ君じゃないなら誰が私にあんな大金をくれるっていうの……?
「千尋さん、それならもう私には見当がついています」
 え? 先生?
「先生は分かってるの?」
「ええ、金額が金額ですからね……簡単な推理ですよ」
 先生はまるでテレビの名探偵のようなセリフをいってフフンと笑う。
「千尋さんのアパートの新聞受けに百十万円を届けたのは……あなたですよね」
 先生はおもむろに顔を上げチカさんの方を見上げた。
 え? チ、チカさん!?
 チカさんなの?
 チカさんは心底驚いた様子で目を見開いた。
「そうでしょう……裕翔」
 ゆうと? 
 先生の口から出た思いがけない名前に一瞬思考が付いてゆかない。
 ゆうと? 裕翔って……。
 先生の視線を追ってチカさんとタツキ君が振り返る。
 そこに立っていたのは……シノコウの横井さん!?

 えぇぇえ!? 
 私にお金をくれた人はまさか……横井さんなのぉぉお!?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

うわさの行方

下沢翠花(しもざわすいか)
恋愛
まだ十歳で結婚したセシリア。 すぐに戦場へ行ってしまった夫のニールスは優しい人だった。 戦場から帰るまでは。 三年ぶりにあったニールスは、なぜかセシリアを遠ざける。 ニールスの素っ気ない態度に傷つき疲弊していくセシリアは謂れのない酷い噂に追い詰められて行く。

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

結婚したくない腐女子が結婚しました

折原さゆみ
恋愛
倉敷紗々(30歳)、独身。両親に結婚をせがまれて、嫌気がさしていた。 仕方なく、結婚相談所で登録を行うことにした。 本当は、結婚なんてしたくない、子供なんてもってのほか、どうしたものかと考えた彼女が出した結論とは? ※BL(ボーイズラブ)という表現が出てきますが、BL好きには物足りないかもしれません。  主人公の独断と偏見がかなり多いです。そこのところを考慮に入れてお読みください。 ※番外編に入り、百合についても語り始めました。  こちらも独断と偏見が多々あるかもしれないのでご注意ください。 ※この作品はフィクションです。実際の人物、団体などとは関係ありません。 ※番外編を随時更新中。

【本編完結】厄災烙印の令嬢は貧乏辺境伯領に嫁がされるようです

あおまる三行
恋愛
王都の洗礼式で「厄災をもたらす」という烙印を持っていることを公表された令嬢・ルーチェ。 社交界では腫れ物扱い、家族からも厄介者として距離を置かれ、心がすり減るような日々を送ってきた彼女は、家の事情で辺境伯ダリウスのもとへ嫁ぐことになる。 辺境伯領は「貧乏」で知られている、魔獣のせいで荒廃しきった領地。 冷たい仕打ちには慣れてしまっていたルーチェは抵抗することなくそこへ向かい、辺境の生活にも身を縮める覚悟をしていた。 けれど、実際に待っていたのは──想像とはまるで違う、温かくて優しい人々と、穏やかで心が満たされていくような暮らし。 そして、誰より誠実なダリウスの隣で、ルーチェは少しずつ自分の居場所を取り戻していく。 静かな辺境から始まる、甘く優しい逆転マリッジラブ物語。 【追記】本編完結しました

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

処理中です...