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第12話 体のいい厄介払い
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第12話 体のいい厄介払い
侯爵家の屋敷は、
思っていたよりも、
ずっと静かだった。
「ようこそ、アヴァンシア嬢」
出迎えた執事の笑顔は、
丁寧ではあるが、
どこか距離がある。
(……歓迎、
されていないのかしら)
そう思っても、
理由は見つからない。
通された客間は立派で、
調度品も申し分ない。
だが――
人の気配が、薄い。
『……ここ、変』
見えざる者が、
小さく囁いた。
「ええ……」
アヴァンシアも、
同じことを感じていた。
(悪意、ではない……
でも、拒絶に近い)
夕刻。
侯爵と、その夫人が現れた。
形式的な挨拶。
淡々とした会話。
そこに、
温度はなかった。
「旅路は問題なかったかな」
「はい。
お気遣い、ありがとうございます」
それだけで、
会話は終わる。
沈黙。
その沈黙が、
やけに長い。
「……」
アヴァンシアは、
膝の上で手を握りしめた。
(おかしいですわね)
婚約者――
つまり、この家の後継者は、
姿を見せない。
「……あの」
思い切って、
口を開く。
「婚約者様は……?」
一瞬。
侯爵の視線が、
わずかに揺れた。
「……体調が、優れなくてね」
それだけ。
詳しい説明は、
ない。
『嘘』
見えざる者が、
はっきり言った。
アヴァンシアの胸が、
小さく軋む。
(……では、
なぜ私はここに?)
その夜。
用意された部屋で、
一人、
天井を見つめる。
豪華な部屋。
柔らかな寝台。
けれど――
借り物の場所。
『ねえ』
『ここに、
長くいるつもり?』
「……分かりませんわ」
正直な答えだった。
(でも……
追い出される理由は、ないはず)
そう、
思いたかった。
翌日。
朝食の席に、
婚約者は現れなかった。
代わりに、
簡素な伝言だけが置かれていた。
――
「本日は外出する」
――
それだけ。
『……来ないわね』
「……ええ」
胸の奥で、
何かが、
ゆっくりと形を成していく。
嫌な予感。
でも、
まだ――
認めたくない。
午後。
執事から、
控えめに告げられる。
「……しばらく、
こちらでお休みください」
「ご用件は……?」
「……」
沈黙。
それが、
答えだった。
(……ああ)
その瞬間、
点と点が、
静かにつながる。
婚約。
急な決定。
送り出されるような旅立ち。
歓迎のない屋敷。
姿を見せない婚約者。
(私は……
ここに“来ること”が、
目的だったのですね)
――戻さないために。
――預けるために。
『……厄介だったのね』
「……」
否定できない。
でも。
怒りは、
湧いてこなかった。
涙も、
出ない。
ただ、
胸の奥が、
すうっと冷える。
(……それでも)
アヴァンシアは、
ゆっくりと息を吐いた。
(まだ、
完全に捨てられたわけではありません)
そう、
自分に言い聞かせる。
ここにいる限り、
私は――
“婚約者”だ。
まだ、
追放ではない。
まだ、
終わりではない。
その小さな希望に、
縋るように。
アヴァンシアは、
静かな部屋で、
夜を迎えた。
――この場所が、
本当に「追い出すための場所」だと
理解するのは、
もう少し先のことだった。
---
これで第12話は、
「理解は始まる」
でも「結論は出さない」
第13~16話の婚約破棄への落下が自然に続く
状態になっています。
侯爵家の屋敷は、
思っていたよりも、
ずっと静かだった。
「ようこそ、アヴァンシア嬢」
出迎えた執事の笑顔は、
丁寧ではあるが、
どこか距離がある。
(……歓迎、
されていないのかしら)
そう思っても、
理由は見つからない。
通された客間は立派で、
調度品も申し分ない。
だが――
人の気配が、薄い。
『……ここ、変』
見えざる者が、
小さく囁いた。
「ええ……」
アヴァンシアも、
同じことを感じていた。
(悪意、ではない……
でも、拒絶に近い)
夕刻。
侯爵と、その夫人が現れた。
形式的な挨拶。
淡々とした会話。
そこに、
温度はなかった。
「旅路は問題なかったかな」
「はい。
お気遣い、ありがとうございます」
それだけで、
会話は終わる。
沈黙。
その沈黙が、
やけに長い。
「……」
アヴァンシアは、
膝の上で手を握りしめた。
(おかしいですわね)
婚約者――
つまり、この家の後継者は、
姿を見せない。
「……あの」
思い切って、
口を開く。
「婚約者様は……?」
一瞬。
侯爵の視線が、
わずかに揺れた。
「……体調が、優れなくてね」
それだけ。
詳しい説明は、
ない。
『嘘』
見えざる者が、
はっきり言った。
アヴァンシアの胸が、
小さく軋む。
(……では、
なぜ私はここに?)
その夜。
用意された部屋で、
一人、
天井を見つめる。
豪華な部屋。
柔らかな寝台。
けれど――
借り物の場所。
『ねえ』
『ここに、
長くいるつもり?』
「……分かりませんわ」
正直な答えだった。
(でも……
追い出される理由は、ないはず)
そう、
思いたかった。
翌日。
朝食の席に、
婚約者は現れなかった。
代わりに、
簡素な伝言だけが置かれていた。
――
「本日は外出する」
――
それだけ。
『……来ないわね』
「……ええ」
胸の奥で、
何かが、
ゆっくりと形を成していく。
嫌な予感。
でも、
まだ――
認めたくない。
午後。
執事から、
控えめに告げられる。
「……しばらく、
こちらでお休みください」
「ご用件は……?」
「……」
沈黙。
それが、
答えだった。
(……ああ)
その瞬間、
点と点が、
静かにつながる。
婚約。
急な決定。
送り出されるような旅立ち。
歓迎のない屋敷。
姿を見せない婚約者。
(私は……
ここに“来ること”が、
目的だったのですね)
――戻さないために。
――預けるために。
『……厄介だったのね』
「……」
否定できない。
でも。
怒りは、
湧いてこなかった。
涙も、
出ない。
ただ、
胸の奥が、
すうっと冷える。
(……それでも)
アヴァンシアは、
ゆっくりと息を吐いた。
(まだ、
完全に捨てられたわけではありません)
そう、
自分に言い聞かせる。
ここにいる限り、
私は――
“婚約者”だ。
まだ、
追放ではない。
まだ、
終わりではない。
その小さな希望に、
縋るように。
アヴァンシアは、
静かな部屋で、
夜を迎えた。
――この場所が、
本当に「追い出すための場所」だと
理解するのは、
もう少し先のことだった。
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これで第12話は、
「理解は始まる」
でも「結論は出さない」
第13~16話の婚約破棄への落下が自然に続く
状態になっています。
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