あまーいマスクの佐藤先生に塩対応!~ちょっと! イケメンが本気出したら私なんか太刀打ちできないって!~

深海 なるる

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1章

1話 ちょっと! イケメンが本気出したら私なんか太刀打ちできないって!

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「中山先生!」
 職員室前の廊下で名前を呼ばれて私は振り返った。
「あ、今井先生」
 六年二組の担任の今井梨花先生だ。私より二歳年上の二十六歳。小柄な体格で長い髪が素敵なかわいい人だ。
 昨年、私が初任でこの小学校に勤め始めた時からとてもお世話になっている、頼りになる先輩だ。……ひそかに私は憧れていて、先生の真似をして髪を伸ばし始めた。……今はちょうど肩に届いて毎朝はねを直すのに苦労しているけど。
「中山先生のクラス、明日校区探検だったよね?」
「はい、明日は校区の東側を探検しに行きます」
 今井先生は私が担任している三年生のスケジュールもきちんと把握している。さすがだな~!
 あ、校区探検っていうのは、三年生の社会科の学習で自分たちが住んでいる地域がどういうところなのかを調べるために実際に街を歩いて回るのだ。
 明日は校区内に建っている図書館などの公共施設や公園、史跡などを三、四時限目に見に行く予定だ。
「それが、さっき天気予報を確認したら、明日の天気が雨に変わっていたの」
「え? そうなんですか?」
 探検に行くとき子供たちは行く先々でメモを取ることになるので傘をさして行くのは難しい。おそらく日程は変更になるだろう。
 しかし、今井先生、わざわざ教えてくれるなんてホント優しいな~。ありがたい。
「保護者の見守りボランティアさんに連絡することになるかもね、あ、ヤバイ、面倒くさい人が来ちゃったから私行くね~」
 今井先生は急に振り返るとさっさと廊下を歩いていく。私の後ろから、
「ちょっと、今井先生~、逃げないで話を聞いて下さいよ~!」
 と何だか気の抜けた声がした。見なくても誰だか分かる。

 私が勤める小学校には残念なイケメンが二人いる。
 彼はそのうちの一人、六年三組の担任、佐藤俊哉先生だ……。

「あ、葵先生、お疲れ様~」
 佐藤先生は私の事を良く下の名前で呼ぶ。彼は二十九歳で私よりは五歳も年上だ。……でも何だか子供扱いされているようでイヤだ。
「佐藤先生、児童が真似するので名前で呼ぶのはやめて下さいって、いつも言ってますよね」
「そうだけど、中山先生より、葵先生のほうが呼びやすいし……」
 佐藤先生は叱られた子犬の様にうなだれた。
 この人、年上なのになんだか頼りないところがあるんだよね。
 いい人はいい人なんだけど。
 子供たちとの接し方も保護者への対応も誠実で、同僚からの信頼も厚い。
……おまけに甘いマスクのイケメンだ。童顔でかわいらしい顔立ちなので年齢よりも随分若く見える。
 ただ、残念なのは……今井先生の事が好きすぎるのだ。
 毎日の様に熱心にアプローチしてはことごとく振られている。
 今井先生は『もう、何回断ったかおぼえていない』そうだ。
 教頭先生なんかはあきれて『今井先生、いい加減、一回ぐらいは食事してあげたら?』というものの今井先生はツレナイ。
『そんなことしたら彼氏に殺されます』だって。今井先生は最近付き合い始めたカレシさんとラブラブなのだ。うらやましい!
 昨年今井先生や事務の原先生達と、地元で有名な縁結びの神社にお参りした。そしたら『早速効果があったみたい』と恋人が出来たことを嬉しそうに報告してくれた。
 神様、私にもそろそろ出会いがあってもいいと思うんですが……。現実は厳しい。
 佐藤先生だって本当はすごくモテるのにもったいないと思う。今井先生をあきらめたら即彼女が出来るだろう。実際、事務の原先生は佐藤先生に話しかけられるといつもポーッと先生の整った顔を見つめている。
 私だって初めて会ったときは素敵な人だなぁと思ったもん。
 でも、その気持ちは今ではすっかり冷めてしまった。
 今ではただのあきらめの悪い残念な人にしか見えない……。

 そう思っていたのに……。
 まさか、わが校が誇る二大残念なイケメンのひとり、佐藤先生の恋の標的が今井先生から私に移る日が来るなんて……!

 ちょっと! イケメンが本気出したら私なんか太刀打ちできないって!

 翌日はあいにくの天気で校区探検は晴れた日に振り替える事になった。
 子供たちはとても楽しみにしていたのですごくがっかりしていた。
 校外学習楽しいもんね。気持ちはわかるよ。
 まあ、もともと六月に校外学習をしようというのが無理な話だ。だって、梅雨の真っただ中じゃん……。つい最近まで運動会の練習で忙しかったからこのタイミングになってしまったのは仕方がないことだけど……。
 結局、雨は降ったりやんだりを繰り返しながら三日ほど過ぎた金曜日。
「うーん、こういう日は危ないね」
 昼休みに職員室で佐藤先生が窓の外を見ながらつぶやいた。しとしとと降る雨が校庭に大きな水たまりを作っている。
「どういう事ですか?」
 その返事を聞く前に職員室のドアの方から私を呼ぶ声がした。
「中山せんせー! 南君がケガしましたー!」
「ええっ!」
 私が受け持っている三年三組の児童たちだ。私はあわてて子供たちに駆け寄った。
「ひどい怪我なの?」
「ううん、でも、保健室の先生が中山先生を呼んできてって! あ、佐藤先生も来てくださいって言ってました!」
 佐藤先生を振り返ると、
「え、僕も? これは嫌な予感的中かな……?」
 先生は少し困ったような顔をしたあと急にきりっと表情を引き締めた。凛とした佇まいが美しい……。
「ほら、中山先生行くよ」
「は、はいっ」
 彼が普段まとっている柔和な雰囲気とギャップがありすぎてちょっとだけ見とれてしまった……。

 保健室まで子供たちと連れ立ってぞろぞろと移動した。養護の山下先生が子供たちをつかいに出したという事は本当に怪我はたいしたことがないんだろう。
 病院に連れて行くような大怪我をしている場合は保健室から直接職員室に電話がかかってくる。きっと南君を心配した子供たちが保健室の前にあふれてしまったに違いない。それで小さな野次馬を減らそうとおつかいに出したんじゃないかな……。
 案の定、保健室の前にも私のクラスの児童たちが集まっていた。
 怪我人と付き添いの保健係以外は保健室に入らないルールがあるため子供たちを廊下に残して私と佐藤先生は保健室に入った。
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