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最初の七日間
1日目 もうどうにでもなれって思ったよ
しおりを挟むんーと。
ちょっと自分の置かれた難しい状況を一度整理してみようと思う。
『買い物帰りに不思議な現象によって異世界に連れてこられたら、帰れなくなった』
あ、なんか一行で終わってしまった。
いやいや、もっといっぱいあるでしょう私。
諦めるな私。
ねばーぎぶあっぷですよ私。
もっと大事な事があるでしょう?
そうそう、異世界に連れてこられたら、女の子になってた。
これだ。
これが一番重要で、一番意味がわかんないこと。
私こと雪平海吏は、男の子だった。
うん。
朧げな記憶を集めて頑張って処理してみたら、私は確かに男の子だ。
小学校と中学校は男子として学校に通っていたし、初恋の相手は中学の先輩女子だった。
思春期まっさかりで相応に異性に興味津々だったし、そういう知識もそこそこ持ってる。
だけど、今の私を見てみよう。
細い腕、細い足、細い腰。
ぺったんこな胸に、どんなに触っても見つからないアレ。
そもそもこの髪の毛はなんだ。
銀髪じゃん。
銀色の髪って初めて見たぞ?
いわゆるウィッグとかカツラとか、不自然なブリーチやカラーリングで出たケバケバしい色じゃない。
モノホンの銀髪さんや。
お尻まで届く、自分で言うのも変だけど綺麗な銀髪をしている。
おかしい。
私は日本人だ。
記憶が確かならば、祖父母も両親も日本人で、外人さんとのハーフやクォーターでは無い。
こんな髪の色で生まれてくる遺伝子は一切存在しないはずだ。
ていうか、ナチュラルな銀髪の外国人ってまず居ないはず。
そもそもだ。
一番おかしいのが、私が女である事を私が一番自然に受け入れている事。
頭がおかしくなっちゃったのだろうか。
状況がまずおかしいから、あながち間違ってないのかも知れない。
普通の人だったら、男から女に変わってしまったら違和感バリバリで困惑するだろうに、私はそもそも違和感を覚えていない。
いままで女として生きてきたかのように、それが当たり前だったかのように馴染んでしまっている。
でも確かに男の子だった。
身長は175センチ。体重は69キロ。
身長の割に細身だった事を気にしていて、こっそり筋トレに励む程度には鍛えていた。
その所為か見た目より筋力だけはあって、勉強より運動が得意な男子。
それが雪平海吏、十六歳だ。
ところがどっこい。
今の私はおそらく150センチも無く、体重なんて多分すっごい軽いだろう。
なんせラシュリーさんが私を膝に乗せる時、驚く程軽々と持ち上げたのだから。
あんまりにも簡単に持ち上げるせいで抵抗する事すらできなかったのだ。
自分が男の子から女の子に変わってる事。さっき一回エリックさんにカミングアウトしてみたけれど、冗談だと思ってるのかなんのレスポンスも無い。
うむー。
鏡は無いですか!
今の私の姿を確認できるようなものが欲しいです!
と言いたいけれども、なんだか言いだし辛い。
なぜならエリックさんとラシュリーさんは私そっちのけで私のこれからについて語りあってて、口を挟むタイミングが見つからないのだ。
まって。当事者を置いてかないで。せめて話に参加させて。
「つまり、他の研究者の協力は見込めない。と言うよりはカイリ君が異世界から来た事は出来るだけ伏せた方が良いと思うんだ。この真紅の瞳、これは間違いなく魔眼だと思うから」
「異世界から来た魔眼持ちの女の子……、そうね。あんまり広めたくない話よね。王立魔法研究所からして見たら良い研究材料にしか映らないもの。カイリがアイツらに捕まって色々されるなんて思うと想像だけで腑《はらわた》煮えくり返るわ」
「今のところ異世界の存在を証明できる存在はカイリ君一人だけだからね。どんな無茶な実験をするか分かんないぞあの狂人どもは」
あれ?
なんか怖い話してない?
「あの……、わ、私何されるんですか?」
き、聞いとかないと。
これは分かんないままじゃ済まされない話だと思うの。
「ああ、安心してカイリ! 貴女をあんな○狂いの巣窟になんか行かせるものですか! エリック、良い事を思いついたわ!」
「な、なんだいラシュ?」
説明……してくれないんだぁ。
怖い話が怖い話のままなんだよ。
それはとっても嫌なんだよ。
「カイリは私達グランハインドの者が面倒を見ます! こんな可愛らしい女の子をこんなボロボロのお屋敷に置いておく訳には行かないわ! 夜はエリックしか居ないし、通いの使用人もお昼からしか来ないのよここ! お風呂だって毎日入れるような余裕も無いし! そもそも女の子の身支度が出来る使用人なんてアナベラおばあさんだけじゃない! ダメよそんなの! なら、ここから道を一本挟んだ私の家に来た方が良いでしょ!? エリックもすぐ来れるし、なんならすぐに呼べるもの! ええ! それが良い! とっても良いわ! ねぇ!? そう思うでしょカイリ!」
「ふぇ」
そ、そんな急に言われても。
そりゃあエリックさんと二人っきりっての言うのもちょっと気まずいけれど。
「あ、あの、その、し、しようにんさんなんて」
大丈夫だよ!
私自分の事はけっこうなんでもできるタイプの若者ですよ!
使用人さんなんて居なくてもやってけると思います!
なんて言葉が吃りまくって上手く言えない。
「ま、まぁ。なんだか酷い様にに言われてるけれど、ラシュの言う通りだと思うよ。僕んとこよりご飯も豪華だし、使用人だって沢山いるし。なにより身の安全と言う意味でならグランハインド伯爵家の別宅はこの王都エルワールでもっとも安全な場所の一つだ。五戦家の一角、イセトの軍神に楯突くような輩はよっぽど身の程知らずだからね」
あの、待って。
なんだか情報量が多すぎてぐるぐるしてるから。
もう少し待ってくださいお願いします!
「そうね! グランハインド家に喧嘩を売ってくるなんてセブンセイズ王国の民なら考えもしないと思うわ! 本物の馬鹿か本物の勇者しか居ないでしょうね! ねぇ、お父様やお母様、お兄様やお姉様にはカイリの事情を話してもいいでしょう?」
え?
つまり、どういうことですか?
もうラシュリーさんの家にお世話になる事は決定してしまったの?
私、うんって言ってないよ!
「そりゃあまぁ、別宅の近くであんだけの爆発を起こしたんだから伯爵には事情を説明しないと仕方ないけれど。ていうかラルフには是非協力して貰いたいんだよね。カイリ君を元の世界に戻すには僕一人だと取りに行けないような材料や魔石が必要だと予想できるから。アイツの力と行動力を貸して貰わないと。ミレイシュリーは、なんだろう。背筋にとっても冷たいモノが走るんだけど……」
「決まりね! お姉様きっと喜ぶわ! こんなに可愛い子と一緒に暮らせるんだもの!」
「わぷっ」
顔を真っ青にして俯いたエリックさんを置き去りにして、ラシュリーさんはまた私に抱きついて来た。
どうしよう。
なにもわかってないまま、わかんない場所に連れていかれようとしている。
いいや。
もうどうにでもなーれ。
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