Monoculus モノクルス 戦う神父と魔物の男との禁断の愛

TA-gu

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23話 残酷な美しき青

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林の中を2人は進んだ。朝に眠りできる限り夜に移動する。
ウィリアムの薬の影響は日に日に薄くなっていく。
食事が必要なときは適当な村に忍び込み、立派な墓は狙わず簡素な墓を狙う。土の色が黒いものが最近埋葬された墓だ。そういうものは土が柔らかいから掘るのも楽だった。ウィリアムの食事は7日に一度の頻度になっていた。

もうすぐ・・・彼は完璧に力を取り戻すだろう。それを喜んでやるべきだが、ギルバートは暗澹たる気持ちになる。
彼が力を取り戻せば、今のように近い距離で彼と触れ合う事は難しくなるからだ。
ウィリアムは自分で言う通り毒気のコントロールができない。薬の後遺症で余計に不安定になっていたが、元々そうなのだ。
長い時を生きて「少しならできる」というが、そもそもディアヴァルの出す毒を至近距離で浴びるのは自殺行為に等しい事だった。


街道を行かぬ旅は過酷だった。特に人の身であるギルバートには。
畑で野菜を盗み、捕まえたウサギを捌いて食う。
薬の影響はいつまでなのか予測が難しい。どれほどの量を投与され、それがどれほどの強さなのかギルバートは知らなかった。
そもそもスペンサーですら理解していたのかどうかわからない。
立ち寄った村でそれとなく自分たちの噂を聞き込む。だが人々の口には、怪物と逃げた神父の噂もブルーという特別なディアヴァルの噂も上る事はなかった。かん口令が敷かれているのだ、とギルバートは思ったが、それが自分たちを追っていない証拠にもならず、だから結局は用心に用心を重ねるしかなかった。

見つけた廃屋で、それらが見つからなければ林の中でさえ二人は未練がましく体を繋ぎ合った。日に日に力を取り戻すウィリアムに、いつまでこうしていられるのかわからないという焦燥感が余計に二人を熱くさせた。

「うっ、あ、いい、もっと」

ウィリアムの懇願に応じてギルバートは彼を後ろから激しく揺さぶっていた。
村から随分離れた場所の廃屋を見つけ、そこに腰を落ち着けた夜だった。
申し訳程度にあった小さな暖炉にくべた薪はまだかすかな音をさせて赤く色づいていた。
彼には大きいシャツをたくし上げたウィリアムの、その背中の筋肉が炎の明かりを受けて美しく躍動し、思わずそこに口づける。

「あぁっ!!!ああ!」

ウィリアムが絶頂と共に背中を反らした瞬間だった。
ぶわり、と突然青い霧が彼の背中から立ち上った。

「うう、あっああ・・・・」

眼帯をしていない瞳で見たギルバートは思わず手を離し、ウィリアムから数歩離れると素早く自分の乱れた法衣を掻き抱く。

ウィリアムの背中は青く変色していた。

それはまるで輝く鱗のように美しかった。だが彼の体から噴き出すものは、紛れもなくディアヴァルが出す毒だった。
「ウィル・・・・」
「あぁ・・・ギル・・・あ・・・」
ウィリアムがギルバートの方を振り向いた。そこにはいつものような青く美しい瞳ではなく、黒い眼球の中に煌々と輝く金色の瞳があった。
「っ!!!」
魔物の瞳の色だ。その色がとても美しくてギルバートは思わず息を飲んだ。

だが事態は思わしくはなかった。彼の体から噴き出る毒気は時に渦を巻き時に擦れ、様々な形に姿を変え一向に安定しない。時折ギルバートを飲み込もうと襲い掛かるように鋭く立ち上っては、躊躇するように引いていった。
ウィリアムは体の一部と瞳を変色させたものの、うつ伏せになったまま荒い息を吐きながら自分を掻き抱き丸まっていた。
「あぅ・・・うううう・・・だ、め・・・だ」
己の変化を止めるために必死に抗い苦しんでいた。
「ウィル、落ち着け、息をしろ」
ギルバートは駆け寄って抱きしめる事ができないもどかしさが募った。
やがて、ウィリアムは眠るように気を失った。
薬で抑えられていた反動か、自身の力の解放に耐えられないようだった。 
意識のない彼の周りにはまだ、彼を守るように立ち上る青い霧があった。





どれほどの時間だったろうか、空が明け始めた頃になってようやくウィリアムの体が通常の肌の色を取り戻していった。
それに呼応し、青い霧は徐々に収まっていく。しばらくすると、彼の周りに薄ぼんやりとした毒の気配を見るだけになった。
だが、それは確実にそこにある。ギルバートは悟った。彼は完全に力を取り戻したのだ。
もう今までのようには彼と触れ合えない。それでも良いではないかという想いと、それがとてつもない重大な転換点であるという現実とがせめぎ合う。

触れ合えない事が一番の問題ではない。
触れ合えない二人の、いかんともし難い隔たりを目の当たりにしたのだ。その隔たりがそのまま二人のこれからの困難を物語っていた。だからと言って解決策などない。

「・・・ギル・・・・」

小さな呼びかけでウィリアムが覚醒した事をギルバートは知る。
「ここにいる」
ギルバートは離れた場所から応じた。
「・・・おれ・・・おれは・・・ああ・・・うううっ・・・・」
ウィリアムは丸まって泣き始めた。自分の肉体の変化を一番理解しているのは彼自身だろう。己の力を、彼は認識し、そして悟ったのだ。
もうギルバートとは二度と抱き合えないという現実を。


「俺は完璧に毒をコントロールできない・・・グレイはしていたから、きっと不可能じゃないはずなのに」
毛布に体を包んでウィリアムはしょんぼりとそう言った。
「こんな体になった事を、これほど後悔する日があるなんて思わなかった・・・・」
法衣にしっかりと身を包んだギルバートは、静かに立ちあがると、ウィリアムに近寄って毛布ごと彼を包み込んだ。
感じるウィリアムの青い毒の気配。だが今それは静かに彼の周りを薄く包んでいるのみだ。法衣を着ていれば、どうにかやり過ごせる程度のものだった。
「近づくな・・・危ない・・・から」
「大丈夫だ、俺はモノクルスだぞ」
ウィリアムを包み、金色の髪に口づけを落としてギルバートはウィリアムに語りかけた。
「元、だろ、、、」
拗ねたように言うウィリアムにギルバートは安心した。どうやら彼は落ち着いたようだ。
「お前が変化した時、ちょっとだけ驚いたけど、綺麗だったよお前は」
「慰めは・・・いらない、あんなの、綺麗なわけない・・どんなひどい姿か、俺が一番よく知っている」
「確かに人とは違う、お前が人間じゃないのはもう仕方ない、なっちまったんだ。それにお前がそうなったのは、その、グレイのためだろ?だから苦難に耐えた。お前は生きてグレイと共にありたかっただけだ。魔物になりたかった訳じゃないだろう」
「おれ、知らなかったんだよ、グレイは魔物化しなかったし・・・けど、」
「いいんだ、お前がディアヴァルかどうかはもう重要じゃない、俺にとっては、お前はお前だ、ウィリアム。ただお前が愛おしいよ、例え触れ合えなくなってもそれは変わらない、一緒にいよう」

ウィリアムが毛布から顔を覗かせた。泣いたせいで目が赤い。今はすっかり落ち着いた青い瞳だ。
泣き虫の魔物なんて聞いたことがないな、とギルバートはおかしくなった。ほらおいで、と言うと彼は毛布をまとったままギルバートの胸に体を預けた。
眠りはやってこない。だが穏やかな気分だった。このままここで朽ち果てるまでずっと抱き合っていられればいいのに、とギルバートはそう思った。叶わぬ願いだと知りながら。
そう願わずにはいられなかった。
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